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木彫り熊は元々、鮭をくわえていなかった?意外と知らない身近な伝統 シェア街文化祭「dentou庵トークセッション」イベントレポート

木彫り熊は元々、鮭をくわえていなかったーー? シェア街文化祭で開催されたdentou庵トークセッション「私達の身近な『和』の世界」では、“和”や“伝統”に関する活動をされているお二方をゲストに、日常生活に取り入れやすい伝統を紹介。その中では、私たちが当たり前に思っていたことに関する意外な事実も明らかにされ、過去の歴史に対する参加者たちの関心がより深まりました。

“伝統”をより身近なものにしていくために

dentou庵は、日本の伝統を学び、より身近なものにしていくための活動をしているシェア街の拠点です。伝統に関わる情報を交換し合ったり、ゲストの方を招いてお話を伺ったりしています。

2021年5月5日に開催されたシェア街文化祭では、発起人の1人でもある松本津世志(つよぽん)さんがファシリテーターを務め、橘茉里さん(まり先生)と佐藤紗希(さっきー)さんをゲストに、伝統と環境問題やSDGsを結びつけたトークセッションを実施しました。

お三方の簡単なプロフィルは以下の通りです。


まり先生:
群馬県出身。私立高校で国語の教師をしながら、お香の調合師「香司」の資格を取得。「和の文化を五感で楽しむ講座」を主宰し、和文化を日常に近づけるため、そして日本人としての心の豊かさを考えるため、トークイベントや体験活動を企画している。
さっきーさん:
木彫り熊発祥の地である北海道八雲町出身。子どもができたことをきっかけに日本の伝統やエシカル消費について考えるようになり、珈琲を片手にSDGsについて語り合うコミュニティ「エシカルカフェ」を主宰。大学の先生や衆議院議員などもゲストに交えて、持続可能な社会を考えるディスカッションをしている。
つよぽんさん:
群馬県伊勢崎市出身。地元の産業である「伊勢崎銘仙」と出会ったことをきっかけに日本の伝統に興味を持つ。シェア街でdentou庵を立ち上げ、伝統を受け継ぐ職人の方に話を伺ったり、実際に体験したりといったイベントを開催している。

お香とは?

まずは、まり先生のメインの活動である“お香”について伺いました。お香は草木を乾燥させたり、すり潰して練り合わせたりしたものです。温度によって区別され、
・常温でも匂いを発する「匂い袋」
・温めて使う「練香」
・燃やして使う「線香」
の3種類があります。

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数十種類ある原料を、調合する配分や温度を変えることによって、発生する香りが様々になるそうです。お香というと、線香のイメージから仏壇やお葬式を連想しがちですが、アロマオイルなどを混ぜた、現代の暮らしに合わせた商品も販売されています。

まり先生は匂い袋をつくるオンライン講座や、練香をつくるオフラインでのワークショップも行っており、いずれも2時間ほどと、かなり気軽に参加できるもののようです。

古典の人々と現代人に共通する“匂い”の感覚

匂いに関連した話題でまり先生からもう1つ。
古典の時代の人々と現代人とで通じている部分として、匂いの感覚があるそうです。

現代の様々な歌を調べると、昔の恋を思い出すときに“匂い”が頻繁に用いられるそうです。

「恐いくらい覚えているの あなたの匂いや しぐさや全てを」

というHYの「366日」の一節を例にあげて、五感のなかで最も感情に訴えかける作用があるのが匂いだと、まり先生は話します。

一方、古典の代表的作品である『源氏物語』では、紫の上が、夫である光源氏と離ればなれになってしまったあとに、部屋に残された匂いから一緒に過ごした日々を思い出して、寂しさを募らせる描写があります。
まり先生のそうした説明は改めて、昔の人と現代の人との繋がりを感じさせてくれました。

木彫り熊の技術の継承、難しく

さっきーさんには、木彫り熊のことを伺いました。
木彫り熊というと鮭をくわえたものがイメージとしてあがりますが、北海道八雲町で作られた元祖のものは、そうではなかったそうです。また北海道の木工というと、アイヌ民族の伝統というイメージがありますが、木彫り熊の生産が始まったのは大正時代といわれています。

当初は職人による手作りでしたが、昭和時代以降の観光ブームから、工場で大量生産されるようになり、その頃に鮭をくわえた熊が広く認知されるようになっていったそうです。

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写真は八雲町にある木彫り熊資料館の展示です。

大量生産の波に押され、現在は職人が少なくなっており、木彫り熊の技術の継承が難しくなっているようです。消費者が伝統に敬意を払う姿勢や、制作にまつわるストーリーを知っていくことが必要なのでは、とさっきーさんは話します。

また、木彫り熊というと単なる置物のイメージですが、縁起物としての役割もあるそうです。
そうした意味づけを改めて与えてあげたり、親しみやすい造形にリメイクしたりすることで、手に取る人が増える可能性があるのでは、とさっきーさん。函館空港などでは、写真のような可愛らしい木彫り熊が、土産として販売されているそうです。

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伝統が日々の生活を彩る

イベントの後半には、つよぽんさんの「最近漆器の徳利が売っているのを見かけて、鮮やかな柄に一目ぼれして買ってしまった」という話から、「ものがあふれている時代だからこそ、気に入った1つのものを長く大切に使っていくことが、環境のためにも、それを作る方々のためにもなるのでは」といった話題へと広がりました。

お香や木彫り熊をはじめ、伝統も、現代の暮らしに合わせてアップデートし続けています。
職人の方々が時間と愛情をかけて作った品々が手元にあることで、日々の生活にも彩りが生まれるのではないか、と改めて思いました。

また、dentou庵は今回のシェア街文化祭では、このトークセッションとは別に、47都道府県のあまり知られていない工芸品についてメンバーたちが紹介する「ニッチな工芸品展示館」も実施しました。

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dentou庵の活動に興味を持たれた方は、ぜひシェア街に足を踏み入れてみてください。

【クレジット】
編集:Atsushi Nagata Twitter / Note / Youtube
執筆:早川英明
写真:提供写真

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