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伝説のきれいなジャイアン登場『きこりの泉』/ドラえもんミニ考察②

『きこりの泉』「小学一年生」
1984年12月号/大全集16巻

今回は「ドラえもん」の中でも伝説的に語り継がれている「きれいなジャイアン」登場回のお話。


大人も楽しめる!

掲載誌は「小学一年生」だがイソップ童話の「しょうじきなきこり(金の斧)」のビターなパロディ作品として、少々精神年齢の高い作品となっている。僕自身、何度も何度も読んでるけど、その度に笑ってしまうFマニアとしても逸品である。

この話の知名度は高く、それほど熱心ではないドラえもん読者にも知られている。その人気を反映して、藤子・F・不二雄ミュージアムの外庭に出る絶好ポジションに、きこりの泉が設置されている。リアルきれいなジャイアンは一見の価値がある。

元ネタのイソップ童話は、正直者が陽の目を見るお話で、教訓的というよりは勧善懲悪的な気持ちよさがある。真偽の程は分からないが、泉の神さまは日本では女神だが、イソップ童話では男性の神だという。


ドラえもん、駄々をこねる。

冒頭でのび太が嫌いなグローブをジャイアンに取られてしまう。悔しくて泣きながらドラえもんを頼ると、ドラえもんも「パパが僕のどら焼き食べたあ」といって泣いている。のび太にまた買ってもらえばと慰められると、「このどら焼きがいいんだもん」と大人げない。

どうやら掲載誌が「小学一年生」ということで、ドラえもんも子供っぽいキャラクターにしているようだ。


泉のルール変更

ドラえもんは完全などら焼きを求めて「きこりの泉」を出す。このひみつ道具は、イソップ童話と同じように、泉に落とした品物を女神(ロボット)がバージョンアップしたものに変えてくれるというもの。

ただし、良い物を貰うまでの手順が童話の設定と異なっているのが重要ポイント。ルールの変更によって、ラストでのきれいなジャイアンのオチが成立するようにしているのだ。

童話ではきこりがうっかり使い古した鉄の斧を泉に落として、女神が現れて「落としたのは金の斧か、銀の斧か」と聞いてくる。ここで両方とも違うと正直に答えると、金銀の斧に加えて落とした鉄の斧も返してくれる

「きこりの泉」のルールでは、鉄の斧を落としたとすると「落としたのは金の斧か」とだけ尋ねてくる。そこで正直に「違う」と答えると、金の斧だけを渡してくれて、最初に落とした鉄の斧は回収されてしまう。

つまり落としたものとバージョンアップしたものの単純な交換となっているのである。泉に落ちたジャイアンを戻ってこなくさせるための設定変更だと言える。


欲張りジャイアンの悲劇

この泉を使って、ドラえもんは大きなどら焼き、のび太はピカピカのグローブ、しずちゃんは素敵な洋服をゲットする。

女神ロボットは、落としたものを持って現れる時は表情に乏しいのだが、正直に答えると笑顔を浮かべてくれる。

泉の力を見ていたジャイアンは、自分も欲しい物がたくさんあると言って、箱一杯のバットやらゲームやらロボットや車のおもちゃなどを背負って、現れる。

ところが欲張りジャイアンは、重い荷物でよろけてしまって、「きこりの泉」に自分自身が落ちてしまう。


きれいなジャイアン誕生!

落ちたジャイアンに反応して、女神ロボットは「これですか」ときれいなジャイアンを出してくる。体型には変化はないが精悍な顔つきのジャイアンである。ドラえもんとのび太は反射的に、

「いえ、もっと汚いの」

と真っ当に答えてしまう。すると女神はにこやかに、

「正直のご褒美に、きれいなジャイアンをあげましょう」

と言って、きれいなジャイアンを置いていってしまう。

ラスト一コマが衝撃的である。見た目きれいなジャイアンは、心もきれいな様子で、のび太の肩とドラえもんの頭に手を回して、いいお兄さん風情。のび太たちは「どうする」と対応に困る。

その奥では、泉からジャイアンが脱出しようと身を乗り出して「助けてくれ~~」と叫んでおり、そんなジャイアンを女神の手が掴んで泉の中に引っ張り込もうとしているのであった。


泉は落ちたら終わり

ところでジャイアンが泉に落ちて、きれいなジャイアンが出てきた時に、「このジャイアンが本物です」と嘘をついた場合はどうなったのだろうか。最初の方での説明でドラえもんは、ここで嘘をつくと何も貰えないと言っている。つまり、きれいなジャイアンだけでなく、泉に落ちた汚いジャイアンも戻ってこないことになる。

そう考えると、既に泉に落ちた時点で、ジャイアンが戻れる可能性は消えている。どうやっても戻れないので、それならばいっそのこと、きれいなジャイアンを譲ってもらった方がよいのである。


ミニ考察・長尺考察たくさんやっています。


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