#6 桜沢如一と川喜田二郎 − マクロビオティックとKJ法に通底する教育論。あるいは現代日本の教育から失われたもの。
マクロビオティック創始者・桜沢如一氏の教育は、次世代が自ら考え、実践し、自身の成長を促すような修練を科すものであった。同氏が弟子たちに科していたCRUXと呼ばれる問答は、オックスフォード大学とケンブリッジ大学の入試面接問題と類似している。これらの問題は、自然界と人間社会への観察眼、理系的知識、文系的知識、論理的推論、直感的推察を総合的に用いなければ回答できないものばかりである。
加えて、桜沢氏とオックスフォード・ケンブリッジ(以下、オックスブリッジ)の問題集には“答え(唯一解)”が設けられておらず、個人の思考が辿る軌跡、その末に導き出した回答のオリジナリティを評価する。例えば、桜沢氏の問いには「沸騰する水の中の氷を溶かさぬ法を答えよ。」、「蜂の巣はなぜ六角形か。」、「なぜ心臓は左にあるか。」といったものがあった。他方、オックスブリッジの入試問題の一例は「もしあなたが、なんでも好きな心理実験をひとつしてもよいと言われたら、何をテストしたいですか?」、「オデュッセウスは、よきリーダーであったと思いますか?」、「詩とはなんですか?」といった具合である。
そして、桜沢氏とオックスブリッジに共通する教育観と教育方法論とは、KJ法の根底にも流れる血潮である。川喜田二郎教授が、大学という硬直化した不毛の地から独立し、現実世界にまさに挑み、現実社会をまさに生きる次世代を輩出するために、移動大学を立ち上げて訴えた“全人教育”の必要性と重要性がここにある。要するに、桜沢先生も、川喜田先生も、オックスフォードもケンブリッジも、(破っていくべき)型は示せど、決して箱に嵌め込まない。そして、その型というのは、マクロビオティックとして、KJ法として、900年以上の歴史を背負う世界最高学府として、それぞれ桜沢氏、川喜田教授、オックスブリッジが自らの手で創り上げたものである。
KJ法のラベル作成に“土臭さ”を残すのも、渾沌とする野外から感じ取った「なんだか気にかかる」匂いを殺さぬよう、社会の真の姿を描けるよう、そういう想いによるものである。そして、薫り残る社会の空気が感性と理性を以って意味の構造に落とし込まれることで、その後に続く物理構造を与えられていくデザインの中で活かされるのである。この全人教育が育むものこそ、本質的なデザインの力である。そして、その能力を以って観念世界と物理世界をつなぎ、デザイン学を刷新してきたのがBarry Katz教授と長町三生教授の実践である。
つづく