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人間賛歌の傑作「みきおとミキオ」『午後の初日の出』/お正月特集2022

2022年新年、明けましておめでとうございます。
本年も藤子Fノートをどうぞよろしくお願いいたします。

昨年のお正月は「ドラえもん」を中心に記事を書いたので、今年のお正月は「ドラえもん」以外のお正月エピソードを数本の記事にしていくことにします。

本稿では数ある藤子作品のお正月エピソードから「みきおとミキオ」の『午後の初日の出』をご紹介します。昨年も本作の記事化を思いついたのですが、まだ藤子Fノートを始めたばかりだったので、「みきおとミキオ」はマイナーかな、と思って取り下げてしまいました。

あれから一年。無事このnoteも継続できましたので、満を持して元旦に読むべき作品として本作を記事にしたいと思います。


「みきおとミキオ」『午後の初日の出』
「小学四年生」1975年1月号

本作のテーマはずばり初日の出。作中では、近未来のお正月風景を描きつつ、ラストでは未来への希望を感じさせる爽快感のある作品となっています。

「みきおとミキオ」は、ざっくり1974年のみきおと2074年のミキオが、時おり入れ替わって生活するというお話です。100年前と100年後という二つの世界のギャップで笑わせたり驚かせたりする構成となっています。


本作は、現代(1974年)の大晦日、紅白が終わり年越しそばを食べたみきおが寝ようと部屋に戻ると、未来のミキオが静かに座っているシーンから始まります。ミキオはみきおに対して、早起きの自信があるか、と尋ねます。

ミキオの世界では、初日の出を見て感じたことや豊富を書けという冬休みの宿題が出されており、ミキオは朝早く起きられないので代わって欲しいというお願いなのでした。

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みきおは安請け合いして、入れ替わって未来の世界へと向かい、初日の出の時間まで眠ることにします。日の出時間は6時51分。ところがみきおはまんまと寝過ごし、8時に目を覚まします。せっかく起こそうとしてくれたポンチ(しゃべる未来のペット)には、殴って眠り続けたようなのです。

さて、宿題をできなかったみきおは、落ち込みつつ2075年のお正月を経験していきます。この未来のお正月に関するアイディアが素晴らしいので、下記に要素を抜粋してみましょう。

・お雑煮 ⇒ お雑煮スープ
・凧揚げ ⇒ 自分が乗って空を飛ぶ乗り物
・お年玉 ⇒ 基本変わらず存在しているが、金額が上がっている

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みきおはミキオのガールフレンドであるマリちゃんに、宿題をやってないことを吐露します。既にもう昼の時間。打つ手はなさそうなのですが・・。マリは何かを思いつきます。

「行きましょ! 初日の出を見に」

マリはみきおを「大陸間パイプライン」の駅へと連れてきます。「大陸間パイプライン」とは、その名の通り大陸間を移動するリニアモーターカーのような高速の乗り物で、世界の主な都市を地底で繋いでいるようです。(似たような設定が、大長編「のび太と竜の騎士」で見られます)

これに乗って30分。まだあたりは暗い場所にたどり着きます。ここは砂漠とピラミッドの国・エジプト。日本とは時差は7時間で、日本の方が進んでいます。つまり、日本時間午後1時が、エジプトではまだ朝の6時なのです。

ちなみにエジプトの初日の出は6時45分頃。みきおとマリは急いでピラミッドを駆け上り、頂上付近で日の出を堪能することにします。

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やがて東の空から朝日がまばゆく光輝きます。みきおは初日の出に向かって

「同じだ! 百年前の日の出とちっとも変わりがない」

と叫びます。

みきおは100年前の人間なので、このような感想を持ったのですが、マリはそういう事実は知りません。なので「変わるわけないでしょ」と冷静に反応します。

マリは続けて、人間の歴史が始まった5000年前からも、何十億年前からも太陽は同じように輝き続けていたと語ります。

悠久の時の流れの中で、人間の歴史がいかに一瞬であることか。そして人間の歴史においても、私たちはいかに短い時間を暮らしているか。長大な時間と比べて私たちが向き合う世界はあまりにちっぽけなもの。。


マリの言葉を受けてみきおも反芻します。

「そうだね。宇宙の歴史から見れば、人間なんてまだ赤ちゃんなんだね。そして、これから後の歴史は、僕らがこの手で作っていくんだよね」

いつの間にか高くなった朝日に向かって、みきおは決意を表明します。人間の作った歴史はまだまだ浅いもの、人間は長い悠久の歴史を踏み出したばかりの存在なのだと。だからこそ、自分たちの手でしっかりと歴史を作り上げていかなくてはならないのだと。

ちっぽけな存在である人間を冷笑するのではなく、これから大きくなっていくのだという、温かい人間賛歌が込められているラストシーンなのです。

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藤子Fノートの目次となっています。こちらから気になる記事をチェックしてみて下さい。



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