ソーシャルアクティビストの生き様ドキュメンタリー「ソーラーシェアリングで世界を変えたい!日本発の環境技術が農業と地域を支えるインフラになる!? 」東光弘さん(市民エネルギーちば株式会社)書き起こし Part①

市民エネルギーちば株式会社/㈱TERRA/
株式会社ソーラーシェアリング総合研究所 代表取締役 東光弘さん
撮影&聞き手:山田英治 (社会の広告社)

〜この記事は上記動画の書き起こしです〜

山田)ソーラーシェアリングとはどういうものか、具体的に教えて頂けますか?

東さん)農地の下側で畑、上側で太陽光発電を行うことです。2013年3月31日に農水省からの通達で、農地上で太陽光発電をやってはいけないことになったのですが、下側で畑をやっているのであれば、上側で太陽光発電をしても良いと認可されたのが私たちの事業のきっかけです。

具体的にご説明しますと、幅35㎝長さ2mという細長い短冊のような太陽光パネルを、パネル1に対し空間2という割合で、隙間だらけで設置します。そしてその下側ではトラクターやコンバインを入れて農業をし、その上側では太陽光発電を行うという仕組みになっています。

山田)つまり農業とエネルギーの一挙両得のような仕組みでしょうか?

東さん)はい、まさにそういうことです。自分がこの仕事を始めたきっかけは、2011年の東日本大震災の時に(福島第一原子力発電所で)放射能の事故があったからです。

私の取引先の農家さんは、それまで有機農産物の流通を20年以上やってきていたのですが、(放射能関連で)随分廃業してしまった農家さんもいたので、これからの農業というものを考えていったとき、食べ物のことだけではなく、エネルギーのことも考えていかないといけないと思いました。

これについて何か良い方法がないかと考えていたところ、長島彬先生という方から、ソーラーシェアリングというものを教えていただきました。

最初は私も有機農産物の流通をやっていたので、『畑の上で太陽光なんてけしからん、ふざけるな』と思い、文句を言いに行こうと思ったのですが、想像以上にソーラーシェアリングの下の野菜たちが元気で、『僕たち元気だよ』と語っているようでしたので、これはちょっと研究してみたいなと思い、1年間で50種類以上の野菜を育ててみました。

私は北から南まで20年間いろんな畑を仕事で回っていたので、畑の野菜の顔を見る自信があったのですが、野菜がどれも元気に育ったので、これはみんなに伝えた方が良い技術だと思い、約10年前に会社を作りました。

最初は、太陽光パネルが環境を破壊するとか、森を切り開いているといった文句のような声を聞きました。『農地の上で、とはどういうこと?』という感じです。

私の考えとして、地球の森とか緑というのは地球から見ると皮膚みたいなものだと思っています。緑の皮膚をひっぺがして、いくら炭素が減るからといって太陽光パネルを広げていくというのは、生理的、ビジュアル的にも良くないし、とても違和感を感じます。そういうことはせず、木漏れ日のようなソーラーシェアリングであれば良いなと思いました。

山田)想像以上に解放感といいますか、自然に溶け込んでいる感じがしますよね。人工物ですが風通しも良いし、手を上げても手は届かないですし。


【この事業に対して、女性やアーティストたちが生理的に感じる意見を大切にしています】


東さん)実はそこも狙いで、年間に数千人もの方に見学に来て頂いています。特にそこで、女性の方やアーティストの方の意見をできるだけ聞くようにしています。彼らや彼女たちが生理的に嫌だと感じてしまうということは、私のやり方が何か間違っているのではないかと思うからです。今のところ『これなら明るくて良いね』と仰ってくださっていますが、そういう声を大事にしたいと思っています。

山田)それは面白いですね。理屈ではなく生理的に嫌だというのは本当に嫌なのではないか、という人間の本質ですね。私の場合は、過去に東京電力の広告を作っていて、『原発OK』、『原発はエコである』としてCMを打っていた当時は、原発の反対運動をしている人たちのことを何か変だなと思ってしまっていました。

東京電力は、エコでCO2を減らせると言っていたわけですが、結果的には福島のようなことになってしまったので、生理的に含めて何か変だなという違和感は、大事にした方が良いと私も気が付きました。先ほど東さんが仰っていたことは、まさしくそういったことになるのでしょうか?

東さん)そうですね。もともと太陽光発電は、1960年代後半のヒッピー文化のような、自分が使う小さな電気は自分で発電したいというカルチャーから生まれてきていて、それが自然エネルギーの良さだと思っています。

それがFIT、つまり固定価格買い取り制度になってからというもの、猫も杓子も太陽光発電で小金が儲かるという感じで、太陽光発電をする人たちがワッと集まってきたのです。

地域住民からしてみると、空き地とか山に太陽光パネルを付けるけれど、お金は全部都会にいく。そして自分のところはただ景観が悪くなる。これでは太陽光発電が嫌いになってしまいますよね。

本来、自然エネルギーは自分らしく生きるという精神が形になったものなのですから、本来良いものなのです。そうした点からも復活させたいと思っています。

山田)ソーラーシェアリングにはそういった良さがあるということに、東さんは『これだ』とピンと来られたのですね。


【ソーラーシェアリングで耕作放棄地を再生。荒地がきれいになり、農業が復活してお金も動く】


東さん)元々のソーラーシェアリングという語源は、太陽光の光を農業とエネルギーで二毛作、つまりシェアをしようというところから来ています。

私達の会社の場合、売り上げの10%ぐらいは農業や村おこしに寄付させてもらっています。ですから、シェアリングのシェアを「分かち合い」として解釈しています。自然生態系もシェアするし お金もシェアするし、関係性もシェアする、そういう理念を考えています。

山田)実際に会社を作られてから、今は理想に近づきつつある感じでしょうか?

東さん)どんどん近付いていっていると思っています。この80ヘクタールの土地は、40年前に国の政策で山を切り崩して田んぼ農地を作ったところなのですが、何十万年もかけて作られた黒い表土が剥がされてしまっているので、有機質も少ないし微生物も少ない。砂漠といいますか、荒れ果てた土地だったのですが、雑草が生えて再生のサイクルに入ってきているのです。

ソーラーシェアリングも、荒れ果てたものを再生していくイメージなのです。ソーラーシェアリングができると、それまで耕作放棄地だったところが綺麗になって、農業が復活してお金も動くということになります。

今までイネ科の雑草しか育たなかった荒れ地が新しい土になって、カモミールなど比較的弱い植物も生えてくる。つまり生物や植物の多様性が増えていくようなイメージを持っていまして、ソーラーシェアリングをすることでこの地域がまた耕されていくのです。そういうイメージを大事にしてやっています。

山田)本日、ソーラーシェアリングを見させていただきましたが、行く先々で鳥やモグラが歓迎してくれるような感じですね。基本的に有機で農薬を使わないというお考えでしょうか?

東さん)そうです。この地域は現在80ヘクタールあり、その内20ヘクタールを私たちが借りたり買ったりしていますが、すべてJAS有機という無農薬でやっています。農薬を使わないと虫や微生物が増え、小さな鳥やイタチ、キジが増え、そこに猛禽類、ワシ、タカ、トンビの類が来るのです。

カラスが減ってスズメが増えたりすることも、すごく嬉しいことですので、最終的に80ヘクタール全部をオーガニックにして、快適な場所にしたいです。

山田)元々は耕作放棄地だったところを、どんどんソーラーシェアリングの農地に変えるということをこの地域でされていると思うのですが、こういった活動は全国に広がりつつあるでしょうか?

東さん)はい。私たちがトップリーダーのようなところがありますが、沖縄から北海道まで自分の会社も含め沢山プロデュースさせてもらっていて、10年かけたプロセスを 1年から2年でできるようにしています。志がある農家さんや発電事業者さんと繋がりがさらに増えてきています。

山田)東さんは千葉県の匝瑳市(そうさし)ですよね。ここをベースに同じ考え方を広めていく活動も同時にされているという感じでしょうか?

東さん)そうですね。株式会社TERRAで海外を含め規模を拡大しています。匝瑳市のエリア内をできるだけより深く、エコロジカルにサスティナブルに開発する会社が市民エネルギーちば株式会社です。一方、どのような作物が元気に育つか、また、新しいペロブスカイト太陽電池(※)について、海外の大学と連携した基礎研究を行うのが総合研究所です。これらの3つの役割が全部合わさるとうまく進むような形になっています。

(※)ペロブスカイト太陽電池:世界で注目されている次世代の新規太陽電池材料。従来の太陽電池と同程度の変換効率でありながら、既存のものより低価格、軽量で、これまで設置できなかった場所にも設置することが可能となる。


【実は電気は、果物や野菜とおなじ農産物です】


山田)耕作放棄地があるということは、農家さんが減っているわけですね。今後も加速度的にいなくなっていきますし、そうすると耕作放棄地も増え、農業従事者もいなくなるわけですが、そういった時にソーラーシェアリングの仕組みを使うと、その売電収入も得られることで、農業が続けられやすくなるという観点もあるのでしょうか?

東さん)おっしゃる通りです。それが一番大きな目的です。ソーラーシェアリングの主従関係は、太陽光と農業で言うと農業の方が主で、自然エネルギーつまり太陽光の方が従であると思います。他のソーラーシェアリング業者さんの多くは太陽光がメインで、農業はおまけになっていますが、それは本質から離れてしまっていますね。ソーラーシェアリングは農業経営を支えるための一つのエンジンになればいいなと思っています。

山田)なるほど。農業振興の要素がものすごく強いと言うことですね?

東さん)ソーラーシェアリングは農業だと言って良いと思っています。ですから、この畑の上でできた電気は農作物だって言っています。昔、江戸時代の人が農閑期に炭を焼いて、町で売って現金に変えたというのは、結局農的な営みの中でその農的資源を活用してエネルギーを作って売っていたのですから、ある種の農産物ですよね。それの現代版だと思います。

ここにいると沢山の方が、変わったことをやっているなと見学に来てくださって、色々なものを食べられたり、お土産を買っていってくださったりします。そのほかにも、ワークショップに参加するなどの関係そのものも一つの農作物として捉えています。

今までの農業は、農産物生産業を略して農業といっている言葉です。つまり1反分1000平米でジャガイモを作り、何キログラム獲れていくらで売ったか、それが農業だったと思うのですが、私はこれから農村経営業を略して農業と言ったらどうですか、と提案しています。つまり、電気も関係性も色々な農的な営みの中で得られるものは、すべて総合的に農産物として捉えると。すると新しい農業の可能性があるのではないかなと思っています。

専業農業の田んぼなら田んぼだけではないということです。百姓という言葉の語源のように、いろんな仕事、生業があるということ。それをもう一回作ろうという取り組みです。

農業従事者が今年は百十数万人で、去年が123万人、一昨年が130万人。2005年は260万人でした。つまり、10数年で半分に減ってしまっていて、さらに今後の7年間では50万から60万人にまで減るようです。だからこれからは、一般の人もどんどんこういった地域に来て、小さくて良いから農作業をやると良いですよね。それも立派な農業だと思います。

ただ、それだけの面積も足りないでしょうから、ある程度ドローンやAI、自動運転も使わなければいけないでしょうね。いわゆる専業農家に生まれたから農業をやるのではなく、「自由に生きていくための権利」としての農業になれば、農業の魅力というのがもっと広がると思っていますね。

それを具体的に持続可能に動かしていくためのツールとして、このソーラーシェアリングが良いのではないかと思っています。

山田)私も農業を家庭菜園的なものとしてやっていて、田んぼをやったりするのですが、都会に暮らす人達は結構農業に飢えている雰囲気があります。何かチャンスがあれば農業をやってみたいという人が、少なくとも私の周りでは多いと思いますので、『こんな方法があるよ』と知らせたいですね。日陰だから1日の農作業の疲れも少ないし、働く側にもメリットがあるということも伝えたいです。

東さん)ずっと畑を回っていて、ある日気づいたのですが、自然界に完全な野原は無いのです。鳥の糞から潅木が生えて、7年ぐらいすると林に戻ってしまうのです。畑というのは本来不自然なもので、その場所を一部活用させてもらっているだけです。木陰があるというのはむしろ自然に近いです。森の中にも草が生えていますから。


【ソーラーシェアリングで自然を守る農業をすると、農家の収入も増える構造】


山田)なるほど。この動画を、もし農業をやりたい方が観たとして、ソーラーシェアリングを取り入れれば、農業収入プラスオンになって稼げるような生業になるのでしょうか?

東さん)これは成り立ち得るとは言えますが、スパッと答えられることではありません。でもトータルでは成立する自信があります。私自身、ソーラーシェアリングがもう少し世の中に普及したら、ソーラーシェアリングを設置する建設の仕事はやめて、最後の人生の仕事として農業をやりたいです。

農業にソーラーシェアリングを取り入れて活用するというスタンスです。農作物を1キロいくらで売るという世界観では、これからの農業は不可能だと強く思います。もっと多様な価値を提供することが必要です。

たとえば、カーボンクレジットという炭素量を減らす価値です。2023年3月から『J-クレジット(※)』という制度が始まりました。田んぼの中干し期間を2週間から3週間に延長するとメタン発生量が38%減るので、それを価値として売買する仕組みです。これが1町歩あたり4万円の値段になっています。多くの専業農家さんは10町歩ぐらいやられています。すると40万円収入が増えるのですね。新しい価値で農業収入になるという一例です。

ソーラーシェアリングで作った電気を売ることができ、それが農業収入に加算される。つまり農業を支えるのにすごくプラスになるということです。

※J -クレジット:省エネルギー設備の導入や再生可能エネルギーの利用によるCO2等の排出削減量や、適切な森林管理によるCO2等の吸収量を「クレジット」として国が認証する制度。

山田)なるほど。様々な稼ぎ方が増えていて、時代的にも気候が変動しているなかで、J-クレジットという制度が始まるということでしょうか?

東さん)20町歩のうち2町歩、つまり10%ぐらいの畑は耕さない農業(不耕起栽培)をしています。そうすると炭素の貯留量がどんどん大きくなりますから、色々な農業事務所で実験をして、数字で誰が見ても確からしいと証明できれば、クレジット化されていき、農家さんの収入が増えます。

地球の場合、畑を耕さなければ土の中の微生物やミミズなどが全部蓄積されていくので環境には絶対良いです。地球にとって自然を守るような農業が広まると、農家さんも収入が増えるという構造です。そのようなトレンドを、この活動を通じて作って広げていきたいと思っています。

山田)世界を含めて流れは来ていますよね。

東さん)日本は2050年にはカーボンニュートラル(温室効果ガス実質ゼロ)を目指していますが、全然間に合わないです。間に合わないという状態で、国も企業も本気でやり始めています。

RE100(企業が自社のエネルギー消費を100%再生可能エネルギーに切り替えることを目指す取り組み)の話もあり、アメリカではトップ50社のうち46社がRE100に加盟して、どんどん達成しています。日本のRE100は現在72社。その72社の電気だけでは、先ほど言ったFIT(固定価格買取制度)の電気も足りません。山を壊すタイプの発電所は、もう190の自治体から制限条例や禁止条例が出ているため作れません。

環境に調和したような自然エネルギーを導入しなければならないのです。時代としては、とても残念ですが地球温暖化がどんどん悪い方向に進んでいるので、自然エネルギーに対する投資は高まっていきます。そして、ソーラーシェアリングがどんどん採用されていくわけです。

すごく大きな会社や自治体もソーラーシェアリングに非常に大きな関心を持っていて、表には出せませんが多くのプロジェクトが進んでいます。売り上げ10兆円の大手エネルギー会社ENEOSと、資本金6000億円のSBI証券という日本で一番大きい証券会社のエネルギー部門が、地方の資本金90万円で始めた会社と合弁で作ったのがこの設備なのです。そういう時代なのだということですね。


【地域、時代、国、世界のことを考える人がやるべきインフラビジネス】


山田)東さんの方で、企業さんにも注目されて万々歳というところもあると思うのですが、課題があるとすればどういうところにありますか?

東さん)圧倒的な課題は、それぞれの地域で、地域を生かす農業をどのように継続的に掘り起こせるかという1点です。農家さん側の担い手がいるのか、ということです。新しい農業をそれぞれの地域ごとに発見しなければいけないのです。

現在、鳥取で進めているソーラーシェアリングのプロジェクトは砂丘で水はけのいい芝生を作るというものです。(このプロジェクトでは)国立競技場も含め、ほとんどのスタジアムの芝を作っています。芝生はもともと作っていたので、それを活用したソーラーシェアリングとなっています。

沖縄ではコーヒー園をやっている方が、現地の所得が低いため、それを引き上げるソーラーシェアリングのプロジェクトとコラボしています。それぞれの地域の物語、気候状態とベストマッチしたソーラーシェアリングを発掘し作っていきます。

ですから、この手法を取り入れたいという農家さんやファンを増やすことがまず大事ですね。太陽光に対してネガティブな気持ちを持っている人も多い中で、自然エネルギーというのは心が大事な要素となります。

インフラビジネスということは権利を与えられるということですから、私利私欲に走っているような人がやってはダメなのです。その地域のこと、時代のこと、国のこと、世界のことを考える人がやらなければ。インフラという社会公共性があるものを預かっているのですから、理念が一番大事だと思います。

働いた分は人並みにお給料を、子供に給食代や学費が払えるぐらいにもらえて、再投資していけるぐらいの利益が出た方が良いですが、がめつく利益を追求してしまうと、空気感で国民市民の皆さんに伝わってしまいます。このインフラビジネスをする際には、未来の子供たちのための平和実現といったような、何か理念がないといけません。単に自然エネルギーというだけはダメです。農と地域と未来を支えるエンジンとしてのソーラーシェアリングを広めていきたいです。

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東さんの動画 パート2はこちら!→
https://www.youtube.com/watch?v=bDDYp1dgkgk&t=159s&ab_channel=%E3%83%A1%E3%82%AC%E3%83%9B%E3%83%B3ch%E3%80%9C%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E3%81%AE%E5%BA%83%E5%91%8A%E5%B1%8B%E3%81%8C%E5%8F%96%E6%9D%90%E3%81%97%E3%81%AA%E3%81%8C%E3%82%89%E4%BC%81%E7%94%BB%E3%81%99%E3%82%8B

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