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珈琲の大霊師272

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第33章

    呻きの洞窟・土の囁き

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 ヘラの村から、馬車に揺られる事五日間。

 《土の精霊の大洞窟》、という名前で知られている、鍾乳洞の入り口にはちょっとした町ができていた。

「ここは作物の出来が良いからな。辺鄙な土地だけど、畑作にはもってこいの土地なんだ」

 とは、宿のおっさんの言。

「なんでも土の精霊に気に入られるには、土と語らうのが一番とかって話でさ。俺もかれこれ半年くらいここで畑仕事してるんだ。なんか体よく使われてるような気もするんだけどさ~」

 と言ったのは、飲み屋で隣になった若者。

「土の精霊は、クセはあるが一途な連中だ。認めるまでには時間がかかるが、一度認めた人間を見捨てることは絶対にない。職人肌の精霊だな」

 そう言って、掌に載せた岩の塊のような精霊を撫でたのは、洞窟の入り口に立つ熟練の土の精霊使い。

 そうやって情報を集めつつ、カルディの目について検討する。

 なんとか洞窟に入る事ができれば、カルディの目を元通りにしてやれるかもしれない。

 ただ、その為には土の精霊使い志望でなくてはならない。

 既にカルディは土の精霊と契約している。となると、この一行の中で精霊を持っていない人間が対象となる。

 つまり、俺だ。

 そんなわけで、俺、ジョージ=アレクセントはこの歳になって唐突に土の精霊使いを目指す事にしたのだった。

「ジョージさん、大丈夫なんですか?」

 不安げにモカナが見上げる。その肩で相棒のドロシーは相変わらずくるくる回っているが、元々精霊に気遣いは期待していない。

 土の精霊の大洞窟には、志望者のみしか出入りを許されない。俺は、慣れない精霊使いの衣装に身を包み、大量の食料を片手に、これから洞窟に乗り込む所というわけだ。

「誰もついていけないんだから、仕方ないさ」

 ルビーはいつも通りサバサバしていて気を使わなくていいから楽だ。

「私がついてってあげるから、寂しくないよ!」

 まあ、そう。人はついていけなくても、鉢植えの持ち込みくらいは問題ない。中は当然のように日の光は差し込まないから、数日に1回鉢植えを交換する必要はあるが、孤独でないというのは有難いものだ。

「心配、です・・・」

 自分の目の為にという話を聞いて、カルディがずっと恐縮しているのが気に食わない。今回の事はモカナの故郷に行くに当たって、心残りを残しておきたくない俺の我が侭のようなものだ。

 これまでの情報を整理すると、故郷に戻った山の御使いは今までただの1人もこちら側に戻ってきていない。俺にそのつもりがなくとも、戻ってこられない可能性はある。

 この懸念は誰にも話していない。俺が分かっていれば済む話だしな。

 もしそうなった時、心残りは残しておきたくない。ルナとリフレールには、どうやら俺の子供がいるらしいから、最悪カッコつくが、カルディは俺が決めて俺が助けた奴だ。せめて、目をなんとかするまでは付き合ってやりたい。

「まあ、別に死ぬわけじゃないんだから、あんまり心配すんな。モカナ、ルビー、俺がいない間カルディを頼んだぞ」

「・・・はい!任せて下さい!」

「はいよ、精々頑張ってくるさ」

 3人に見送られて、洞窟に足を踏み入れる。大洞窟の図体に見合わない小さな入り口の側には、大きな土の巨人が立っている。こいつが門番というわけだ。

「ご苦労さん」

 その足をぽんぽんと叩いて、俺は薄暗い洞窟への身を滑らせるのだった。

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