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野比一族最大の有名人『ホラふきご先祖』/野比家のご先祖様③

野比家のルーツを探っていく特集「野比家のご先祖様」の第三弾。これまでの2回で戦国時代の猟人・のび作と、江戸時代後期の小作農を営むのび左エ門&のび作の今一つパッとしない生活を検証してきた。

詳細の内容は下記をご一読下さい。

のび太のパパは野比家の先祖の情報を色々と知っているが、ルーツについては『ご先祖さまがんばれ』では狩人だったと述べている。その後『のび左エ門の秘宝』では古文書を紐解き、その文面から先祖は大地主の農民だったのではないかと推察していた。

農家と狩人、武士や町民ではないという点では共通点があるが、どちらが本当の野比家のルーツなのだろうか。そのあたりについても考察しておきたい。


『ホラふきご先祖』
「小学三年生」1977年6月号/大全集8巻

物語はのび太の宿題から始まる。社会科の課題かと思われるが、先祖について調べてこいというざっくりしたもの。誰かご先祖に有名人はいないかとパパに尋ねると、「誰もいない」と言って首を捻る。

パパが言うには野比家のご先祖は山奥で狩人や木こりをしていたという。のび太の望むような侍や学者などはいないらしい。これは『ご先祖さまがんばれ』でパパが語ったことを符合している。

のび太のパパは「ホラのびさんのことでも書くか」と手を叩く。のびろべえという人で、あまり大ボラを吹くので評判になって、はるばる聞きに来た人もいる有名人のようである。

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けれどパパの情報はここまで。どんなホラを吹いたかといったこともわからず、これでは実のある宿題とならない。

ドラえもんはそれなら本人に聞けばいいと思いつき、タイムマシンで実際ののびろべえに会ってこようと考える。かくして150年ほど前となる過去にタイムマシンで向かうのび太とドラえもん。

150年前というと、この作品が描かれた1977年から逆算して1827年頃となる。これは前回の記事で紹介した『のび左エ門の秘宝』に登場したのび左エ門&のび作の時代1826年(文久九年)とほぼ同じ時期である。

ここだけ考えると同時期に二組のご先祖が存在することになるが、職業が猟師と農民で異なっているので、この二組は直系ではなく親戚関係にあると考えるべきだろう。

どちらも野比家の特徴である「のび~」という名を持っていることから、父親の先祖の系譜なのは間違いない。

のびろべえは山奥で木こり家業をしていたとなると、『ご先祖さまがんばれ』で登場した猟師のび作の直系の子孫だと考えられる。

この後この二家族がどのように今の野比家に収れんしていくのはわからないが、もしかしたら農家だったのび左エ門&のび作は、のび太の遠い親戚にあたるのび太郎の家系に繋がっていく可能性もある。
(*のび太郎については「ドラミちゃん」の項を参照のこと)

いずれにせよ、山奥で仕事をしていたのびろべえの子孫がどのタイミングで山を降りて今の野比家のある場所に居を構えたのかは、憶測の域を出ることはなさそうだ。

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さて、150年前の山奥に辿り着く。道端で休んでいる男を見つけて、ホラのびの家はどこかと尋ねると、ホラのびなどという名前が聞いたことがないという。のびろべえの名前を出すと、すぐ近くにある家を指し示してくれる。まだホラのびという通称は使われていないようだ。

のび太たちはいきなりのびろべえの家に入っていき、どんなホラを吹いているのか聞いてみると、さっぱり要領を得ない。そこで、のび太たちは、タイムマシンで現代に戻って、ゆっくりとお茶でも飲みながら話を聞こうと提案する。

何もわからず、タイムマシンで連れていかれるのびろべえは、ギャーギャーと叫び続ける。のび太は自分が子孫だと言うが、当然理解されないまま。


いきなりタイムマシンで現代に連れてこられ、「命ばかりは・・」と完全にビビるのびろべえ。お茶でも飲んで落ち着いてもらおうと、やかんでお茶を沸かすと、それを見て「魔法だ」と叫ぶのびろべえ。

この時代に「魔法」という概念があったかは、怪しい気もするがまあいいとしよう。

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水道・ガスに驚愕するのびろべえは、続けてテレビを見させられ、「絵が動いた」と飛び上がって驚く。しかもテレビではゼロ戦や戦車の登場する戦争映画が流れており、「ヒャ~」「ヒャ~」「ヒヤー!!」と驚き声を出し続ける。

そして映画の中で戦車が大砲を撃つと、バリバリと襖を破って一目散に外へと逃げ出してしまう。

のびろべえは、自動車を見て「鉄のイノシシだ」と逃げまどい、超高層ビルを前にして、「ターカイナー」とついに気が変になってしまう。気の毒に思ったドラえもんたちは、具体的なホラ話を聞けないまま150年前へと連れ帰ることにする。

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はたして、帰郷したのびろべえは、たった今体験してきたことを皆に語り出す。

・自分は仙人の国に行ってきた ⇒ 現代
・鉄でできた獣や鳥が火を吹く ⇒ 飛行機・戦車
・絵が動く魔法の箱 ⇒ TV
・山より高い石造りの建物 ⇒ 高層ビル

のびろべえは本気で語るのだが、聞いている人々は「何をバカなことを言っているのか」と全く信じようとしない。

そればかりか、「ホラばかり吹くのでホラのびと呼ぼう」と言って、ホラのびの名前がここに誕生するのであった。

『ご先祖さまがんばれ』では先祖の職業を猟師に固定化させてしまったドラえもんたち。本作では野比一族における最も有名なご先祖様・ホラ吹き男を作りあげてしまったことになる。

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これまで3作の野比家のルーツを追った話を見てきた。のび太たちが過去に介入すると、大概の場合に、ろくなことにならない。 

むやみにタイムトリップはしない方が良かろうと結論を得て、本稿を終えたい。


「ドラえもん」考察だらけとなっています。


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