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人は何故1日8時間働くのか:36協定が労働生産性向上を妨げる一因

こんちは!副業社労士まさゆきです。

《1日の最適労働時間は?:8時間労働の歴史》
産業革命で機械による大量生産が始まりました。機械は24時間動かせますが、補助作助に人が必要です。経営者は、補助作業者を長時間働かせます。
労働者は1日14~16時間劣悪な環境で働き平均寿命は短かった。1847年、英国リバプールの労働者平均寿命は15歳、子供が多数働いていたためです。
労働者は団結し労働条件改善を訴えます。経営者も、熟練した労働者が健康に長期間働いた方が効率的で、19世紀~20世紀、経営者・労働者双方にメリットのある労働時間が模索されました。検討結果のまとめが1894年にマクミラン社から発行されたジョン・レイの『8時間労働論』です。

日本労働研究雑誌No.432(1996年4月)で小木和孝氏が紹介しています。
・19世紀を通じ10,9,8時間労働の実効性が確かめられ、8時間労働が一番
 効率的だった(9時間労働と比べ8時間労働は生産量が減るどころか増え、
 経営者が驚いた事が紹介されています)。
・8時間労働で労働者の疲労が減り、翌日もフレッシュな心身で就業できる
 事、無駄な時間が減る事、より正確に働けることが要因。

《8時間労働の法制化》
第1次世界大戦(1914年~1918年)は大量生産した兵器による総力戦でした。大量生産に協力した労働者の地位は高まり、労働条件改善の声は無視できなくなります。
1917年、ロシア革命で共産主義政権が誕生します。労働条件改善を訴える労働運動がロシア革命の契機でした。共産主義の伝播を防ぐ為、欧州各国は労働条件改善に動きます。労働者の地位向上と共産主義の影響で、第1次世界大戦講和条約であるベルサイユ条約を経て1919年にILO第1号条約に8時間労働が定められました。

《8時間労働の国際条約を批准していない日本》
ILO第1号条約は日本では批准されていません。
1919年当時、日本の工場法の規定では1日12時間労働、労働時間実態は11~14時間労働で、条約に合意できる環境ではありませんでした(当時の日本は第1次世界大戦後の枠組みから取り残されないように“嫌々”労働時間法制化会議に出席しました)。欧米も日本を取込むため特殊規定が設けます。 
・15 歳未満の労働者及び坑内作業に従事する鉱夫は週 48 時間
・15 歳以上の労働者及び坑外作業に従事する鉱夫に対して
    製糸業は週実労働時間 60 時間
 その他の工業は週実労働時間 57 時間(= 1 日 9 時間半)

この配慮にも関わらず、2024年現在でも日本は本条約を批准していません。

《ILO第1号条約を批准出来ない理由は36協定》
EU労働指令では、7日毎の平均労働時間は残業も含め48時間を超えてないけません。例外を認めない“絶対的規制”です。
日本の法定週労働時間は40時間ですが、36協定(労使が合意すれば残業可能とする協定)を締結すれば、経営者は月45時間残業させることが可能です。ILO第1号条約を批准したら36協定に批判が集中するとの懸念が原因です。

《日本の労働生産性向上を妨げる要因の一つが36協定》
私は、日本の労働生産性が低い一因に36協定があると考えます。
同じ仕事をするのに、欧州では週48時間以内で完了させなければなりません。日本は36協定で週15時間可能なので、40時間+15時間=55時間で完了すればOK、特別条項(年6ヶ月以内なら月60時間まで残業OK)を使えば追加残業も可能です。「仕事が終わらなければ残業してもらえばいい」と経営者が考えても無理はない。労働生産性向上に必死になるのはどちらか明白です。

これでも2018年法改正で残業時間の上限規制に罰則が出来る等厳しくなりました。最新の36協定上限規制は添付参照
p001-004_CS6_リーフレット.indd (mhlw.go.jp)

《検証①:G7各国の労働時間比較》
これらが労働時間に与える影響を見てみます。G7各国の労働時間を比較すると、日本は1600時間強でG7中位ですが、正社員に限ると見方が変わります。

OECDデータによる

下の図は、労働時間を正社員とパート社員に分けた表です。正社員だけを見ると、年間2000時間強で1997年から減少していません。G7で最も多い労働時間です。

《検証②:労働生産性国際比較》
労働生産性です。公益財団法人日本生産性本部『労働生産性の国際比較2023』によると、日本はG7中最下位、OECD加盟38ヶ国中31位です。添付表は2022年までの労働生産性の国際順位の推移です。

労働生産性の国際比較2023本文 (jpc-net.jp)

人手不足の環境で優秀な人材を獲得するには、長時間労働は無くす必要がある。ならば労働生産性向上施策に重点を置いては如何でしょうか?

ではまた次回

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