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0→1を生み出し続けるデザイナーに聞く!これからの「つくる」に必要な価値観と視点とは?【前編】

全国の眼鏡セレクトショップに展開されている「YUICHI TOYAMA.」デザイナーであり、今や世界的にも活躍するアイウェアデザイナー外山 雄一(とやま ゆういち)
世代問わず、数多くのミュージシャンや業界人からの支持も熱い、渋谷のアパレルブランド[Milok](ミロック)のデザイナー古口 悠(こぐち はるか)

ブランドを運営する会社の「代表取締役」を務めながら、「デザイナー」としても、モノづくりの始発点である0→1を自身で担われている両者。日頃から交流のあるお二人に、ファンを魅了し続ける「つくる」という仕事、そしてその本質とは何か?迫っていきたいと思います。「つくる」ことの魅力、難しさ、ルーティン。様々な角度からお話を伺っていくと、あらゆる仕事に共通する「これからの時代をどう生きていくべきか。」、その答えの一つが見えてきた。

外山プロフィール写真

外山雄一(とやま ゆういち)
アイウェアデザイナー
株式会社アトリエサンク代表取締役
アイウェアブランド「YUICHI TOYAMA.」デザイナー
ブランドポリシーは「伝統的な技術と革新的なデザイン」。
「Neutral」(ニュートラル) 無垢なデザインと構造美。 独創的でありながら、ユーザーの日常に寄り添うプロダクトとして
国内外にて高い評価を得ている。

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古口 悠(こぐち はるか)
ファッションデザイナー
アパレルブランド「Milok」代表兼デザイナー。2005年より、東京で始動し15周年を迎える気鋭のドメスティックブランド[Milok](ミロック)。独創的なデザイン、実用性、機能美を追求した素材選び、パターンワークに定評がある。業界人からの支持も厚い。前創業者からバトンを受け継いだ。フラッグシップストア”GOOD LOSER”は今年7周年を迎えた。

ー お二人とも、毎シーズンのブランドデザインを一手に担うデザイナーでありながら、会社の代表取締役を務める立場にいらっしゃいます。この2つの肩書きを持ちながら働くというのは、とても目が回るイメージがありますが、どういった範囲までご自身の仕事領域を担われているのでしょうか?

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外山 あまりこういう話をする機会は無いのですが、実はウチの会社は明確に線引きをせずにブランドを運営しています。なので、僕に限らず社員メンバー全員共通して、固定の仕事領域はあるようで無い、というのが実態なんですよ。ブランドの企画、製造販売、PRを含めたカフェスペース(THE LOBBY TOKYO)の運営、経理など、業務領域はもちろんたくさんありますが、僕を含めた全員が全ての領域に携わっているんです。

古口 そうなんですか!?お付き合いも長いですけど、初めて知りました!

外山 そうなんですよ。ただ、その中で一つだけルールとして意識していることがありまして。ブランドを運営する「アトリエサンク」という会社の名前なんですけど、これが数字の「5」を意味していて。それが何かというと、僕が個人で活動していたときから大事にし続けている「5ルーティン」というものがあるんです。具体的には「見る」「考える」「描く」「作る」「壊す」という5つのルーティンを繰り返すことです。

プロダクトのコピー

古口 なるほど…。

外山 変化や物事の流れがあまりにも早いこの「東京」という場所で活動をしている以上、マーケットに対して常に「当事者の目線」と、それを「俯瞰する目線」を併せ持っておくことが求められると思うんです。その目線を維持しながらクリエイションすることを、この5ルーティンによってコントロールしています。それにもちろん、マーケットの中に「自分」という一人の人間が存在しているのも事実で。僕にとっては、5ルーティンを軸に、やりたいこと、生き方、デザイン、セールス、経営、これらを一つの自分というプラットフォームに埋め込んでライフスタイル=ライフワークとして、領域にとらわれず向き合っています。

古口 役職的に仕事の領域を考える以前に、仕事と生活の境目も無いってことですね。

外山 そういう考え方ですね。ただ、あくまでこの5ルーティンは僕自身のルーティンなので、強いて言うなら、社員それぞれが独自の5ルーティンを見出して仕事に取り組む、その意識を浸透させていくことが、僕の会社における何よりの仕事領域なのかなと認識しています。僕も来年50歳になるので、自身の考える5ルーティンも劣化していく可能性があると考えています。それを次の世代のスタッフに引き継いで、アップデートして、クリエイションとビジネスをより加速させていけたらと。

古口 外山さん含め社員の皆さんが並列に会社の旗のもとに並んでいる感じか。

外山 そうです。僕一人じゃなく、みんながプレイヤーになっている。その反面、彼らにも大変な思いをたくさんさせているとは思うんですけど(笑)でもウチみたいな少人数の会社は、それを武器にしていかないと、と常々思っています。キャリアの最初に務めた会社が社員数500名ほどの眼鏡の会社で。業界では大きめの会社だったんですけど、その時の業務に無駄を感じることが多々あったんです。まあ、大きいビジネスをしているが故に、会社組織を守るためにも理にかなっているとは思いますが、実際に大きな機能を果たしているのは、その中でも本当にコアのメンバーだけで。色々と聞いてみると、みんなが名前を知っているようなメゾンも、他業界の中小規模のメーカーさんもそういった実態があると。

古口 ウチの会社も、正直その通りですね。

外山 であれば、そのコアな部分だけを会社の仕組みに持ってきたらどうなるのか、という発想で今の形に辿り着いているんです。役割を決めて仕事を分断するという考え方よりも、5ルーティンに基づいて、それぞれがそれぞれの目線で結果を生み出していく。そういう考え方でブランドも会社も成り立っています。そして、そこって会社や仕事だけに当てはまるのかというと、決してそうじゃなく。人間関係も同じなんですよね。まあ、「壊す」っていう表現ではないかもしれないですが、例えば一定期間その人と会わなかったら、関係性としてある意味、壊れているわけではないけど、そこを俯瞰して見て、どう付き合うかをまた考えて、新たなものをその関係の中で一緒に築いていく。あと僕、何事もそこに「とどまる」ことが嫌いなんです。デザインもセールスも常に5ルーティンを行いながら、変化させていく。そうすることで、結果的に評価されるものが生まれていくのかなと。

ルック

古口 いやあ、お話を聞いていると、確かにそうだよなと思うことばかりですね。

外山 すみません、話し過ぎちゃいました(笑)古口さんの仕事領域についても知りたいです。

古口 ウチは外山さんのところとは対になる形態で、外注が多いんですよ。外注が多いと作業をそれぞれの役割として分断することになるので、僕が全体の真ん中にいて、それらを繫ぎ止める役割を担っているんですね。それって僕自身がジャッジをしないと気が済まないというか、隅から隅まで見えていないと不安になってしまうタイプなんですよ。中心のメンバーだけ社員メンバーで、あとは外注メンバーにお願いをしている状態です。外山さんのやり方って、ある種「任せる」っていうことができている状態じゃないですか。僕はなかなかそれができなくて…。だからこそ「任せる勇気」がすごいなと思いますよね。

外山 いや、それはめちゃくちゃ共感するけどね(笑)もちろん僕も未だに口は出すんですよ。知りたいし、参加していたい。でもその狭間で僕も練習をしている感じですよ。口で言っているほどは出来てないなと思いながら。でも逆に、外注の人たちとでうまく成立しているのは、伝達方法や言葉の選び方を古口さんの中で編集してアウトプットできているからじゃないですか?

古口 そうなんですかね。不器用というか、極端になっちゃうんですよね。それで言うと、もちろん洋服も自分でデザインするわけなんですけど、[Milok]の場合、1シーズンに25型くらい洋服を作るんです。きっと作り方が上手な人は、コンセプトを立てて、全型イメージを作って、同時並行で組み立てていくんですけど、僕の場合、ジャケット→パンツ→シャツ…と一つずつ解決しないと次にいけないんですよ。なので、クリエイションも会社経営も、自分でも非効率だなと思いながら、自分自身を中心に立てて進めていますね。

ブランドの見られ方と、自分自身の「つくりたい」モノ。その狭間にもがく1年間。

ー 外から「肩書き」を通して見ているだけでは想像できないほど、お二人の仕事領域やその考え方が異なっていましたね!ここからより「つくる」にフォーカスをしていきます。古口さんのお話に「1シーズン25型つくる」とありましたが、毎シーズン25型を0から生み出し続けるために、どのような着想や発想方法をされているんですか?普段店頭にも立たれていますし、仕事領域のお話も踏まえると、かなりハードな中でデザインを生み出しているのかなと思うのですが。

外山 古口さんが毎シーズンどうやってモノづくりをスタートさせるのか、すごく興味があります。

古口 [Milok]の場合は、「トラッド」というキーワードと「それを崩して着る」という先代の立ち上げたテーマがあって、実は自分自身のデザインのつくり方についてすごく考えた時期がありました。それがちょうど2年前、先代からブランドを引き継いだタイミングだったんですよ。

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外山 そうか、まだ2年前のことか。

古口 ブランド立ち上げ当初から存在しているテーマ。それに縛られていた部分があって。[Milok]らしいもの、お客さんに手にとってもらいやすいものってなんだろう?ずっと考えながらデザインしていて。自分でも正直「気にしすぎている」違和感もあったんですよ。自分自身の0→1を生み出す中で、本当にそこまで気にする必要あるのかなとも。ただ、やはりデザイナーだけじゃなく、経営者の立場でいる以上、それは気にしなければならないことだよな、と。

外山 うんうん。

古口 それで引き継ぎから1年間やってみて、分かりやすく売上に出ちゃったんですね。[Milok]らしいとか、トレンドっぽいという発想でつくったものが、全然売れなくて。それこそセレクトショップで販売員として働いていた時代もあったので、「こういうシルエット、こういう生地感だったら販売の立場でも売りやすいな」とか、「当時のあのブランドの流れが一周して来るんじゃないか」とか、そういう発想に引っ張られていて、結局それは手に取られない。正直かなり焦りもあったし苦しかったですね。

外山 それは堪えたでしょうね。引き継いだ者の壁というか。

古口 ただ一方で、「あ、これ自分も毎日着るだろうなあ」と思いながら作った一部のアイテムに、バイヤーさんやお客さんから分かりやすくリアクションがあって。僕、全部自分でやりたいタイプなので、生産管理担当が別にいながらでも、自分の足で工場や生地屋に直接見に行くんですよ。その中で、「これ、いいな!」と思う生地を探し当てて、それを自分の好きなように落とし込んだアイテムが、結果的に手に取られたんです。その成功体験があったことで、「自分がこれからやるべきことはこれだ!」と素直に気付けたんですね。

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外山 素晴らしい話ですね。そこから考え方も変わっていったんですか?

古口 そうですね。それまでは自分の頭の中にある引き出しを開けて「今シーズンにこのアイデアは合うかな?違うかな?」と答え合わせをするようなイメージがあったんですけど、それ以降は、単純に興味があるもの、関心が湧いたもの、出会いに感謝できるものにフォーカスするようになりました。頭の中で「整理」をしていただけの自分から、頭の中を「デザイン」する自分に変わりました。

外山 頭の中を整理からデザインって的確なフレーズですね!

古口 それにともなって意識にも変化がありましたね。すごく普通のことに聞こえるんですけど、「楽しむこと」を大切にできるようになりました(笑)今までは「忙しいからこの予定をキャンセルしよう」とか、そういう判断をしがちだったんです。余裕が無かったというか。でもそれがさらに自分の首を絞めていたわけなんですけどね。考え方が変わってからは、異様に肩の荷が降りて、インプットの量も質も変わっていったんです。自然とインプットしている自分がいて。休日も単なる休日じゃなくなりましたね。ニュースアプリを見ていても、服の話題に関係なくチェックするようになって、例えば建築物の写真を見て「このテクスチャーを洋服のアイデアに加えてみると面白いかも」とか、情報のキャッチアップの質が変わりました。それでももちろん、25型を毎シーズンつくる大変さは変わらないんですけど、つくることの楽しみが勝った時に、売上も含めてやっぱり良いアイテムたちが生まれているし、なにより自分自身の日々のインプットや変化が、25型に現れているのが自分で実感できますね。

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外山 古口さんの失敗・葛藤と成功体験、良いお話でしたね。もちろんその当時は苦しかったんだろうと思いますけど、共感するところも多かったです。僕らってデザイナーではありますけど、会社を代表する者としてセールスも行うじゃないですか?そうすると、思い入れが強いモノや、自分が自信を持って良いと言えるモノは、お客さんにも伝わるんですよね。

古口 本当その通りだと思います。売れるかどうかの不安よりも、薦めたい気持ちが強くなりますね。外山さんがどうやって眼鏡を作っているのかもぜひ聞きたいです。

この続きは【後編】「外山雄一の「つくる」の考え方と、これからの時代の発信する人々の生き方」へ続きます。

【お知らせ】
現在「YUICHI TOYAMA.」の2020AW新作を弊社ショールーム「THE LOBBY TOKYO」にて全モデル・全カラーバリエーションを展示しております。
展示のアイウェアはどなたでもご試着いただくことができ、今作のビジュアルの展示やムービーの放映などを行っております。バリスタが販売・提供するカフェドリンクをお楽しみいただきながら、「YUICHI TOYAMA.」が創る空間を是非この機会にご体感ください。
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