ケラリーノ・サンドロヴィッチ『PRE AFTER CORONA SHOW』
ケラリーノ・サンドロヴィッチが脚本・演出を手掛けた2本の作品が先週7/12に公開。お値段的にもオンラインイベントにしては高めの設定なのでどんなもんかと様子を見ていたけど、やはり好きなものにお金は使おうと思い立って買ったところ、とんでもなく面白かったので感想を書き記したい。
と言いたいのだけど、感想というのはこの作品において何が適切なのか分からない。そもそも感想とは何だい。感じて想ったこと、っていうことなら"腹ちぎれるくらい面白かった"ぐらいになってしまう。とにかく、頭がとけそうになるような作品である。これが急ごしらえとは思えない。いや急ごしらえだからこそこんなことになっているのだろうか。不条理劇にも程がある。
CUBE produce PRE AFTER CORONA SHOW presents リーディングアクト『プラン変更 ~名探偵アラータ探偵、最後から7、8番目の冒険~』
出演:古田新太・大倉孝二・入江雅人・八十田勇一・犬山イヌコ・山西惇 / 奥菜恵
元々上演を予定していた演目を題通りプラン変更して、同じ役者で作り上げた別作品。アクリル板で仕切られた簡素なセットはまさにコロナ禍ならではの舞台。そこでずっと破綻し続けた物語が進行していく。脚本を読み進めていくことを基本とする作品だけど、当然のように動きまくるし、そもそも演劇や虚構という前提も勝手に吹っ飛ばす。セットがないので自由度はぶち上がってしまい、瞬間ごとに内容は変わるので話に酔っぱらいそうになる。台詞の素っ頓狂さは元よりだが、台詞に注力するリーディングアクトだからこそ、聴き入れば聴き入る程にぶっ壊れていく感覚に陥ってしまう。俳優たちは大真面目にやり、間合いを取って稽古を積んでいる。その過程を忘れてしまう程に気が狂った作品だと思う。形容不可能だし、シュールとかいう言葉では陳腐すぎる。泉ピン子のサンプラーのとこを説明し尽くせないのよ。
「PRE AFTER CORONA SHOW The Movie」
出演:古田新太、大倉孝二、入江雅人、八十田勇一、犬山イヌコ、山西惇、小池栄子、奥菜恵、中越典子、ファーストサマーウイカ、伊藤梨沙子、小松利昌、ブルー&スカイ
声の出演:橋本さとし、壮一帆、喜安浩平
特別出演:大竹しのぶ、宮沢りえ、井上芳雄、緒川たまき、村井國夫
こちらはもっとドラッギーで、体調の悪い時の夢みたいなナンセンスな映像が100分襲いかかってくるので、見るタイミングには注意が必要。いい時にはずっと笑って息が出来なくなるし、悪いときは混乱して息が出来なくなる。一応は物語としての形があった「プラン変更」に対し、こちらは単作のコントがアニメやドラマ仕立て、舞台演劇を混ぜ合わせる形で編集されており、その無秩序さは度を超している。そのナンセンスさの中に、しっかりめに社会風刺が入ってくるのも面白いところで、刺すところは刺すし、けむに巻くとこは巻き倒す、ケラさんのバランス感が際立っているとも言える。ちなみに「プラン変更」と交差する場面もあるので、一応2本立てとして機能している。機能したところで何があるというわけじゃないのが凄いのだけど。
ケラさん自身、リモート演劇などには難色を示し、本作を「演劇のようなもの」であるとして、演劇ではないと断言している。確かにそうかもしれないけど、"演劇ではない"という免罪符を与えられたケラさんがこんな突っ走った作品を作ってしまった以上、あらゆる「演劇のようなもの」が霞んでいきそうになる。この人が2020年東京パラリンピックの閉会式でいったい何をやろうとしていたんだろうか、と戸惑ってしまう程に。何にせよ、キレキレです。コロナ禍云々関係なく、キレキレな人はずっと研ぎ澄まされ続けてる。