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珈琲の大霊師288

「ひでえ目にあった・・・」

 と、袋に詰められていた男ラグアがジョージに蹴られた脛を押さえてぼやく。

「彼は、私達の幼馴染のラグアです。ラグア、私達の家は………どうしてあんなことに?」

「お前らがタウロスと喧嘩して、外に出て行ってから、タウロスの野郎見せしめにってお前らの家を焼いたんだよ。何が神の下僕だ。野蛮なのはてめーじゃねえかって話だぜ。で、いい加減我慢してた俺達も頭に来て、立ち上がったわけよ。今じゃ、革命派とタウロス派で村が真っ二つ。人数は俺達の方が多いんだが、相手にはタウロスの他にもやっかいな連中が何人かいてよ。俺達は隠れながら、チャンスを待ってるってとこだ。そうだ、外に援軍を頼みに行ったんだろ?どうだった?」

 状況説明したラグアが目を輝かせると、苦笑いしてニカがジョージを手で示した。

「この人達が援軍よ。皆精霊使い。人数は少ないけど、心強い味方だわ。他にも大勢いたんだけど、里を荒らされるのが嫌だからっていうことで、この人達だけ」

「うぇっ!?」

「軍隊で来たら、里が荒らされる上に連中にデカイ借りを作ることになる。里は搾取されるぞ?そうならない為の俺達だ。どうやら、お前はそのタウロスとかいう奴に詳しそうだな。詳しく聞かせろ。……まずは、お前たちの拠点に案内しろ。」

 珍しく有無を言わせぬ圧力で、ジョージが促す。いつどこから誰に見られているかも分からない、そう危惧しての事だ。

 ラグアが救いを求めるようにコートの顔を見るが、コートは無言で力強く頷くだけ。

「………分かったよ」

 30分程歩いた、岸壁の自然洞窟。そこが、改革派の拠点だった。

「皆、コート達が戻ってきたぞ!」

「おお!!コート、ニカ!!よく戻ってきたな。外はどうだった?援軍は?」

 洞窟に入ると、次から次へと奥から人が湧いてきて、コートとニカを取り囲んだ。

 その誰もが、農具やオノなどで武装している事にジョージは直ぐに気が着いた。

(武力衝突を既にしているか、間近か・・・)

 頭の中で高速に計算が始まる。

「コート、そこの人達は?」

「ああ、この方々が、俺達のえんぐ・・・」

「援軍代表、ジョージ=アレクセントだ。軍は、里の外に控えてる。全員が攻め込むと里を確実に荒らしてしまう為だ。里は道幅が狭いこともあり、大勢で乗り込むには不向きという事もある。必要最低限の要員で解決する為、精霊使いである我々が先んじて参上した。状況を聞かせてくれ」

 いつもとは別人のようにきびきびと話すジョージに、コートとニカが目を丸くする。その横では、里の面々が頼りになる人が来たと安堵の溜め息を漏らすのだった。


 タウロスの里は2分され、特に現状に不満を持っていた改革派はタウロスに追われて家から逃げざるを得なかった。

 人々は、タウロスが気にしない崖に拠点を作り、細々と生活するしかなかったのだ。

「・・・しかし、よくそれで生活できたな」

「ああ、それはこちらにも力強い味方が一人だけいまして・・・」

 と、ジョージが驚嘆していると、話し相手が洞窟の奥を指差した。

 薄暗い松明の火に照らされて、岩に毛皮を敷いただけの簡易的な寝床に寝ていたのは、ジョージの見覚えがある人物だった。

「・・・ヒューイ?ヒューイか?あれ・・・」

 ジョージは目を見張る。無限回廊で出会った風の精霊使い、ヒューイ。その面影を残した少年が、そこに寝ていた。いくぶん、成長し身長も伸びているように見受けられた。

「お知り合いですか?彼は、父を探してこの里に来たんです。・・・2年程前に」

 ジョージの様子を見て、ニカが補足した。

「・・・あいつは父親を探してたはずだ。・・・いるのか?まさか、この村に・・・」

「・・・はい。ただ、父親の方は・・・タウロス派なんです」

 それを聞いたジョージは、一度額を押さえて呟いた。

「風の寵児が敵側・・・か。こりゃ、ヒューイから事情を聞いた方が良いな」

 珈琲を飲んで一息入れたい。という想いに突き動かされ、ジョージはモカナを呼ぶのだった。

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