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珈琲の大霊師271

「この先には、土の精霊の大洞窟がある」

 そんな事を旅人から聞いたのは、その夜の事だった。

「連中、閉鎖的で気に入った奴しか洞窟には入れないって話でさぁ。ただ、気に入られれば特に修行もなく、精霊使いになれるってんで、洞窟には全国から一発逆転を目指すような連中が集まって、1つの集落を作ってるんだ。独特の雰囲気があって面白いぞぉ?霊峰アースに向かうなら、寄ってみるといい」

 赤ら顔で、鼻の歪な商人は気前良く情報を寄越した。気の良い奴だが、損をしているのだろうなと勝手に哀れむ。

「そうかそうか。面白い事を教えてくれて有難うな。礼と言っちゃなんだが、ガクシュのある商会への招待状をやるよ。公に出回ってない商品を安めの値段で仕入れられるはずだ。途中で誰かに盗られるんじゃないぜ?」

 ニヤッと笑って、会長の特権だけ行使する。良質な珈琲は、うちの商会が全部抑えてるから、適正値段で仕入れても、まだカフェの無い地域では十分な需要があるはずだ。

「へぇ。まぁ、期待しないで行ってみるよ。人生を楽しく生きるには、期待しない事も大事だからなぁ。楽しめる時に全力で楽しめば、まぁ多少貧乏でもなんとかなるもんだよぉ?」

 完全にその日暮らしの思考だが、馬鹿にはしない。それもまた真実だ。

「んん?兄ちゃん、良いネーチャンと一緒なんじゃねえか。いやぁ、羨ましいね」

 と言って、商人が顎で示すのはルビーとカルディ。いや、カルディはともかく、ルビーはまだガキだろ。そう言うと、商人は首を振り、ルビーはなぜかそっぽを向いた。

「分かってないね兄さん。女はそのくらいが食べ頃なのさぁ。北の方には、それ専用の娼館があるんだよぉ?んー、つやつやした肌、情熱的な瞳、良いなぁ。口説いたら相手してくれるかな?」

「やめといた方がいいと思うけど、試す分にはタダだな」

 その夜、赤ら顔の男は酒場で宙を舞った。



「くぉらジョージィ!!あたいとヤる事を許したって何さコラァ!?」

 部屋に戻るや否や、気配を消して後ろから着いてきていたルビーに胸倉掴まれて壁に押し付けられた。

 今までにない剣幕で、正直命の危険を感じるレベルだ。ふーふー息を荒くして、顔を真っ赤にして、まるで猛牛のようだ。

「いや、俺はやめといた方がいいけど、試す分にはタダだって言っただけだぞ?結果は見えてたしな。ぶっとばすとまでは思わなかったけどよ」

「ぶっとばすに決まってるさぁ!!あんたも、宙を舞ってみるかい!?」

 ぎゅうっと、ルビーの拳から音がした。そうか、鍛えた人間は本気で拳を握ると音がするんだなやべえどうしよう。マジで怒ってらっしゃるぞ。この拳は人を殺せる拳だぞ。守られて来た俺が保証する。

「待った!待った!俺が悪かった!あれだ、今までそういうの気にしなかっただろ?お前も年頃になったってことだな!」

「あん?・・・年頃?」

「お、おう・・・・・・。ガキから女になってきたっていうかな?前はそういうの気にならなかっただろ?」

「・・・・・・まあ、そうさね。あれ?なんで気にならなかったんさ?」

「そういうもんなんだよ。あー、見りゃあルビーも旅してる内に成長してんだな。背は近づいてきたし、顔もどことなく女っぽさ出てきてるしな。そろそろ子供も卒業か」

「・・・・・・え?皆こうなるのさ?」

「まあ、大体な。むしろ、お前は遅い方じゃないか?いや、モカナはもっと遅いと思うんだが」

(じゃあ、ジョージと一緒にいると胸がもやもやすんのは・・・皆同じなのさ?)

「・・・もういい」

 そう言ったきり、何かつまらない物を見たような残念そうな顔で、ルビーは出ていった。とりあえず、乗り切ったが、今後は扱いを気をつけようと心に決めたのだった。

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