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珈琲の大霊師286

「・・・大体纏まったな。輸入品については、まず3国の商人が集って会議をした上で取り決めということで。異論は?」

「議論は尽くしました。・・・納得はしています」

 ヤモンドの王子は、手応えありといった顔でジョージに笑いかける。ジョージは会議中、極力声の大きい人間だけの意見にならないようにバランスを取っていた。それがなければ、まだまだ世間知らずの王子には荷が重い仕事だっただろう。

「よし。では、これで全ての取り決めが完了した。後は、俺達の番だ。まあ、障害はあるだろうが・・・。里の中で1ヶ月を期限にする。あと3日、約束の通り全軍の1割を残して待っててくれ。それで戻らなかった時は、恐らく殺されてる。あんたらも欲をかかずに撤退した方がいい」

「・・・しかし、それでは私達もいくらか兵をお貸しした方が宜しいのでは?」

 と、イリェの将軍が心配そうに提案する。どうも、個人的にジョージを気に入ったようだった。

「いや、俺たちはこう見えて・・・ネスレ」

「はいよう!」

 ジョージが呼びかけると、ぞわっとその方に土の精霊ネスレが、モカナの頭上にドロシーが、ルビーの肩にツァーリが現れる。ジョージは、ちらっとカルディを見た後、視線を将軍に戻した。

「基本的に精霊使いだ。いざって時に、俺達に制圧できなけりゃ、軍でもまず無理だと思った方がいい。大人しくしててくれないか?」

「・・・火、土、水の精霊使い・・・。なるほど、里と言うだけあって道も狭いでしょうしな。大軍が有利な地形でもないでしょう・・・。分かりました。そのような事がないように祈っておりますが、ご武運を」

 将軍職に祈られてくすぐったい気持ちになったジョージだったが、直ぐに表情を引き締める。

 そして翌朝、ジョージ達は巨大な滝の前に立った。

「では、まず私達が滝を開きます。少し下がっていてください」

 コートとニカの姉妹が滝の前に立つと、その声をかき消しそうな程の轟音を立てて落ちていた滝の中心が割れ、奥に洞窟が表れた。

 一切の光が見えない、暗闇の洞窟だ。

「どうだ?リルケ」

「誰もいないよ。ジョージさん」

 滝付近に待ち構えての出迎えを心配していたジョージだったが、杞憂に終わった。

「危機感が無いんじゃねえのか?」

 と、ジョージの肩でネスレがいぶかしげに唸る。と、そこに突然大音響で謎の笑い声が響いた。

「あびゃー!!あぎゃぎゃぎゃぎゃ!!おもちろい!」

 見れば、ドロシーが滝に同化して巨大に広がっていた。モカナが慌てて戻そうとするが、どうやって戻ればいいのか分からず、結局口からぴゅーと水を吐き続けて元のサイズに戻るまで、ジョージ達は待たなければならなかった。

「あ、兄さん虹」

「・・・口から出てると思わなければ、綺麗だな」

 革命家姉妹は、苦虫を噛み潰したような顔をしていたのだった。


 薄暗い洞窟を、ツァーリの炎を頼りに進む。

 幅はかなり広く、馬車でも通れそうに見えた。

「・・・やたら広いが、昔は外と交流があったのか?」

 ジョージが、コートに尋ねると、コートは頭を振った。

「分かりません。タウロス曰く、1万年以上前からここにいたそうですし、最初からこうなっていたとの事ですので」

「・・・最初から・・・ね。そのタウロスってのは、どうも里で生まれたように聞こえるな」

「?ええ、多分・・・。そうですね。それが何か?」

「よく考えてみろ。里の人間は、いつ、どこから来た?それとも、この里から全ての人間が始まったのか?どっちが先だ?って事だ。ある程度の人間を引き連れて、この里に入ったのか、この里から少しずつ人間が外に出て行ったのか。それによって、この広さの意味合いが変わってくる。・・・ちなみに、タウロスってのは、でかいのか?」

「はい。大きいですね。ああ、そういえばこの洞窟を屈んでやっと通れるくらいです」

「・・・なるほど、そりゃあでかいな。反抗しづらいわけだ」

 そうこう話している内に、洞窟の先に光が見えてきた。

 とうとう、タウロスの里へと到着するのだ。

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