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珈琲の大霊師297

 川の消失に加え、続けざまの東軍の策は森を狙った火矢だった。

 小規模とは言え発生した火災は、見る間に広がり、伏兵達を森の外へと追い出していった。

「馬鹿な・・・!!初めてのこの遊戯で、何故伏兵の場所が分かる!!」

 タウロスが吼える。

「昔はいざ知らず、今や戦争は情報の時代だぜ?調べりゃ伏兵の場所だって検討がつく。そこにいると分かってるなら、撃たない手はないだろ?」

「くっ・・・しかし、川を止めたのは悪手だったな。騎馬隊、突撃せよ!!」

 本来、即座に川に橋をかけて突撃する予定だった精鋭の騎馬隊は、川が無くなった事で意表は突けなくなったものの、東軍の右翼から全速力で切り込む事ができた。

「やっぱ戦場の花形は騎馬だよなぁ。ま、地味に対策させてもらうさ」

 その騎馬隊に対し、重装備の槍兵が槍衾を構成して立ちはだかる。が、そこはさすがに精鋭。即座に方向転換し、槍衾に対し側面攻撃をかける。

 が、側面攻撃をかけた精鋭に対し、今度は東軍の騎馬隊が横合いから突っ込んだ。

「そっちの軍は騎馬隊が有名だからな。ここで喰い散らかせてもらう!!」

「させるか!歩兵前進!!騎馬隊の道を開けろ!!」

「力づくだなぁ・・・。犠牲は大きいぜ?タウロス」

 双方の兵が入り乱れ、殺しあう。

 遊戯上の数値がガタガタと下がっていく。

 夕暮れ時、空を暁に染める夕日よりも紅く、大地が血を吸って黒ずんでいた。



「・・・互いに大分消耗したなタウロス」

 死屍累々といった戦場を見下ろし、ジョージがタウロスを見上げて言った。

「まさか、ここまでやるとは思わなかったぞジョージ・・・。貴様は、確かに俺よりこの遊戯の可能性を引き出している。だが、勝つのは俺だ。温存していた後列、前進せよ!!」

 タウロスは恐らく最後の勝負となる、温存していた最後の部隊を戦列に加える。これで、殆ど総力戦だ。

「疲弊した部隊で受けるのは得策じゃないな」

 戦場にのろしが上がり、東軍が下がり始める。もはや西軍もそれを無闇に追ったりはしない。

 何度も奇策にはめられて、慎重になっているのだ。

「戦術では負けたが、兵の質では俺の方が上だな」

「全くだな。重装槍兵までなぎ倒す騎士ってのは、どういう部隊なんだよ・・・。おかげで、あれだけ準備したってのに、数がどっこいだもんなぁ。こっちも士気が上がらねえよ・・・。」

 ジョージの陣営では、脱走兵も出始めていた。熾烈な戦いが続き過ぎ、次はわが身だと誰もが分かっているからだろう。

 元々が違う国の寄せ集めだけあって、日に日に兵士が減っていくのが、残された釜の数から分かった。

「その通りだ。俺の国は、勝つべくして勝つ。貴様のようなイレギュラーは許さん。突撃!!」

 西軍が突撃を開始する。東軍の最前列は、これに対応し、隊列を素早く組みなおして後退しながら防御に回った。西軍の突撃は、東軍にやんわりと受け止められる形となった。

「消耗戦では、兵の質が物を言うぞジョージ。降参したらどうだ?」

「さて、ただ生き残ろうと守る兵を、いくら精鋭とは言えどのくらい凌駕できるかな?集中力が切れた時が、お前の負ける時だぜ。タウロス」

「抜かせ・・・。このまま押し切る!」

 最前線では、激しいぶつかり合いが始まっていた。永遠に続くかと錯覚する程の激突の中、ジョージの人差し指が最後の策を描いた。


 暫くして、兵の質で押す西軍の本拠地に早馬が入る。

「なっ・・・・!?馬鹿な・・・!退路と同時に、補給路を・・・絶たれただと!?一体どこの軍だ!!・・・アレクシア=イエメン・・・だと・・・。山猿がぁっ!!急ぎ後列を向かわせよ!必ず突破せよ!」

 西軍の将が吼え、東軍の後ろにそびえる山の頂を見る。そこには、変わらずアレクシアの軍の旗がはためいていた。陣地もある。

 が、兵はそこにいなかった!

 アレクシアの軍は、戦場を大きく迂回し、西軍の背後に回り、補給路を絶ったのと同じくして退路を絶ったのだ。

 慌てて兵を揃えようとする西軍の最後列。近衛兵達は、これから向かう先から黒々とした煙が上がっているのを発見した。

「これは・・・っ!!まずい!!急げっ!」

 その黒々とした煙は、当然東軍にも見えた。

「あの山猿め・・・!!やってくれたぞ!!敵の退路、補給路は絶った!!押し返せ!もはや奴らは今夜の飯にもありつけん!腹の減った兵なぞ恐るるに足らず!全軍突撃せよ!!」

 ウオォオオオオオオオオオオオオオオオ!!

 東軍があらん限りの声を張り上げ、勇気を張り上げて前進する。例え精強な兵にぶつかろうとも、2人で1人を相手取り、押し始めたのだった。

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