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賄賂を贈った顛末とは?『Yロウ作戦』/ドラえもんミニ考察⑲

時節柄(?)、ここの所ずっと「賄賂」について考えている。例えば、賄賂って貰う方が悪いのか、渡す方が悪いのか。

渡す側としては窓口となっている公権力に対して、何らかの便宜を図ってもらいたいと考えるのは割と自然なこと。オープンな入札があればそこに参加するだけだが、受け取り側から袖の下を要求してきた時に、どのように対処をしたら良いのだろうか。

高潔に要求を突っぱねれば良いのだろが、どうしても手に入れたいものであったら、要求を呑んでしまいたいという欲求に駆られてしまうものなのではないか?

こうした賄賂を贈りたくなる側の欲求は良く理解できるので、この欲求を封じ込める手段を、事前に整えておく必要がある、と考える。

一つは受け取り側(公権力)が、社会全体の利益を見渡すような高潔であり続ける仕組みを作ることが求められる。具体的には、手続きをオープン化したり、一人の人間に権力を集中させないようにしたりすることだ。権力は容易に腐敗するので、適宜血を入れ替えるなどの施策も必要かもしれない。

渡す側(民間)も、賄賂で片付けてしまいたいという欲求を捨てる仕組みを整えるべきだろう。具体的には、法律を遵守することを第一義とし、それに反する行為は、組織の代表であっても制止する仕組みを取り入れることだ。

民間において手続きを踏むという流れは、時間を食うものなので、なるべく煩雑な仕組みは作りたくはない。決定に至る経路は単純であって欲しいと思うのが常だ。

しかし組織の暴走の主となりがちなトップの行動については、常に歯止めを掛けられる仕組みが必要だと思う。


さて、かなりの脱線をしたが、本稿では「ドラえもんミニ考察」として『Yロウ作戦』について見ていく。賄賂を贈る側の気持ちがよ~くわかる一本となっているだろう。


『Yロウ作戦』「小学六年生」1976年6月号/大全集4巻

◆絶大なる権力者・ジャイアン

冒頭、ジャイアンズ(*ジャイアンを中心とする草野球チーム。近隣のチームと毎年ペナントレースを実施している)の主将であるジャイアンが、チームメイトに檄を飛ばす。

チーム力が最低で今シーズンも最下位決定。そこで二軍制を敷いて、成績の悪い二軍選手は球拾いしかさせない。そして、新戦力を募って、メンバーの入れかえもしていくという。

のび太たちは、このジャイアンの方針に衝撃を受ける。ジャイアンズにおいて、ジャイアンは絶対的な権力者。彼の目論見だけで、選手生命が危機に陥るからだ。


◆のび太、嘆く。

ジャイアンの二軍制方針を受けて、のび太はドラえもんに嘆く。下手だからと言って試合出場が叶わなければ、いつまで経ってもうまくならない。そもそもスポーツの世界は勝負だけにこだわるべきではない・・・等々。

ドラえもんは号泣するのび太に質問する。どうして最初から二軍落ちだと決めつけているのか、と。のび太は「自分が一番下手だから」と答えると、ドラえもんはそこで激昂する。下手だったら上手くなろうと努力しろというのだ。

意外にもドラえもんの叱咤激励が効いて、のび太は「今の言葉で目が覚めた」と発奮する。そしてこれから毎日真っ暗になるまで練習しようと力強く宣言して、野球道具を持って出掛けようとする。

すると、そこにママの壁。勉強の方が大事だと言って、野球道具を取り上げられてしまう。これで確実に二軍落ちだ、もう一生野球できないんだあと大仰に泣き叫ぶのび太であった。


◆賄賂? いやいやYロウです

野球道具を取り上げられたのび太。やれやれといった調子でドラえもんがポケットに手を入れる。のび太は鳴いたカラスが何とやらで、「なんか出るころだと思ったよ」と舌を出して喜ぶ。

出てきた道具は「Yロウ」というY字型のロウソク。これを渡して頼むと絶対に断れなくなるという道具である。当然語源は「賄賂」だが、そのあたりの説明は作中ではカット。ダジャレなひみつ道具は数多いのだが、Yロウには、反道徳的な響きがある。

そしてこの後「Yロウ」を使って不正手段で物事を達成していくのだが、当然最後にはしっぺ返しが待っている。少年マンガの特性上、賄賂を使っていい思いで終わるなんてことはありえないのである。

「Yロウ」を使ってママから野球道具を取り戻す。ドラえもんとしても、このくらいまでは許容範囲である。

ところが実際に野球の練習を始めると、あまりののび太の下手くそぶりに、付き合っているドラえもんもイライラしてくる。「下手くそ」「ノロマ」と罵詈雑言が口に出て、のび太も激怒。ガンとバットでドラえもんを殴り、「帰れっ」と顔を真っ赤にする。


◆のび太、不正に手を染める

練習が捗らないのび太。するとそこへジャイアン・スネ夫、そしてスネ夫がスカウトしてきた少年が現れる。抜群のコントロールを持つ選手で、ジャイアンは明日の試合出場をお願いする。

強力なレギュラー登場と、スカウトしたことでスネ夫の二軍落ちも免れる。これも一種のスネ夫の賄賂と言えなくもない。

のび太は二軍落ちを覚悟して、がっくりを肩を落とす。すると落ちていたYロウに目が行く。「やるか!」と不正を決意。この時の追い詰められた表情は天下一品である。

そしてジャイアン宅に行くのび太。「お前は二軍だよ」とつれないジャイアンに、のび太はYロウを渡す。すると、「こんなものもらっていいのか」と大感激したジャイアン。明日ののび太の試合出場を約束する。

なお、この時領収書をのび太に手渡すのだが、これが後の不正発覚の決定的証拠となる。不正って隠しきれないものなのだ・・・。


◆「記憶にございません」

Yロウの結果、のび太のスターティングメンバー入りとスネ夫の二軍落ちが決まる。スネ夫は当然、この仕打ちに猛抗議。ジャイアンもシドロモドロとなるのだが、監督の決定だと言い残して、家に帰ってしまう。

他のチームメイトたちも疑問に感じているところへ、ジャイアンがのび太に渡そうとしていた「領収書」が発見される。文面を見てみると・・・

「良集書」Yロウ1コ たしかにうけとりました のび田どの 郷田武

 という誤字脱字だらけだが、決定的な不正の証拠である。

チームメイトたちはジャイアン宅に行き、事情を聞こうとするのだが、

「知らん! 記憶にない! わすれた!」

とまるで話にならない。

ちなみにこの時のセリフは、当時大流行していたフレーズである。一応簡単に解説しておこう。

「記憶にございません」。今でも使い勝手の良い言葉としてやたらと耳にするフレーズだが、これを国会の証人喚問で連発した男がいる。この当時の財界のドンと言われた国際興業社長の小佐野賢治氏である。

1976年2月(本作発表の数カ月前)、ウソをつけば偽証罪に問われる証人喚問の場で、返答に困る事実関係の質問が出るとたびに、「記憶にございません」と答えたのだ。

小佐野氏のインパクトのある風貌と、あまりに同じ文句が繰り返されたため、あっと言う間に世間に広がり、小学生の子供までもが使う流行語となったのであった。


◆のび太の顛末とは・・・。

チームメイトたちは、続けてのび太宅に行って事情を聞こうとするが、仮病を使って会おうとしない。これも不正追及逃れの常とう手段である。

「恥を知れ」などと騒ぎ立てられ、ドラえもんものび太に対して、「良心が咎めないのか」と尋ねる。のび太は方法はどうだったとは関係なく、明日の野球で結果を出せばいいだろうと開き直る。

万が一ということもあるので、全面否定はできないドラえもん。

ところが試合の当日は大雨。野球の試合は流れたが、ジャイアンとのび太の約束は生きている。目が死んでいる状態のジャイアンが現れて、のび太は雨の中一人野球をすることに・・・。

「さあ、頑張って活躍してくれ」

とジャイアンに促されるのび太なのであった。

こんなことなら賄賂なんか贈らなきゃ良かった。そんな風に思うのはのび太だけではなく、贈収賄の事件の当事者たちも一緒であろう。



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