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珈琲の大霊師169

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第23章

     空回る知識

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 幌馬車はアディア連邦の主要街道を北に向かって進んでいた。

「この辺りは、アディア連邦でも数少ない内陸の都市、陸の入り口ドバートの領域ですね。アディア連邦は、海辺の都市が主要になっていて、その沿岸地帯を覆うように宿場町や、砦があるんですよ。その連なった砦の中心が、ドバートです。ドバートは、陸と海を繋ぐ陸路の流通拠点であると同時にアディア連邦の陸軍の本部が設けられている要所なんです。ここから、各都市の連邦軍駐屯所とか、砦への派兵をしてるらしいです」

「ほぉ~、さすがだな。リフレールも博識な方だと思うが、本職には敵わねえな」

 シオリが拉致されたのは、リフレールが抜ける事による知識面の弱さを補う為だ。頼んでもないのに、説明を始めたシオリに、ジョージは御者台から賛辞を送る。

「いやっ、そ、それほどでもありません」

 とは言いながら眼鏡を弄っているが、シオリの顔は満更でも無さそうだ。

「アディア連邦の守りの要なので、関所のチェックはかなり厳しいらしいです。まぁ、この馬車には特に危ない物なんてありませんよね?」

「そうだなぁ……。ルビー、そういや武器は何か持って来てるのか?」

「当たり前さ」

 と言うと、後ろの腰からスラリと曲刀を取り出す。ハーベン王から一人前の戦士になった時にもらった名刀だ。銘は無いが。

「ツェツェの戦士はこれを肌身離さず持ってて一人前さ」

「あ、ドバートは武器の携帯許されてないんだって」

 と、シオリが軽くルビーに言う。年下への態度と、目上への態度が明らかに違う。

「えっ、じゃあ武器はどうするんさ?」

「一度預けて、街を出る時に返してくれるんだよ」

「げっ……、そこ、寄らないで行けないさ?」

 苦い顔をして御者台のジョージに聞くと、ジョージは少し考えた後で首を横に振った。

「食料を買わないといけないからなぁ。寄らないって選択肢は無しだ」

「……ちゃんと返ってくるさ?」

「……大丈夫だろ」

 アディア連邦にとってみれば内陸側への顔なのだ。変な事は起こらないだろう。

「大丈夫だよ。ドバートは、深夜に女性が出歩いてても大丈夫なくらい治安が良いって話だから」

 シオリがそう笑ってみせ、ルビーはうーんと頭を捻りながらも進路に同意するのだった。

 アディア連邦の陸の要衝、ドバート。アディア連邦の陸の武力と言うだけあって、街をぐるりと囲んだ外壁は強固で、かつ最新鋭とも言える技術が結集されている事が伺えた。

 その不可思議な外壁を幌から身を乗り出したルビーが物珍しそうに見上げていた。

「なんだか、つるっとした見た目さぁ」

「ほんとですねぇ~」

 2人が外壁を見上げていると、いつの間にか背後に近寄っていたシオリがメガネをくいっと持ち上げて、頼まれるでもなく解説を始めた。

「実際つるつるなのよ。外壁の凹凸を無くす事で登る事ができないようにしてあるの。ダフト加工って言って、加工と維持に物凄い手間がかかるらしいわ。一度も戦禍に見舞われた事の無いドバートならではの仕様ね。外壁の上層が白いでしょ?あれ、大理石なんだよ」

「へぇぁ!?だ、大理石ってつるつるぴかぴかのめっちゃ高い奴じゃなかったさぁ!?」

「そう。その大理石。ここからじゃ見えないけど、外壁の頂点部は角という角が全部削られて丸くなってるの。そんな所にフックを投げ込んだらどうなるかな?」

「バカにするな。そんなんじゃ、引っかかるワケが無いじゃないさ」

「そういう事。うーん、他にも東西南北の色んな技術が散見できるわ。あの小さな穴は、石礫を火薬で射出する装置、角度は一定だけど、一つ一つ角度が微妙に調節してあって、死角が無いように設計するんだって」

「へぇ~。あんた、本当に物知りさね。歴史とか、言い伝えとかの専門なんじゃないのさ?」

「歴史には、戦術史も含まれるからね。最近のよりは、昔の方が詳しいと思うけど」

「……ツェツェにはいないタイプさあんた」

 ちなみに、ツェツェにはそもそも古代語の本を読めるような知識層はそもそも存在していない。ツェツェ内は、少数の共通語の本と、口伝でまかなっているのだ。

「そうなの!?わぁ~素敵!今までツェツェの民族史に関しては他国の目線で書かれたものしか見た事ないの。口伝、纏めてみた~い!!」

「あんたがそうしたきゃ、ツェツェに連れてってやるさ」

「ホント!?未編集の口伝を、本に纏められるなんて、これであたしも歴史家の仲間入りなんて……グフフ」

(連れてって、なし崩しに文官になってもらえばツェツェの為になるさ~)

 ちゃっかり腹を黒くしているルビーだった。実際、ツェツェの文官の無さには国王であるハーベンも頭を悩ませている。何せ、専門の文官職が無いのだ。何せ、国民総兵の国柄なのだから。

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