1分で読める短編:祈りの時間
毎晩の日課である祈りの時間もそろそろ終わりにしようと閉じていた眼を開けると、彼はそこに神を見た。神は彼に向かってこう言った。「お前はちょうど三日後の0時に死ぬことになっている。しかし、お前は私の存在を信じ、よく祈り、誠実に生きた。その褒美として、死の際にお前が心から知りたいと思う問いに対する答えを教えてやる。」
彼がクリスチャンになったのは、晩年、末期の癌が発覚して余命宣告を受けてからだった。しかし、一年あまりにも及ぶ闘病生活の苦しみは、彼に神の存在を心から信じ、縋らせるのに充分なものだった。彼は、確かに神が存在することも、自分の余命がもう幾許も無いことも、とっくの昔に知っていた。「ありがとうございます。」彼は弱々しくそう答えた。
「お前が死ぬ0時の少し前になったら、私はまたここに現れる。それまでに、人生の最後に訪ねたい問いを考えておけ。ピラミッドの謎も、イースター島の謎も、ケネディ暗殺の謎も、私は全ての答えを知っている。」そう言うと、神は一匹の小さな蛇に姿を変え、冷たい夜の闇の中に消えた。
彼は、そこからの三日間、神に何を問おうかと考えた。オーパーツの謎、マヤ文明の謎、三億円事件の謎...。ひたすら考えに考えた結果、彼は一つの答えにたどり着いた。
三日後の午後11時50分、いつものように神に祈りを捧げる彼のベッドの下から、蛇が現れた。蛇は彼のほうを向いてちろりと舌を出すと、少し光って神の姿になった。
神は問うた。「して、最後の問いは決まったか。」彼は答えた。「地球外生命体とは実在するのですか。」
「お前が本当に訪ねたいのは、そんなことなのか。」神は彼に問うた。彼は、自分が心の底から知りたい答えがそんなものでないことは知っていた。ただ、その問いに対する答えがもし自分の望むものでなかった時のことを考えると、恐ろしくてたまらなかったのだ。
彼は姿勢を正し、震える声で神に再び訪ねた。「私の生きたこの人生に、何か意味があったと言えるでしょうか。」
神は答えた。「それは私が決めることではない。」
沈黙。
彼は時計をちらと見た。二つの針が重なるまでには、あと少しだけ時間があった。
彼は自分に残された時間を、自分の命の輝きを確かめるために充てた。
眠る前に読んでもらった海賊の絵本。五歳のクリスマスにサンタさんからもらった自転車。好きだったチョコレートケーキ。初めて一人暮らしをしたアパートの鍵につけたキーホルダー。いちばん愛した人の家に向かう路地。シーツのしわで象られた翼。
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