アクティビストで変わる信託銀行の役割

A:信託銀行のビジネスというか、役割が変化してきているそうですね。

T:アクティビストの活動が非常に活発になっていることもあり、企業から経営戦略に関する相談が増えている。そのため、大手の信託銀行は相談体制を大幅に強化している。

A:具体的にどんなことをしているのですか。

T:経営戦略に関わるテーマは広範多岐にわたるものの、目立つのは、対話(エンゲージメント)の支援と株主判明調査。また、買収の対抗策に関する相談も増えている。

A:従前は株主名簿の管理というか、膨大な事務作業を請け負う黒子という印象でしたが。

T:いまもそうした業務は中核業務の一つ。けれど、アクティビストの活動や提案が契機となり、政策保有株式の売却、自己株式取得、TOBにMBOなどなど、コーポレート・アクションが激増。そのため今では、黒子どころか、コーポレート・アクションの最前線になりつつある。

A:言われてみれば納得ですが、知らない間に、大きな変化が起きていたのですね。

T:政府が2023年末に資産運用立国実現プランを策定・公表。その後、メガバンクは、資産運用業を、銀行・証券・信託に次ぐ、第4の柱にするといった方針を示してきた。いまや、信託が起点となって、銀行や証券のビジネスが生まれる状況になりつつある。

A:アクティビストの活動の影響はこんなところにも及んでいたとは、です。

T:知る限りでも、三菱UFJ信託銀行、三井住友信託銀行、みずほ信託銀行はいずれも人員を増やしている。IR経験者を採用する動きも活発で、IR経験者のキャリア・パスも広がっている。

A:これまでアナリストなどがIRに転職することはよく見られていました。今はIR経験者が企業へアドバイスするコンサルタントになる流れ。今後は余っているとも言われるアナリストが、コンサルタントに流れていくかもですね。

T:これまでも、そうした流れがなかったわけではないけどね。これからさらに加速するかも。

A:株主判明調査ですが、この重要性も年々増していますよね。

T:うん。アクティビストの保有の有無だけではなく、仮にアクティビストが提案をしてきたときに、安定株主として機能する株主がどの程度存在するのかを把握するためにも、株主判明調査は重要。

A:それにしても、株主判明調査は1回あたり数百万円もしますし、このような調査をしないと企業が自分たちの株主を把握できない仕組みが非常におかしいと思います。

T:だから、企業が株主を把握できるようにしようという流れはある。一方でまた、資産運用を行う側は、手の内を見せられない。だから、こうした調査が完全になくなることは当分ないと思うよ。

A:確かに、アセットオーナーも、その資金を受託して運用する資産運用会社も、自分たちのポジションをできれば公開したくないですよね。

T:このあたりの見直しに関しては、例えば、企業の支配を目的とする場合には、実質株主を明らかにさせる仕組みを導入すべきといった考えなどを聞いたことがある。

A:それはいい考えですね。企業の支配を目的としない純粋なポートフォリオ投資と、企業の支配などを目的とした投資とで、別の制度があってもいいかもしれませんね。

T:ただ、そうした場合も、グレーゾーンで活動する勢力は必ず存在すると思うけどね。

A:そもそも株主の権利が強いのが日本。だから安定株主が必要だったわけですし。大量保有報告制度にしろTOBにしろ、脱法行為を許さない仕組みづくりなどにおいて、信託銀行が活躍するかもですね。

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