#233 教員の「定額働かせ放題」は何が問題?

「先生って定額働かせ放題なんでしょ?」

ここ1、2年で生徒から直接聞かれることが増えたと実感している。
教員の働き方は頻繁にメディアで取り上げられることもあり、もはや生徒でも知っている社会問題となっている。

公民では労働のルールについて教える単元があり、「労働基準法では労働は1日8時間、1週間40時間までと決まっている。それ以上働かせたり、法定休日に働かせる場合は使用者(会社)は残業代を支払う必要がある」と教えている。

教員には時間外労働をした分の残業代は支給されない。その理由となっているのが、通称「給特法」と呼ばれている法律である。

給特法の正式名称は「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」という法律で、約50年前の1971年に制定された。
内容を一言で言うと、公立学校の教員には残業代が支払われない代わりに、月額の給与に4%を上乗せして支給するというものである。

現代では「時代遅れ」とも言える給特法は、実は教員の労働環境の改善のために制定された。1960年代、教員の超過勤務が目立つようになり、教員の待遇改善を求める声があがる。しかし、教材研究を筆頭に、教員の業務は何が業務で何が業務でないかがわかりづらいという特質がある。

そのため、文部省は1966年に教員の労働実態の調査を行った結果、平均して月8時間の残業が行われていることが分かった。
調査結果を受けて、給特法は毎月8時間の残業代に相当する金額として、給与月額の4%を「教職調整額」として支給することを定めている。

その代わりに時間外勤務手当を支給しないこと、そしてそもそも教員に原則として時間外勤務を命じないことを定めた。

例外として校長が時間外勤務を命じてよいのは、
①生徒の実習に関する業務
②学校行事に関する業務(修学旅行など)
③教職員会議に関する業務
④非常災害等のやむを得ない場合(学校が避難所になるなど)
の4つとされ、「超勤4項目」とよばれている。

本来の給特法は、「原則として教員に時間外勤務を命じてはいけません」という教員の労働環境を守るための法律だったのだが、学校をとりまく状況がめまぐるしく変化する中、給特法は時代遅れの法律と言われるようになっている。

2016年に文部科学省が行った調査では、超過勤務時間は小学校で月間約59時間、中学校で月間約81時間となっており、1966年当時から比べて中学校では10倍以上にふくれあがっている。

この背景には、キャリア教育や道徳の教科科、ICT機器の導入、自治体からのアンケートの増加など、多岐にわたる業務の増加が指摘されている。
とくに中学校の教員は課外活動(部活動)業務の負担が大きいということが分かっている。

こうした状況をふまえ、2023年5月に自民党4%から10%にあげるという改善案を出した。

しかし、%が2倍以上になったとは言え、2016年の時点で教員の超過勤務は中学校では10倍以上になっている。例えば月給が30万円の中学校教員の場合、3万円で80時間の残業を行わなければならないことになる。
まさに「定額働かせ放題」である。

この案は、そもそも学校がやるべきことを精査し、教員の業務を削減しないことには問題の根本的な解決にはならないとして批判をあびた。

なお、私立学校についても公立学校と同じような働き方をしている場合も多い。しかし、本来私立学校には労働基準法が適用されるため、公立学校と同じような働き方をさせている場合は明らかな「違法状態」である。

労働基準監督署の監査が入れば一発アウトという学校も多いのではないだろうか。
一部の私立学校では平日に研究日という休日を設けたり、変形労働時間制を導入して夏休みに労働時間を少なくしているが、全体としての実態は不透明である。

ここからは私見だが、現在の日本の学校は、プライベートをすべて捧げて学校にすべてを捧げる所謂「モーレツ社員」か、さまざまなことを高レベルでこなせる超ハイスペックのスーパーマンがいないと成り立たない状況になっている。

「普通の人」が「普通に働いて」成り立つシステムにしないと学校教育に持続可能性はない。
劣悪な環境への適応戦略として、最低限必要なことしか行わないことが普通のスペックの教員にとっての最適解になっているようにも思う。

普通の人が教師になって、ワークライフバランスを維持しながら人間的な働き方ができる、そんな環境が整うことを切に願う。

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