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サンドーラ大戦
Sゲームブッカー
「また同じ夢か……」
レオンはもう3日続けて同じ夢を見ていた。夢の内容はこうだった。レオンは見知らぬ街に立っていた。突然路地裏の方から助けを求める少女の声がする。声のする場所に急いで向かうと、5人のチンピラが金髪の美しい少女を取り囲んでいる。少女を助けようと駆け出したところでいつも夢は終わった。
レオンはそう呟き、ベッドから起き上がると制服に着替える。妹のラミアにおはようのあいさつをすると、母が用意してくれた朝食を食べ、学校に向かう。その頃、レオンの父エイリークは、寝室の窓から見える裏の山を見つめ、16年前のあの日のことを思い出していた。
星の綺麗な夜、目も眩むほどの光を放つ流星が、家の裏の山に落下するのを目撃し、妻フローラと2人でランタン片手に見に行くことにした。そこには巨大な穴が開いていると予想して向かったのだが、ただ置いてあるように銀色に輝く物体があるだけだった。
2人で近づいていくと、それはカプセルのようだった。卵型で横1メートルほどの。カプセルに手を伸ばすと、触れる前にカプセルの上半分がゆっくりと開いた。中を覗いてみると、そこにはきらめく白い布に包まれた可愛い赤ん坊が眠っていて、小さな右手にはクリスタルの棒のようなものをしっかりと握っていた。
カプセル内部のその右手の側から突き出た部分には、そのクリスタルがはまりそうな穴が開いていた。エイリークはそうしなければならない気がして、赤ん坊の手からクリスタルを取り、その穴に差し込んでみた。すると、クリスタルからこの赤ん坊の両親と思われる若い男女のホログラムがカプセルの真上に映し出された。二人の顔や防具はあちこち傷ついてはいるが、どちらも心が強そうに見えた。女性の方が語り始める。
〈私たちは地球から遠く離れたサンドーラ星で、妖魔という地底から来る怪物たちとの戦いを繰り返しています。とうとう妖魔たちは聖域にまで乗り込んできました。私たちは、もう助からないでしょう。サンドーラは妖魔族によって滅ぼされるかもしれません。地球の心優しき皆さん、この子をどうか、どうかお願いします!〉
そう言い終わるとホログラムは消えた。フローラに白い布に包まれた赤ん坊を抱かせて、カプセルに手を伸ばそうとした瞬間、クリスタルがはまったまま上半分がゆっくりと閉まった。クリスタルを抜こうと開けようとしたが、一体化したかのように上下の境目が見当たらなくなっており、二人のあの顔を見た後では、破壊する気にもなれず諦めた。
両手で持ち上げると驚くほど軽く、それでいて丈夫そうなカプセルを回収し、家へと戻った。
2人で1日考えて、獅子のように強い男に育ってほしいという願いを込めてレオンと名づけ、自分たちの息子として育てることにした。
レオンは授業中、あの夢のことを考えていた。同じ夢を3回も。きっと何かある。
「小林、次から読んでくれ」
国語の教師滝沢の自分を呼ぶ声で我に返る。教科書を持ち、椅子から立ち上がる。突然レオンの頭の中にあの夢の少女の助けを求める声が響く!
「どうした、小林。聞いてなかったのか?」
レオンがぼんやりと立ったままでいるので、滝沢はレオンに歩み寄り、肩をつかもうとする。その瞬間、レオンの体は教室からフッと消えた。持っていた教科書が机の上にバサッと落ち、レオンの様子を見つめていた1人の女子が悲鳴を上げる。
……気がつくと、レオンは見知らぬ街に立っていた。いや、見覚えがある。あの夢の中の風景とまったく同じだ!
そう思って辺りを見回していると、路地裏の方から助けを求める少女の声がする。レオンが夢のときと同様に声のする場所に急いで向かうと、5人のチンピラが金髪の美しい少女を取り囲んでいる。あの夢の少女だ! 1人がレオンに気づく。
「邪魔立てしようってのか!」
そう言うと、チンピラたちが殴りかかってくる。レオンは1人目のパンチをかわし、足払いで派手に転倒させる。そいつは地面に腰を強く打ち付けてうめいている。
「野郎!」
そう言って2人目が突き出したナイフを軽くかわし、みぞおちに膝蹴り。3人目は後ろ回し蹴りでまたたく間に3人がやられ、それを見ていた残りの2人は起き上がれない仲間たちを置いて逃げていく。座り込んでいた少女に駆け寄る。
「君、大丈夫? 怪我はない?」
「ええ、どうもありがとう」
少女はそう言って立ち上がる。
「ところで、ここはどこ?」
レオンはそう聞いてから辺りを見回す。
「ここはサンドーラ第2の都市ラースですけど」
少女はなぜそんなことを聞くのだろうといった様子で答える。
「サンドーラ? ここ地球じゃないの?」
「チキュウ? いいえ、ここはサンドーラよ」
レオンは授業中のことを思い出していた。滝沢に呼ばれて立ち上がると、突然少女の助けを求める声が頭の中に響いてくる。次の瞬間、この星に来ていた。
まさか、俺がテレポートした? いや違う。俺はこの星のある場所など知るわけがないのだから。だとしたら、誰の仕業なんだ?
「どうしたの?」
ぼんやりした表情で佇むレオンに少女が問いかける。
「どうやら俺は、地球からこの星にテレポートしたらしい」
「えっ? あなたエスパーなの?」
少女は驚いた表情でレオンのことをじっと見つめる。
「いや、たぶんこの星の誰かが、俺をここにテレポートさせたのだろう」
レオンはしばし考えてみる。
「考えてみたところで仕方がない。それに、ここに来たことで君を助けることができたんだから」
レオンと少女は少し歩き、立ち止まる。
「俺はレオン。君の名前は?」
「セピア。セピア・ライオット」
少女はそう言うと、急にレオンに寄りかかる。
「痛い!」
セピアという少女がうずくまる。
「どうしたの? 足首でもくじいた?」
「そう、みたい」
きっとチンピラたちから逃げる際にくじき、それで逃げ切れなかったのかもとレオンは思った。
「それじゃあ、俺がおぶってあげるよ」
そう言うと、背を向けてしゃがみ込む。
「えーっ、でも……」
周りの目を気にして躊躇する。
「いいから早く」
そう言われ、恥ずかしそうにおぶさる。
「セピア、これからどこに行くの?」
「今晩泊まるところへ」
「泊まるところ? 家には帰らないの?」
レオンは繰り返し聞く。
「この街には、私の家はないの」
セピアの顔が少し曇る。けれど、前を向いて歩くレオンは気づかない。
「そうか、わかった」
レオンは内心何か事情があるなと感じた。ホテルはセピアの案内ですぐに見つかった。フロントの男性が二人を見て言う。
「20クエストになります。前金でお支払い願います」
「あ、俺はここで失礼するよ」
レオンは出口の方に向かおうとする。
「待って!」
セピアは懇願するようにレオンを引き止める。
「何かわけがあるようだね」
レオンはセピアの隣に戻る。
「ところでセピア、お金持ってる?」
「ええ、少しは」
セピアは宿泊代を払い、部屋の鍵を受け取る。
「レオンさん、行きましょう」
「レオンでいいよ。こっちもセピアでいいだろう?」
「ええ、じゃあレオン」
エレベーターで5階まで直行、部屋は隅のスイートルームだった。
「へぇ、なかなかいい部屋だね」
レオンは部屋の中を見回す。
「じゃあ、俺はこれで」
そう言って、部屋を出て行こうとする。
「えっ、どこに?」
セピアはレオンに歩み寄りかける。
「外で寝るのさ。女の子と一緒の部屋じゃあまずいからね」
「でも、外は危険よ。ここにいたほうが安全だわ」
「俺のことなら大丈夫。じゃあ、お休み。明日の朝また会おう」
レオンはそう言うと部屋から出て、エレベーターに乗り込む。セピアは仕方なくドアを閉め、鍵をした。
ホテル近くの公園のベンチで野宿することにしたレオンだったが、真夜中3時頃、ガラスの割れる音で目を覚ます。その音はホテルの方からしたようで、素早く起き上がると駆け出す。
ホテルの上を見上げると、月明かりに照らされた5階の窓ガラスが大きく割れており、真上の6階の部屋からロープにぶら下がる怪しげな黒装束の男が2人、割れた窓から部屋に入っていくのが見える。
「しまった!」
それはセピアの泊まっている部屋だった! レオンはそう言うが早いかホテルへ駆け戻り、エレベーターに駆け込む。
鍵のかかった部屋のドアを蹴破ると、中には黒装束の2人の男がいて、1人は拳銃を構え、もう1人はセピアを羽交い締めにしていた!
「動くな! 動くと……」
言い終わらぬうちに、突きつけられた拳銃をレオンは中段回し蹴りで遠くへ蹴り飛ばす。素早くもう1人の右腕を手刀でへし折り、セピアを解放する。拳銃がなければこっちのもの。
殴りかかってくる男たちのパンチをかわし、みぞおちに前蹴り。片腕で殴ってきた方の左腕も極め、へし折る。それを見たセピアは悲鳴を上げ、腹を押さえてうずくまっていた方は恐れをなして、割れた窓の外にぶら下がるロープで上の階へと逃げていく。
レオンは拳銃を拾い上げ、両腕をへし折られてロープで逃げることもできずに座り込んでいる男に拳銃を突きつける。
「誰に頼まれた!?」
「グ、グラムサイト様です」
男はそれだけ言うと、立ち上がって逃げようとする。レオンはとっさに拳銃を向けようとして、弾丸が一発も込められていないようだと気づく。男はそのまま蹴破られたドアから逃げていく。
セピアはレオンにしがみつき、震えながら、「お願い、一緒にいて」と泣くのだった。レオンは夢のこと、この星に来てからのことを思うと、セピアに運命的なものを感じずにはいられなかった。レオンはセピアと一緒にいてやることにして、ひとつのベッドで眠りについた……。
次の日の朝、二人は街に出た。レオンは今頃、自分が制服のままなのに気づく。
「この服、可笑しいだろう?」
「ええ、少しだけ」
セピアのために戦ったときも、寝るときでも制服だったのだから。
「服を買うにも金がいるな。あれは?」
レオンが指差したのは、広場で何かを囲むようにして集まる人だかりだった。
「力士が挑戦者を募っているのよ。もし勝てたら賞金をもらえる」
人だかりに囲まれていても、その力士の男の首から上がここからでも見えている。2メートル20センチはあるだろうか。
「よし、腕試ししてみるか」
レオンはそう言うと、人だかりをかき分けていく。
「やめてレオン! 恐ろしい殺人拳の使い手なのよ!」
セピアはそう言って引き止める。
「大丈夫。心配いらないよ」
リングのようなものはなく、筋肉隆々の大男がただ腕組みをして仁王立ちしている。体重は200Kgを超えていそうだ。円になって見守る見物人たちがまるでリングを形作っているようだった。大男が大声で吠えるように言う。
「さあ、みんなどうした! 誰かこの俺に挑戦する者はいないのか!? もし俺と戦って勝てたら、100クエストの賞金がもらえるんだぞ!」
見物人たちの話し声が聞こえてくる。
「おい、お前やれよ」
「冗談言うな。あんな熊のような大男と。それにやつは殺人拳の使い手だぜ?」
「俺が挑戦する」
レオンが名乗りを上げると、周りの見物人たちが大きくどよめく。
「こんな若僧が勝てるわけがない」
「殺されるのがおちだ」
「その勇気だけは認めてやろう」
次々とそんな声が上がる中、力士はレオンに向かって言う。
「死にたくなければ、今のうちに取り消せ」
「取り消さないよ」
レオンはそう言うと、制服の上着を脱ぎ、セピアに少しの間だけ持っていてくれるように頼む。それをセピアは複雑な表情で両手で受け取る。
「試合料は50クエストだ」
力士はレオンに右手を差し出す。レオンはその手のひらが豆だらけなのを見て、鍛錬を怠っていないようだと見て取る。2人分のホテル代の2倍以上だ。
「セピア、50クエスト持ってる?」
「ええ」
「貸してくれないか」
「わかったわ。あなたを信じる」
そう言うと、50クエストを渡す。レオンは力士に試合料を渡すと、構える。
「それじゃあ始めようか」
レオンが言うとようやく力士も構え、二人は対峙する。レオンは1メートル78センチほど、40センチ以上の身長差があるだろう。それでもレオンは怖気づく様子がない。
数十秒の間二人の睨み合いが続いたのち、力士の方が先に攻めてくる。大きな体に似合わぬ素早い張り手をレオンに放つ。レオンは右に左に連続張り手をかわし、みぞおちに鋭い爪先蹴りを入れる。力士は少し怯んだようだったが、すぐに反撃してくる。
大振りの前蹴りをかわし、その膝の上に乗って高く飛び上がる。空中で一回転、ジャンピングスピンニールキックで後頭部を蹴る! レオンが着地した直後、力士が前のめりにドゥと倒れ伏す。
「学生の少年が勝ったぞ!」
「負け知らずの力士に!」
「俺はこいつに賭けていた!」
見物人たちの歓声がこだまする。
気を失ってしまったらしい力士の頭をレオンは指で軽くつつく。すると、力士は意識を取り戻し、すぐに立ち上がる。
「お前のように強くて優しい男は初めてだ。名前は何と言うんだ?」
「レオン。レオン小林だ。俺もあんたみたいに頑丈なやつと戦ったのは初めてさ」
レオンは力士から100クエストを受け取る。すべての見物人が拍手して、レオンの勝利を笑顔で称えてくれる。レオンは気恥ずかしそうに人だかりから離れ、見守っていたセピアのところに戻っていく。
「大丈夫だったろ?」
「ええ、怪我がなくて良かった。あの力士相手に凄いわ」
感心した様子でセピアはそう言うと、上着を渡す。レオンはそれを手早く着る。
「50クエスト、これ返しとくよ」
「ありがとう」
朝食がまだだった二人は、近くのレストランに入ることにする。食事をとりながら、おもむろにレオンが口を開く。
「君の隠していること、俺に話してくれないか? あの黒装束の男たちに狙われている理由は何なんだ?」
「わかったわ。そのことをすべて話す」
そう言って話し始める。
「私の父は、サンドーラ第1の都市ルネス1の学者で、フルメタルソルジャーという巨大ロボットと、サイコテクターというプロテクターの研究、開発をしていたの。父の助手にグラムサイトという男がいた。優秀な助手だったけれど、彼は野心が強すぎた。グラムサイトは父の類まれな才能をねたみ、妖魔族の王ガルーダを黒魔術で呼び出して、高度なロボットの技術力を与えられた。その代わりにガルーダを封印から解くために私を生贄にしようとして、父からサイコテクター装着装置第1号を渡されて、いつ終わるともしれない逃亡生活が始まった。研究所から私が姿を消したことを知ったグラムサイトは追っ手を送り、私はそれから逃げ隠れしなければならなくなった」
「そういうわけだったのか。その装着装置は?」
セピアは注意深く周囲を見回し、それから左腕の袖をまくり、手首にはめた腕時計のような物を見せる。
「これよ。このスイッチを押すと体にプロテクターが装着されるの。でも、あのチンピラたちから逃げるときに転んで、装置の蓋が開いて、起動させるのに必要なテクトロン鉱石という動力源の石が外れて、どこかにいってしまったの」
セピアはそう言うと、蓋を開けてビー玉がはまりそうな円形の凹みを見せ、それからまた周囲を見回しながら装置を袖で隠す。
「君、試合見たよ。強いねえ」
突然テーブルの下から声がして、二人は覗き込む。すると、そこから80センチほどのローブを身にまとった小柄な老人が姿を現す。
「レオン君、君の来るのを待っておったよ」
老人はそう言うと、空いていた椅子に飛び乗る。
「どうして俺の名前を!?」
「地球の様子を見ていたから、と言っておこう。君をこのサンドーラにテレポートさせたのは、何を隠そうこのわしじゃよ」
「えぇ! あなたが!?」
周りの客まで驚くほどの声を上げるレオン。自分をこの星にテレポートさせた張本人が目の前にいるのだから無理もなかった。
「そうじゃ、わしがやったんじゃ。このサンドーラと地球の危機を救ってもらうためにな」
「どうして? 俺には2つの星を救える力なんてないよ」
レオンは老人に繰り返し聞く。
「そのことは、サウスマウンテンに行けばわかる」
「サウスマウンテン?」
「そうじゃ。そこにその娘さんが言ったテクトロン鉱石もある」
老人はそう言いながらセピアの方を見る。驚いたセピアが言う。
「テクトロン鉱石がサウスマウンテンにもあるなんて」
「サウスマウンテンの、ある洞窟の中じゃ。どうじゃ、このわしをお前たちの仲間にしてくれんか? わしはテクトロン鉱石のある場所も知っておるしな」
老人はそう言うと、二人の顔を交互に見る。
「俺たちは構わないよ。な、セピア」
「ええ、いいわ」
二人は快くそう答える。
「よし、決まった! まずはわしの家に案内するよ。サウスマウンテンには明日出発することにしよう」
老人は嬉しそうに椅子から飛び下りる。
「ちょっと待った。その前に服を買わなきゃ。この服じゃね」
レオンはそう言うと、自分の着ている制服を見る。
「おお、そうか。確かに動きづらそうな服だな」
セピアの案内で、レストランを出た左側の通りにある服屋へ。
「わしはここで待っているよ」
老人はそう言うと、入り口の前で立ち止まる。
二人が入ると、そこにはいろいろな服があった。レオンは地球にあるものとよく似た、丈夫そうな黒いジャケット、白いTシャツ、ゆったりした青いジーンズに決めると、20クエストを支払う。
「セピア、君の服も買ってあげるよ」
レオンはセピアの服が少し破れているのを見て言う。チンピラたちにやられたのだろうと思いつつ。
「この服どう? 君に似合うと思うよ」
レオンはそう言うと、赤いワンピースを見せる。
「いいわね。でも私は……」
「遠慮しなくていいよ。この星の案内もしてもらってるし」
レオンはセピアのためにそれを買う。30クエストだったが内緒にしていた。レオンはここで賞金を使い切る。
「とっても似合ってるよ、その服」
「ありがとう! あなたもね」
二人は顔を合わせて微笑みながら服屋を出る。それぞれ脱いだ服を持って。
「ほう! 二人ともなかなか似合っておるぞ。カップルとしてもな」
老人は感心した様子で何度もうなずいている。
「え?」
レオンは思わずセピアの顔を見る。セピアは頬を少し赤くしている。レオンが話を変えるように老人に聞く。
「ところで、あなたの名前は?」
「わしの名前か? わしはウォート、魔道士ウォートじゃ」
「えぇ! 魔道士? まさか魔法が使えるの?」
レオンは驚いて、また繰り返し聞く。
「もちろんじゃ」
ウォートは自慢げにそう答え、二人を案内して自分の家へと向かう。
三人は歩き続け、日が沈む前にウォートの家に着く。
「これがわしの家じゃ」
そう言って指差された家は1階建てではあるが、思っていたよりも普通のサイズだった。しかも、地球のものとよく似ている。
「ウォート、あなたの家にしては大きいな」
「この家しかなかったんじゃ。わしの体に合わせた家などこの星にはないぞ」
ウォートは寂しそうに言い、玄関から二人を家に入れる。中を見回すと、家具もウォートの使用する物にしてはどれも大きい普通のサイズだ。
「今から夕食の支度をするから、ソファーにでも座ってゆっくり休んでいてくれ」
ウォートはそう言うと、キッチンの方に向かう。ひょっとしたらウォートはこの星の生まれではないのかもとレオンは思ったが、いろいろ事情があるだろうから聞くのはやめておいた。
セピアはしばらく家の中を見て回った後でキッチンを覗き、台の上に乗り、忙しそうに料理しているウォートに声をかける。
「私もお手伝いしましょうか?」
「おお、そうか。助かるわい」
その頃レオンは、ソファーの上に置かれたセピアが服屋の試着室で脱いだ服と、手に持っている制服を見つめていた。
「ウォート、セピアの服と俺の制服をひとまず預かっておいてくれないか?」
「構わんよ」
キッチンからウォートの返答が。
レオンがクローゼットを開けると、中にはいくつかハンガーがあったが、やはり大きいらしくて使われていないし、服もない。セピアの服を、それから自分の制服をハンガーにかける。戻る際に窓から外を見ると、辺りはもう暗くなり始めていた。
しばらくして、レオンが座って待っていたソファーの前のテーブルの上に夕食が運ばれてくる。二人の料理は何かの肉やパンのようなものがメインで、どれも美味しかった。服といいこの家といい、この星の文化は地球とよく似ているのかもしれないとレオンは思う。
三人は地球やこの星のことをお互いに聞かせ合った。ウォートの話によると、サンドーラには他にウォートと同じ種族の者はいないらしい。その後、明日のために早めに眠ることにして、それぞれ別の部屋へと向かった。
次の日の朝、三人はサウスマウンテンに行く準備を始める。ウォートが二人を呼び、家の外にある倉庫へ向かう。
スイッチを押してシャッターを開くと、そこには馬のような形をしたサイドカーらしき乗り物があった。しかし、タイヤがなく、レオンはこれでは走れないのではと思う。
「よし、このライディングセプターに乗っていこう。運転はレオン、お前がやってくれ」
ウォートはバイクさえ運転したことのないレオンに平気な顔で言う。
「えぇ! こんな乗り物、見るのも初めてなのに」
不安げにそう言う。それもそうだった。ライディングセプターは地球にはないのだから。しかし、ウォートが運転できるようなサイズでもない。レオンはどうしてこれがここにあるのだろうと思ったが、そのことをゆっくり聞いている余裕はなさそうだった。
「大丈夫。運転は簡単、お前ならできる」
ウォートは倉庫の壁のスイッチを押して、ライディングセプターを発進できるようにシャッターを全開にする。レオンが仕方なさそうにまたがると、セピアはその後ろで腰に手を回して、ウォートは側車に。
「ハンドルの間にある大きなボタンを押すんじゃ。そうしたら大地から蓄えられた磁気エネルギーが解放され、発進準備が整う。確かそう言っていた」
レオンはそう言われ、覚悟を決めてボタンを押す。すると、ライディングセプターが徐々に浮き上がり、レオンは驚く。これならタイヤは必要ないなと。
右足でアクセルを踏み込むと、ライディングセプターは南へ向けて発進する。その後はほぼ目的地へ向かって自動運転しているようだった。きっとウォートかその言っていたという人がサウスマウンテンの場所をインプットしたのだろう。レオンはそう思いつつ、ハンドルだけはしっかりと握っていた。
街を過ぎ、平原を駆け抜け、林を過ぎると、前方にひときわ高い山が見えてくる。最初に気づいたレオンが声を上げる。
「あれがサウスマウンテン?」
「そうじゃ。あれがまさしく」
山の中腹には大きな洞窟がぽっかりと口を開けていた。あの中にテクトロン鉱石が眠っているのか。斜面を馬のように駆け上がるようにして洞窟の入り口前にライディングセプターを停めると、三人は中へと入っていく。中は暗く、足元はぬかるんでいた。レオンはウォートの家から持ってきていた懐中電灯をつける。
「セピア、足元に気をつけて」
レオンは懐中電灯でセピアの足元を照らしつつ気遣う。
「ありがとう」
「準備がいいな。洞窟の中が暗いことをすっかり忘れていたとは、わしももう年じゃな」
自分には大きめな懐中電灯をレオンから借り、両手で持って、その明かりを頼りにテクトロン鉱石のある場所へと案内するウォート。
洞窟内をまっすぐに進んでいくと、急に前方が開けて広い空間に出る。その奥の方から「シューシュー」という音が聞こえてくる。
レオンは懐中電灯を借り、そこで待っての合図をし、静かに音のする方に近づいていく。すると、2つの光るものが姿を現した。それは巨大な大蛇の両目だった! 懐中電灯で照らしても全体を捉えることができず、10メートルはあろうかという巨体でとぐろを巻き、鎌首をもたげて威嚇してくる! レオンは後退りし、一旦二人のところへ戻る。
「巨大な大蛇がいる! ウォート、あの怪物を魔法で退治できるか?」
「何だって? いつの間にそんなものが。しかしまあ、容易いことじゃ。二人とも、そこで見ておれ」
ウォートはそう言うと、呪文を唱え始める。
長い呪文が終わると、ウォートはレオンには理解できない言葉を叫んだ。それと同時に、右手の手のひらから直径1メートルほどの巨大な火の玉が飛び出し、大蛇の頭部に炸裂、粉々に吹き飛んだ! 胴体にもどんどん火が広がっていく。後に残ったのは、少しの骨と灰、それに嫌な臭いだけだった。
「凄いよ! 魔法使いなんて、本当にいるとは思ってなかったんだ!」
レオンはウォートの火の魔法を目の当たりにして、子供のような驚きの声を上げる。セピアも初めて見た様子で驚いている。
「小さな火の玉ならもっと早く出せるんじゃがな。それではテクトロン鉱石の番人には焼け石に水」
確かにその前に立ち塞がっていたのだから番人も同然だ。大蛇が巣にしていたらしき穴に入っていくと、奥の方に緑色に輝く美しい石がいくつも転がっていた!
「あったぞ! あれがテクトロン鉱石じゃ!」
それぞれ両手に持てるだけ取ると、テクトロン鉱石を守っていた大蛇の洞窟から出る。テクトロン鉱石をライディングセプターの側車の中に入れていると、三人は不意に背後に気配を感じて振り向く。そこには白いローブに身を包み、長い白髭をたくわえた老人が立っていた。
「あの大蛇を退けたとは。あなたたちに大切なお話があります。私についてきてもらえませんか?」
老人は答えを聞く前に背を向け、大蛇の洞窟の反対側に開いた、それよりも小さめの洞窟の入り口に向かって歩き出す。レオンとセピアはもうひとつの洞窟の存在を初めて知り、驚く。まるで巧妙に隠されていたようだったからだ。ウォートは自分のフードを外し、テクトロン鉱石を覆い隠す。
三人がついていくと、洞窟の内部は壁全体が自ら発光しているように明るい。4人でしばらく進み、角を右に曲がってまっすぐ進むと木製のドアに突き当たり、ドアを開けて中へと案内される。
部屋の中心に大きな岩があり、その上に立派な剣が刺さっている。岩の周りには円を描くように4つの椅子が並んでいる。老人は「椅子にかけてください」と言い、三人が座ったのを確認してから話を始める。
「今から15年以上前、サンドーラ大戦と呼ばれる妖精族と妖魔族との戦いがあった。妖魔たちはサンドーラのいたるところを破壊した。指揮したのは、妖魔王ガルーダと妖魔副王バドス。妖精族は特殊な力を持つ者たちと力を合わせて戦った。それは、魔法族という魔法を使う民と、フィールという強力な超能力を持つ民だった。フィールの若き勇者レイザーの持つ剣は雷神剣といい、妖魔たちから恐れられていた。そんな苦難の時代にもひとつの希望が産まれた。レイザーとその妻アイリアの間に息子が誕生した。妖魔族の数は多く、戦いは苦戦をしいられていた。フィールの全滅を予知したレイザーとアイリアは、幼い息子を脱出用のカプセルに入れると、クリスタルスティックにメッセージをインプットし、フィールの祖先がかつて暮らしていた星、地球に向けてテレポートさせた。それから妖精族は魔法族とフィールの力を借りて妖魔族の数を激減させ、妖精王ダナオシーは自らを生贄にして、ガルーダとバドスを地の底の奥深くに封じ込めた。サンドーラ大戦によって妖精族、魔法族、フィール、サンドーラ人の多くは命を落とした。レイザーやアイリアも例外ではなかった。妖精族で生き残ったのは、長老のこの私ランドールと、ライオット博士の妻トーファだけ。トーファの娘があなた。そして、レイザーとアイリアが地球にテレポートさせたフィールでただ一人の生き残り、それがあなたです」
ランドールはそう言うと、セピアを、それからレオンを指差す。セピアは自分の母が妖精族だったということを初めて知り、とても驚いた。レオンは両目一杯に涙をためていた。悔しそうにジャケットの袖でひと拭いし、それから話し始める。
「そのことは薄々気づいていました。俺が15歳のとき、屋根裏で探し物をしていると、隙間から光が漏れた大きな木箱がありました。その木箱ではその光を隠しきれなかったのです。開けてみると、中には銀色のカプセルが入っていました。開けようと手を伸ばした瞬間にカプセルが開き、その中の突き出した部分に見たこともない美しいクリスタルの棒が刺さっていました。開いた影響かどうだったのか、その棒から若い男女の映像が映し出されました。二人は俺にどことなく似ていて、言い表わせないほどの懐かしさのようなものを感じました。それで俺は……」
「そうだったのですか」
ランドールは岩に突き刺さった剣の方に歩いていく。
「この剣があなたの父レイザーの剣、雷神剣です。自分の最期が近いことを予知した彼は、妖魔族に使われないために、人里離れた洞窟の奥のこの岩にまさしく封印したのです。そして、きっとあなたに託したかったはず。あなたはこの剣で妖魔族と戦う運命(さだめ)なのです。さあ、今こそこの雷神剣を。これはフィールの血を引く者でなくては引き抜けないのです。私はこの剣に触れることさえできません」
レオンは促されるまま岩の上によじ登り、剣の柄に両手をかける。そして力を込め、ゆっくりと引き抜く。それは容易そうに見えた。引き抜かれた雷神剣は青白く輝く。長さのわりには片手で扱えるほどの軽さ。
突然部屋の隅にあるテーブルの上の水晶球が光り始めたのに気づいたランドールは、水晶球に映る映像を見て驚く!
「どうやらグラムサイトという男が妖精族の血でバドスの封印を解いたようだ! ガルーダはまだ復活してはいないが、もし復活したら、この星はおろか、全宇宙は滅ぼされてしまうに違いない! 今ならまだ間に合う。今すぐルネスに戻りなさい!」
ランドールはそう言うとドアを開け放ち、雷神剣の鞘をレオンに差し出す。その際、中央に何かが彫られているのが見えた気がして、両手で受け取り、その部分を見る。そこには、「愛する我らが息子へ 愛のため 希望のために」と彫られていた。
三人は別れを告げると、駆け足で洞窟を出る。目に光るものを宿らせるレオンは、雷神剣を鞘に収めつつ。
「ウォート、セピア、乗ってくれ」
レオンはライディングセプターを発進させる。ウォートが1人テクトロン鉱石に埋もれて不服そうな顔をしているのもお構いなしに。林を過ぎ、平原を駆け抜ける。
サンドーラ第3の都市リューサが見えて間もなく、ライディングセプターが煙を上げ、地面に着地する。エンジントラブルらしい。
「なんてこった。こんなところで」
そう言ってレオンがライディングセプターから降りたとたん、前方のエンジン部分が火を噴く。
「二人とも、今すぐ降りるんだ!」
レオンの方に二人が駆け寄った瞬間、ライディングセプターは爆発炎上した!
「リューサまで歩いて行くしかないな」
レオンに二人は同意し、リューサに向けて歩き始める。
1時間ほど歩き、リューサに着く。街の上空には暗雲がたれこめ、まるで人影がなく静まり返っている。
三人は近くのレストランに入り、椅子に座ってしばらく休んでいると、窓ガラスが音を立てて割れ、怪物が中に入ってくる! 妖魔だ! それを見た他の客たちは我先にと慌てて外に逃げ出す。
妖魔は口からネバネバした粘液を出すと、レオンに吐きかける。辛うじてよけると、その粘液は壁に当たって壁を溶かす! 三人は妖魔には狭い通路の奥にある裏口へと逃げ込む。
外に出ると、前方の地面が隆起し、新たに妖魔が2匹現れる!
「セピア、ここは俺とウォートに任せて早く逃げるんだ!」
レオンはそう言うと、地中から現れた妖魔たちに向かって雷神剣を構える。妖魔は触手を二人に伸ばし、突き刺そうとする。レオンはその触手を次々と切っていく。
ウォートは呪文を唱え、妖魔を1匹木っ端微塵に吹き飛ばす。レオンはもう1匹の頭部を切り飛ばす。緑色の血が天に向けて噴き出し、妖魔は地面にドゥと倒れ伏す。
レオンがセピアの方を振り返ると、セピアの行く手を遮るように前方の地面が隆起し、次の妖魔が姿を現す!
「セピア!」
レオンはそう叫ぶと、セピアの方に駆け出す。妖魔は鉤爪のついた手を高々と上げる。
「逃げろ!」
鉤爪がセピアに振り下ろされるのと、レオンがセピアに飛びかかったのと同時だった。
「うっ!」
レオンの背中に鉤爪が突き刺さる! 雷神剣を左の脇から背後に向けて突き出し、妖魔の腹部を深々と刺し、レオンはその場に倒れ伏す。ウォートが間髪を入れずに妖魔の背中めがけて火の玉を放ってとどめを刺す。
妖魔の気配が消えると、建物の影から10人の男たちが現れた。その男たちは目の色が白く、何者かに操られているようだった。
男たちは5人ずつでウォートとセピアの体と両腕両脚を押さえつける。ウォートはセピアを助けようと呪文を唱えようとするが、手で口を塞がれ、呪文を唱えられない! セピアは一人の男によってワンピースの胸元を引き裂かれ、白い胸があらわになる。
「レオン、助けて!」
倒れていたレオンの耳にセピアの悲痛な叫び声が届く! ウォートはそのとき、セピアの危機を予知し、レオンにテレパシーの一種の遠隔魔法でこれから起こるであろうことを夢で何度も見させ、サンドーラにテレポートできるだけの力を目覚めさせたことを思い出していた。
気を失っていたレオンはその声に意識を取り戻し、両手で胸を隠すセピアの方に右手を伸ばし、怒りの叫び声を上げる!
「やめろーーーっ!」
その直後、まずセピアの胸をあらわにした男が弾き飛ばされ、二人を押さえつけていた男たちも同じく弾き飛ばされて建物の壁に叩きつけられ、すべて肉片と化した!
レオンはふらふらと立ち上がり、セピアの肩に背中が鉤爪によって引き裂かれたジャケットをかけてやると、その場にうつ伏せに倒れる。
セピアが雷神剣を拾い上げると思いの外軽く、二人はレオンを住人がすでに逃げ去った後の家の中へと連れ込み、ベッドに寝かせる。セピアは雷神剣をレオンの傍らに置き、背中の傷口の周りを拭きながら涙をこぼす。傷は深く、骨にまで達していた!
「これは酷い。再生の呪文を唱えるしか手はないな」
ウォートは精神集中し、呪文を唱え始める。セピアはそれを心配げに見守る。
しばらくして呪文の効果が現れ始める。出血が止まり、筋肉がつながり、皮膚がその上を覆う。
「よし、成功じゃ」
傷口は綺麗に塞がった。セピアはそれを見てほっとする。しかし、レオンはまだうなされている。セピアはレオンの額に手を当て、思わず呟く。
「すごい熱」
「どうやらあの妖魔の鉤爪には毒があったようだ。わしの呪文は傷は治せるが、妖魔の毒を消すことまではできん。あとはレオンの精神力にかけるしかない。今夜が峠じゃろう」
ウォートはそう言うと、近くの椅子に座る。セピアはすぐにタオルを氷水で冷やし、レオンの額にのせる。しかし、熱は一向に下がらなかった。セピアはそれを繰り返した。久しぶりに再生の呪文を唱えて疲れ切ったウォートは、そんなセピアをただただ見守るしかなかった。
いつしかウォートは椅子に座ったまま眠っていた。それに気づいたセピアだったが、レオンのジャケットとTシャツの背中部分と、買ってもらったワンピースの胸元を合間に繕いながら、眠らずに一晩中看病を続けた。
「やめろ……セピア……」
レオンは熱にうなされて、セピアの名前を呼ぶ。うなされているレオンの汗ばんだ手を優しく握ってやる。次第に寝息はゆっくりとなり、うなされることもなくなる。体の汗を何度も拭いてやるが、熱だけは下がらないままだった。
夜明け前、セピアの寝ずの看病の甲斐あって、ようやく熱が下がった。レオンはゆっくりと目を開ける。
「良かった。熱が下がって」
セピアはそう言うと、寝ているレオンの体の上に倒れ込む。レオンの額には濡れたタオルがのせられており、ベッドの横には溶けかかった氷のたくさん入った洗面器。セピアは俺のことを一晩中看病してくれていたんだ、おそらく一睡もせずに。レオンは両手を伸ばし、そんなセピアをそっと抱き締めた。
三人はリューサに3日間滞在した。その間、まだ休息が必要なレオンはベッドで寝て過ごしていた。セピアは父親譲りの器用さで女性用サイコテクターの装着装置を作り、父から渡された方を一度も使わないままレオンに渡した。ウォートはテクトロン鉱石を預かり、幸いリューサにはサンドーラで唯一のライディングセプター屋があり、新しい2台を手に入れた。それからサイコテクター装着装置にはめ込めるようテクトロン鉱石を加工した。
「これぐらいでいいと思うんじゃが」
ウォートはビー玉のような大きさに加工したテクトロン鉱石を二人に渡す。それぞれ装着装置の蓋を開け、円形の凹みにはめ込む。それはぴったりとはまり、簡単には外れなさそうだった。
「これで妖魔との戦いで装着できるわね」
笑顔でそう言うセピアにレオンは力強くうなずき、ウォートは満足げに笑みを浮かべる。
バイク型のライディングセプターにレオンが乗り、ウォートの家の倉庫にあったのと同型の安定感のあるサイドカー型の方にセピアが乗り、ウォートはその側車に。朝にサンドーラ第2の都市ラースに向けてリューサを出発。
夕方に着いたラースの街は、リューサの街よりも酷いありさまだった。都市の建物は大部分が破壊されており、道のあちらこちらに死体が転がっている。ここもまた人影は見当たらなかった。次に東にあるサンドーラ第1の都市ルネスに行ってみることに。
ルネスに着いた頃には、もう夜になっていた。街には夜にもかかわらず、大勢の人々が外を歩いている。レオンが周囲を見回しながら言う。
「どうやらこの街はまだ妖魔にやられていないようだな」
「ホテルに泊まって様子を見ることにしましょう」
そう提案したセピアに案内され、街がよく見渡せるホテルに部屋をとる。レオンは窓から街の様子を眺めて呟くように言う。
「ここからなら街の様子がよく見える」
1日目は何事もなく過ぎた。
そして2日目。それはその日の昼過ぎ、突然起こった。雲ひとつなかった空がにわかにかき曇ったかと思うと、街の地面が隆起し、そこから次々と無数の妖魔が姿を現した! 妖魔は次々に人々を襲い、建物を破壊していく。平和だったルネスは一瞬にして地獄と化した!
「二人とも早く!」
レオンはエレベーターに駆け込む。
「レオン、装置の青いボタンを押して」
「わかった」
セピアにうながされ、左手首にはめたサイコテクター装着装置の真ん中の青いボタンを押す。すると、装置から青白い光が放たれ、体の各部位に青いプロテクターが装着される! 体中に力がみなぎり、体が軽くなるのを感じる。セピアも丸みを帯びた赤いサイコテクターを装着し終わったところだった。
三人は次々と妖魔たちを倒していく。レオンは雷神剣で、セピアはプロテクターを活かしたパンチとキックで、ウォートは火災を防ぐためにお得意の火の魔法は使わず、氷の玉を放つ魔法で。レオンは横目でセピアの戦いぶりを見ながら、あれならチンピラたちどころか、あの力士にも勝てる、と。でも、サイコテクターの力によるものかもしれないとも思った。
妖魔たちと戦いながらそんなセピアの戦う姿に見惚れていた最中、3つの黒い影がレオンに近づいてくる。それは黒い機体の3体のアンドロイドだった。
「セピアとウォートは妖魔たちを頼む。こいつらは俺に任せて」
そう言うとアンドロイドたちに向き直る。
「わかったわ」
セピアはウォートの側へと走る。
アンドロイドたちは無言でレオンを取り囲む。3体が一瞬動いたかと思うと、レオンに一斉に襲いかかる。それぞれ素早い動きでレオンを翻弄する。
「速い!」
レオンは1体の飛び蹴りを高々とジャンプしてかわす。アンドロイドたちもジャンプしてレオンを追い、3体同時に太ももの側面からレーザー銃を取り出し、空中のレオンめがけて一斉に撃つ! 2発分は雷神剣を振るって防いだレオンだったが、同時に飛んでくる3本のレーザーすべてを空中で防ぐことはサイコテクターに身を包んだ今のレオンでも困難だった。
「うっ!」
残りの1本がプロテクターの胸部に命中、その部分が溶かされる! 体勢を崩されてそのまま地面に叩きつけられ、その衝撃で装置もろともはめ込んだテクトロン鉱石も砕け散り、プロテクターが消えてしまう。その隙をついて1体がセピアの胴体を軽々と脇に抱える。
「この女は連れて行く。グラムサイト様の命令なのでな」
機械的で無感情な声で言う。アンドロイドが話している隙に装置のボタンを押してサイコテクターを解除し、連れ去られていこうとするセピアの声がこだまする。
「ライオット研究所の地下室に!」
アンドロイドたちは風のように走り去る。残りの妖魔たちはそれを見届けると、地中へと戻っていく。
「レオン、大丈夫か?」
ウォートは駆け寄り、装置も砕け散っていることに気づく。
「ライオット研究所の地下室、セピアはそう言っていた」
レオンはウォートとともにサイドカー型ライディングセプターに飛び乗る。研究所の場所を知っているウォートが側車から道案内する。
10分ほど走り、研究所に着く。相当破壊されていたが、中はそれほどでもなかった。二人は地下室への階段を駆け下り、扉を開ける。中には巨大なコンピューターがあった。
「私はセピアの父クロード・ライオット。正確にはアップデートを自ら繰り返すように作られたそのAIだ。君に私がグラムサイトに殺されるまでのことを話そう」
コンピューターから声が聞こえ、話し始める。
「私は長年、フルメタルソルジャーという巨大ロボットの研究開発をしていた。グラムサイトを私の助手として雇ってからはサイコテクターの開発も始めた。いつしかグラムサイトは私の才能を妬むようになっていった。ある日、グラムサイトは私を超える科学技術を得るため、黒魔術で妖魔王ガルーダを呼び出し、望んでいたロボットの高度な技術力を与えられた。その代わりに、15年ほど前のサンドーラ大戦で地中深く封じ込められたガルーダと妖魔副王バドスの封印を解くと約束した。やつらが再びこの世に現れれば、戦える者が激減したサンドーラは今度こそ支配され、普段は地中に潜んでいる妖魔たちがサンドーラ全域にまで出現し、破壊や殺戮を繰り返し、妖魔族の支配する星になってしまう。グラムサイトはガルーダに自身は娘のセピアを、バドスは妻トーファを生贄にすれば封印を解けると教えられ、この研究所内でトーファを無慈悲に殺し、生贄にした。トーファは妖精族で、サンドーラ大戦の生き残りの1人だった。セピアを逃がす際に渡したサイコテクターは、装着する者の精神力を増幅させ、体が軽くなって動きが非常に素早くなる。さらにジャンプ力を飛躍的に上げる。このハイパーサイコテクターを君に使ってもらいたい。これはテクトロン鉱石を必要とした初期型の5倍の能力を持っていて、敵からのダメージの90%を吸収することができる。プロテクターとしてもほとんど破壊されることはない。グラムサイトの地下室で私が殺される直前に完成させていたものだ」
コンピューターの中央付近から円形の台座がせり上がり、その上に新しい紫色のサイコテクター装着装置が。青と赤を混ぜた色だろうか。レオンはそれを手に取り、左手首にはめる。
「バドスの封印は数時間後に解かれる。しかし、ガルーダにはより特別な生贄が必要だった。その生贄とは、美しく穢れのない娘、それも妖精王ダナオシーの血を引く者でなければならない。なぜなら、ガルーダを封じ込めたのは、ダナオシーが自ら望んだ生贄による妖精族の血だからだ。妖精族が残り2人になった今、唯一それに当てはまるのはセピアだけなのだ。バドスはきっと、地球にも手を伸ばしていく。もし地球がやつと妖魔たちに襲われることになれば、フルメタルソルジャーゼロックスを呼び覚ますしかあるまい。親父の飛行船も参考にして開発したゼロックスは、自動の超高速空間移動であらかじめフィールの星から地球の日本海の海底に送ってある。グラムサイトはルネスの先にある魔界都市ダークネスにいる。グラムサイトの野望と、ガルーダの復活を阻止してくれ!」
「急ごう!」
レオンはそう言うと、ウォートとともに研究所を後にする。地上に出ると、サイドカー型のライディングセプターに似ているが、明らかに攻撃に特化した見た目の乗り物が停めてあった。
「攻撃型ライディングセプター、キャノンセプターだ。こいつを買うためにテクトロン鉱石を使い果たしてしまったぞ。しかし、もう必要ないだろうな」
レオンはそのためにテクトロン鉱石を預かったのだろうと思いながら、キャノンセプターに乗り込む。ウォートは例によって側車に。
ルネスを抜け、さらに走るとダークネスが見えてくる。都市の上空に暗雲が垂れこめているのを見たレオンは、近づくことを躊躇するようにキャノンセプターを停める。
「中の様子を透視してみるんだ」
ウォートがダークネスを目の前にして言う。
「わかった。やってみる」
キャノンセプターから降り、精神集中する。
「ダークネスの中心部に暗雲を突き抜ける塔が立っている。その内部は靄がかかっているようで透視できない。30階ほどもある塔の周りには妖魔がおよそ600匹、そしてあの黒いアンドロイドが3体」
透視を終えると、ハイパーサイコテクター装着装置の真ん中の紫のボタンを押す。すると、装置から紫の光が放たれ、体の各部位に紫のプロテクターが装着される。色以外は青いのと変わらないように見えるが、腰にはレーザーガンが取り付けられている。
「レオン、あのビルの屋上にテレポートじゃ。今のお前なら簡単にできる。サンドーラにテレポートできるほどなのだから」
屋上を指差し、秘密にしていたことをそれとなく話す。
「え?」
「乗るんじゃ!」
キャノンセプターの側車に乗ったウォートが叫ぶ。レオンはさっきウォートが言ったことが気になりながらも乗り、半信半疑でビルの屋上にいるイメージをする。気づいたときには一瞬でキャノンセプターごとビルの屋上に移動していた!
「ほ、本当にテレポートできた!」
「うむ。妖魔どもはわしに任せろ」
ウォートはそう言うと、呪文を唱え始める。周りの大気がウォートの両手に集まっていく。最後の呪文を唱え、両手を空に向かって高々と差し上げる。
すると、空から赤々と燃える流星群が妖魔の群れに向かって落下していく! それはまるで無数の隕石のようだった! 次々と爆発が起こり、妖魔たちは吹き飛ばされていく。
後に残ったのは、数十匹の妖魔と2体の黒いアンドロイド、流星群によってできた無数のクレーターだけだった。レオンはしばしこの光景に見入っていたが、塔の方を見て驚いた。あれだけの爆発があったにも関わらず、塔に破壊された部分はなさそうだった……!
二人はキャノンセプターに乗ったまま地上に下りる。テレポートすることもできたが、体力温存のためにそうしなかった。キャノンセプターから降りた二人に残りの妖魔たちの攻撃が襲う。しかし、新型のサイコテクターの前では為すすべもなく、数十秒で片がつく。2体の黒いアンドロイドはそれを見て、二人にじりじりと歩み寄る。
「こいつらは俺に任せて塔を調べてくれ」
レオンはそう言うやいなや、雷神剣も抜かず構える。アンドロイドたちは無言でレーザー剣を構え、1体ずつかかってくる。
1体目のアンドロイドの振るう剣を身を沈めてかわすと、腹部に右の突きを入れる。腹は大きく凹み、吹き飛ばされてビルに激突する。追い打ちをかけるように飛び蹴り、右足が腹を貫通し、ビルの壁をも破壊する! アンドロイドは爆発飛散! それを見た残る1体が恐れを微塵も感じさせずに向かってくる。
レオンのすねを剣で斬りかかる。軽くジャンプしてそれをかわし、着地したところに剣が頭部を襲う。左腕のプロテクターでそれを受け、顎目掛けて蹴り上げる。アンドロイドは素早い動きでバク転してそれをかわし、すかさず太ももの側面からレーザー銃を抜き、右膝を正確に撃つ。プロテクターは溶けはしなかったが、右膝に痺れが。手強い、レオンはそう思った
右膝に手を当て、左膝をついてしゃがみ込む。アンドロイドはそんなレオンにとどめと剣を構えて歩み寄ると、真上から頭頂部に剣を振り下ろそうとする! レオンはうつむきながらアンドロイドの動きを透視していた。
後方へ仰け反りつつ雷神剣を抜き、アンドロイドの心臓部分を突く! 切っ先が胸部から背中へと突き抜け、レオンは地面に腰を下ろした状態で両足で上方に蹴る。アンドロイドの体は空中で爆発飛散! レオンは機械のアンドロイドは人の心は読むことができないと思い、もう戦えないというふりをしたのだった。
粉々になった部品が地面に雨のように降り注ぐのを尻目に、ウォートに駆け寄る。
「どうやらこの塔には特殊なバリアが張ってあるようじゃ」
「そうか。だから透視できなかったんだな」
ウォートはうなずき、足元の小石を塔に向かって投げる。すると、小石は「バシッ」という音とともに燃え尽きる。
「このバリアを消す方法はないのか?」
「あることはある。お前の雷神剣からはゼータエネルギーが放出されている。そして、このバリアからはシータエネルギーが放出している。この対極のエネルギー同士がぶつかり合えば、どちらか強い方が勝つ。非常に危険だが、これしか方法はない」
ウォートとは一体何者なのだろう。もしかしたら父と知り合いで、大戦でともに戦ったことがあるのかもしれない。レオンは降り注ぐ隕石のような魔法のあの光景を思い出すと、そう思えてくるのだった。
「よし、俺がやってみる」
そう言うと、ウォートに離れているように言う。
「そうか。気をつけろ」
塔から離れ、建物の陰に身を隠す。
「うぉぉぉぉっ!」
レオンは雄叫びを上げ、雷神剣をバリアに向かって振り下ろす。雷神剣はバリアに激しくぶつかって反動を生じさせ、レオンはそれによって吹き飛ばされそうになるが、必死に堪え、雷神剣の柄を握る両手に全力を込める。その直後、大爆発とともに塔をすっぽり包んでいたバリアが一瞬にして消える! 煙が晴れると、そこにはレオンが立っていた。
「ようやった!」
ウォートが駆け寄る。
「セピアの居場所を透視してみろ。バリアがなくなった今なら可能なはずだ」
レオンはうなずき、目を閉じて精神集中する。
「20階までは何もない。21階から27階まで妖魔が多数。28階に巨大なロボット。セピアは29階にいる。そこで魔法陣の中央で鎖で繋がれ、気を失って横たわっている。グラムサイトが魔法陣の外で何言か呪文を唱え続けている」
そう言うと目を開ける。
「急ごう!」
ウォートが塔の入り口の大扉を指差す。
レオンはうなずき、自分を奮い立たせるように呟く。
「必ず助け出すから待っていてくれ」
レオンはキャノンセプターを塔の中で乗るのは困難に思えて、側車の反対側に取り付けてあったハイメガバズーカを取り外し、それから二人は大扉へと駆けていく。
大扉は不思議なほどあっさりと開いたが、背後で音をきしませて閉まる。レオンが押してみると、先程とは打って変わって簡単には開きそうにない。後戻りはさせないということか。二人はそのつもりはなかったが。
中に進んだとたん、監視カメラでもあるのか駆けつけてきたらしき3体のアンドロイドが待ち構えていたが、黒い機体ではなく、2人で難なく片付ける。エレベーターで29階まで上がろうとするが、電力が落とされていることに気づく。
「どうするレオン」
「これさ」
レオンはハイメガバズーカを肩に担いでみせ、出力を最大にする。
「離れていてくれ」
そう言うと、1階の天井へ向けて斜め上にバズーカを発射! 雷の玉が天井を軽々と吹き飛ばし、各階の床と天井を交互に突き破っていく! 最後は27階の床に当たって爆発! 丸い大穴が遥か上まで続いている。
「ウォート、一緒に飛ぼう」
「ん?」
キョトンとしているウォートの小さい体を肩に乗せると、全力で跳び上がる! 10階から先は各階の大穴の床と天井を踏み台にして、上へ上へと跳び上がっていく。21階から26階までは飛散した妖魔たちの死体が転がっていた。
27階の床に着地すると、そこにもハイメガバズーカの最大出力の砲撃によって飛散した妖魔たちの死体が転がっていた。どうやら塔の中の妖魔はほぼ片付いたようだ。ウォートを床に下ろすと、28階に上がる階段を探すために駆け出す。
「わしは長いこと生きてきたが、今までで一番エキサイティングな体験だったぞ!」
背後でウォートの声がする。
上へと続く階段を見つけ、二人が駆け上がると、大広間の奥で巨大な何かの獣の姿をしたロボットが待ち構えていた! ウォートが間髪入れずに遠くから両手でそれぞれ火の玉と氷の玉を放つが、まったく効き目がない!
「どうなっているんじゃ! わしの攻撃魔法が……」
両手の手のひらを交互に見つめ、悔しそうな声を漏らす。
「ここは俺に任せてくれ」
雷神剣を抜きつつ言うと、ウォートが一歩下がる。
レオンが駆け出すと、ロボット獣も突進してくる。レオンが雷神剣を迫る額に突き立てようとすると、寸前でロボット獣が背を向けるように半回転、ハンマーのような尻尾の先がレオンのプロテクターで守られていない右脇腹に命中する! レオンの体は軽々と弾き飛ばされ、壁にめり込む。
ロボット獣は大きく口を開け、めり込んで動けないレオンに向けてすかさずレーザーを放つ! レオンはそれを雷神剣の剣身で受け止め、壁から転がり出る。
続けてロボット獣は背中の2連装ロケットランチャーの照準をレオンの心臓に合わせると、小型ロケットを2発同時に発射! レオンはそれを雷神剣の二振りで一瞬にして真っ二つにし、爆発もせずに転がる。
ロボット獣は無反応でさらに照準を合わせ、発射しようとする。レオンは腰のレーザー銃を抜くと、素早くその1発を撃ち、その爆発でロボット獣の頭部が吹き飛ぶ! もう1発は正確にレオンの心臓に向かって飛んでいく!
「レオン、避けろ!」
ウォートの声にレオンは寸前で体を半身にする。ロケットはプロテクターの胸部をかすめ、壁にぶつかって爆発、大穴が開いて外の暗雲が見えている。
「やったな!」
ウォートが歓喜の声を上げる。
「ああ、急ごう!」
二人は動きを止めたロボット獣を尻目に、階段を駆け上がり、ついにセピアのいる29階へとたどり着く。しかし、目の前に鋼鉄製の巨大な扉があった。厚さが25センチほどもありそうな。
レオンは雷神剣を抜くと、巨大な扉に向かって振り下ろす。雷神剣の切っ先が触れたとたん、溶けるようにして大きな亀裂が走る! 二人はその亀裂を1人ずつくぐり、中に駆け込む。
広い部屋の中央に魔法陣があり、そこに鎖で両手首を繋がれたセピアが座り込んでいた! 突然巨大な扉に亀裂が走って驚きを隠せないグラムサイトがレオンを見て声を上げる。
「何者だ!? どうやってあの扉を……」
グラムサイトは呪術用らしき黒装束に身を包み、身長は2.5メートルほどもあり、あの力士よりも大きい! よく見ると、両手足が異様に長く、機械化しているらしいとわかる。レオンの後ろから姿を現したウォートが叫ぶ。
「そこまでだ、グラムサイト! 魔法族とフィールのただ1人の生き残り、ウォートと、セピアの恋人のレオンだ!」
このとき初めて、ウォートが魔法族で、しかもそのただ1人の生き残りということを知り、薄々感じてはいたレオンも驚く。それから言い放つ。
「そうだ。さあ、その娘を、セピアを返してもらおうか!」
「何だと!? お前たちがガルーダ様が言っておられた魔法族とフィールの? ふっ、この娘はガルーダ様の血の封印を解くための大切な生贄。お前らごときに渡すわけにはいかん!」
グラムサイトは背中の巨大な漆黒の剣を抜く。
「この血によって、妖魔副王バドス様の血の封印は間もなく解かれるぞ」
グラムサイトは赤い液体の入った小瓶を振ってみせる。
「何だって!? セピアを頼む」
ウォートがうなずくのを確かめた後、レオンも雷神剣を抜き、グラムサイトににじり寄る。
まずグラムサイトが一歩踏み出し、レオンの腹部を狙って斬りつける。レオンはその攻撃を雷神剣を逆さにして受け止め、すぐさま足元を狙って振るう。グラムサイトは真上に飛び上がってそれをかわし、空中で上段から頭頂部に向けて剣を振り下ろす! レオンは雷神剣を横にしてそれを受け止め、そこから喉元を狙って突きを繰り出す。グラムサイトはそれを下から上へと重量に勝る大剣を振り、レオンの手から雷神剣を弾き飛ばす! 雷神剣はくるくると回転しながら天井に突き刺さる。
「そこまでだ」
そう言うと、大剣をレオンの心臓目掛けて突き出す! レオンはその攻撃を上体を後ろへそらして紙一重でかわし、そのまま大剣の柄を持つ右手を蹴り上げる。大剣はグラムサイトの右手から離れ、天井の雷神剣の近くに突き刺さる。
「素手か。面白い」
両者丸腰になり、グラムサイトがそう言いつつ構えると、レオンもその気で構える。グラムサイトは突進し、右ストレートを繰り出す。機械化されて異様にリーチのあるそれを身を沈めてかわし、踏み込んでの右アッパーで顎を突き上げる。
「ぐうっ!」
グラムサイトは仰け反りつつも連続蹴りを繰り出す。
「若造のくせになかなかやる」
前蹴り、横蹴り、後ろ回し蹴り、レオンはそれらを次々とかわす。リーチはあるが、やはり機械の両手足は重いのか、スピードが犠牲になっていた。しかし、意表をついて繰り出された二段蹴りによって蹴り飛ばされる!
立ち上がるとレオンも二段蹴りを繰り出す。身を引いてかわし、グラムサイトも右ストレートを顎に向けて放つ。瞬時に右へかわすが、機械の拳が左頬をかすめる。その直後、渾身の力を込めたレオンのカウンターの左ストレートがグラムサイトの胸板に叩き込まれる! 拳はめり込み、背中まで貫通した! 腹を蹴り押し、拳を引き抜く。
「レオン……お前を、甘く見ていた、ようだ……」
グラムサイトは胸に開いた穴を左手で押さえながら言う。よろけながらも右手で大剣を天井から引き抜き、レオンに斬りかかる。レオンはサッと後ろに飛び退きざまに跳び上がり、雷神剣を天井から引き抜く。それから精神集中して雷神剣に念を送り込む。すると、サイコテクターと雷神剣がまばゆい光に包まれる! 黒魔術に染まったグラムサイトには眩しすぎたのか、思わず機械の左手で目を覆う。
「今だ!」
レオンは塔全体に響き渡らせるほどにそう叫ぶと突進、雷神剣をグラムサイトの頭上に振り下ろす!
「ガルーダ様ぁぁぁっ!!」
グラムサイトは腹の辺りまで真っ二つになった後、大爆発して機械の両手足もろとも粉々に消し飛ぶ! グラムサイトの最期を見届けると、レオンはすぐさまセピアに駆け寄る。セピアはレオンの気配に気づき、ハッと目を開ける。
「きっと助けに来てくれると信じてた!」
レオンは雷神剣の二振りで両方の手枷を真っ二つに。二人はしばし見つめ合い、セピアはレオンの胸に寄りかかる。そのとき、外で何者かの声がする。
「ガルーダ様の復活は阻止されてしまった。だが、我はグラムサイトの協力によってようやく封印から解かれた! 空気がこんなにも美味なものだったとは……。サンドーラ侵略は残りの妖魔たちで十分。これから我らは地球侵略に向かう。さあ、皆の者続け!」
妖魔副王バドスはそう言うと、空中にブラックホールのようなものを出現させ、その穴に飛び込む。数百の妖魔も次々と吸い込まれていく。
「とうとう最悪の展開になってしまった! セピアとウォート、地球まで早く行く方法を知らないか?」
「レオン、お前1人だけなら……」
「研究所に行きましょう。いいものがあるの」
「いいもの? それなら行こう」
レオンは二人の手を握り、キャノンセプターの近くまでテレポートする。セピアが驚きの声を上げる。
「やっぱりあなたは……!」
装着装置のボタンを押して解除するレオン。三人はキャノンセプターに乗ると、最高速度で研究所まで走る。例のごとくウォートは側車に。
間もなく研究所に到着し、地下にあるコンピュータールームに向かう。
「この中よ」
セピアがルーム内のボタンを押すと、巨大コンピューターが音を立てて左右に開き、そこからさらに地下へと階段が続いている。そのときAIの声が。
「セピア、話がある」
「お父さん!? 後から行くわ」
レオンとウォートにそう伝え、二人が階段を下りると、最下層のフロアに着く。そこには試作型のサイコテクター、巨大なロボットの足、その他さまざまな機械の部品などがあった。フロアはとても広く、縦横50メートルほどもあり、天井も高い。ここでフルメタルソルジャーを開発したのだろう。
セピアがなぜか涙を拭いながら駆け戻ってくる。セピアの案内で三人はロボットの足の横を通り、宇宙船のような乗り物があるところに行く。
「これがお祖父さんが生涯をかけてたった1人で造ったエアロキャリッド。超高速空間飛行船よ」
セピアはまだ目に涙をためたままエアロキャリッドを指差してそう言うが、二人は目の前の飛行船に見入って気づかない。セピアが側面のボタンを押してハッチを開ける。
三人は乗り込み、それぞれ席につく。内部にはさまざまな計器やコンピューターが内蔵されていた。
「どうやって操縦するんだ?」
レオンがセピアに尋ねる。
「大丈夫。エアロキャリッドには自動航行装置が内蔵されているから、地球まで乗っているだけでいいのよ。そこのボタンを押して」
言われるままに自分が座った中央の席の手元にあるボタンを押す。すると、エアロキャリッド上部の天井が地上へ向かって左右に段階的に開く。
完全に出口が開いて青空が見えたとき、エアロキャリッドが自動でふわりと浮き上がり始める。レオンだけが驚いている中で、地上へ飛び出し、空へと舞い上がる。
超高速で宇宙空間に突入後、ワープ走行によって数時間で前方に青く輝く地球が見えてくる。レオンが真っ暗な闇に浮かぶ地球を見て呟く。
「あれが地球か……」
「おお、あれがフィールの、レイザーとアイリアの祖先の星」
「なんて綺麗な星なの」
ウォートはやはり両親を知っていたのだ。レオンはそう思った。
地球の大気圏に突入すると、機内の温度が少し上昇したが、その後は何事もなかった。
しばらく飛行すると、日本列島が徐々に大きくなってくる。エアロキャリッドは東京の外れにあるレオンの家のすぐ裏の山にゆっくりと着陸した。そこは奇しくも、レオンの乗ったカプセルが着陸した辺りだった。そして、10歳を過ぎてから急に強くなりたいと言い出したレオンによって、突きと蹴りを無数に打ち込まれた巨木の近くでもあった。エイリークとフローラ、それにラミアは、そんなレオンを静かに見守っていた。
妖魔族の姿はどこにも見当たらない。レオンは驚かせないために鞘に収めた雷神剣を外の茂みに隠してからひとまず家に帰る。それに続く二人。
「ピンポーン」
玄関のベルを鳴らすと、母フローラの声がしてドアが開く。フローラはレオンたちを見てしばし呆然とし、それからレオンに抱きついて泣くのだった。
招き入れられて三人は家の中に入り、フローラの声を聞きつけた父エイリークと妹ラミアがやってくる。どうやら今日は日曜日のようだ。レオンは今までの出来事と、これから起ころうとしていることを話す。
「いつかこんな日が来ると思っていたよ。16年前のあの日から……」
エイリークが寂しそうにあの日のことを話す。
「お兄ちゃんが本当の兄妹じゃないなんて、私知らなかった!」
ラミアはレオンの顔を見つめ、それから悲しそうな顔をしてうつむいてしまう。
「妖魔族が動き出すまで様子を見たいから、この二人も家に置いてくれないか?」
「ええ、私たちは構わないわ。ねぇ、父さん?」
「ああ、もちろんさ。いつまでいたって」
「私もいいわ」
三人はこの家で様子を見ることにした。ラミアはセピアを自分の部屋に招き、サンドーラのことをいろいろと聞いた。二人はすっかり意気投合し、ラミアはその日の夜にセピアに言う。
「セピアさん、今日は一緒にお風呂に入りましょう?」
「いいわよ」
「やったぁ! 嬉しい」
ラミアはとても喜び、二人はお風呂場に向かう。
服を脱ぎ終わったセピアを見て、ラミアが言う。
「セピアさんって、とっても綺麗ですよね。スタイルもいいし。私なんて、胸小さくて」
セピアから自分の胸に目を移す。
「そんなことないわ。ラミアさんだって、とっても可愛いわよ」
セピアは照れ隠しするようにシャワーを浴び始める。本当の姉妹のように髪と体を仲良く洗い合い、二人は湯船につかって、しばらくしてから唐突にラミアが言う。
「お兄ちゃんのことどう思ってるんですか?」
「どうって、そんな……」
もうのぼせたのか、セピアは顔を赤らめ、湯船から慌てるようにして出ると、脱衣所で体を拭き始める。ラミアは湯船につかりながら、「ははぁ、お兄ちゃんのこと好きなんだな」と思うのだった。
レオンはその頃、チャンネルを頻繁に切り替えつつテレビを観ていたが、妖魔族に関する情報は何も得られていなかった。こうして地球での1日は何事もなく過ぎた。ウォートはレオンの、セピアはラミアの部屋で寝ることに。
それから2日、3日と何事もなく過ぎていった。
4日目の明け方、レオンは奇妙な夢を見た。妖魔たちがどこかの暗い場所に集まっている。そこで話をしているのはバドスのようで、どうやら地底の洞窟のようだ。
「いよいよ明日の朝7時に地球侵略を開始する。手始めに東京の街を破壊する。まずは日本の首都を侵略するのだ」
バドスの話はそこで終わり、レオンは同時に目を覚ます。それは予知夢のようなものだった。枕元の目覚まし時計を見ると、6時50分。
「ウォート、早く起きてくれ!」
レオンは隣で眠っているウォートの肩を揺すって起こし、すぐにラミアの部屋に向かい、ドアをノックする。
「セピア、起きてくれ!」
その声にセピアとラミアが部屋から出てくる。その後でまだ眠そうな顔のウォートも。
「どうしたの!?」
セピアが心配げに聞く。
「間もなく妖魔族の攻撃が始まるんだ!」
レオンはテレビに駆け寄り、リモコンのスイッチを押す。画面には妖魔たちが東京の街を破壊している様子が映っており、どのチャンネルでもその光景を放送している! 気づくと7時10分になっていた。
「俺は行く!」
レオンが玄関から外に飛び出すと、セピアもその後を追う。二人はサイコテクターを装着し、空を見た。火災によって煙が立ち上り、爆発音も聞こえてくる。妖魔はもうそこまで来ているようだ! レオンは隠していた雷神剣を腰に差し、後から来たウォートとともに3人で街の方へ駆けていく。
「助けてくれ!」
横道から一人の男が走り出てくると、その背後から妖魔が追ってくる。
レオンは雷神剣を鞘から抜きつつ駆け出すと、妖魔の前に立ち塞がり、雷神剣で頭部を切り落とす。妖魔は首から緑色の血を吹き出させ、ドゥと倒れる。
「まさかお前、レオンじゃないか?」
助けられた男がヘルメットの中の顔を見て言う。
「ああ、そうだ」
それはクラスメイトのマークだった。
「今までどこ行ってたんだよ? 授業中に突然消えやがって。それに、その格好は何だ?」
マークはサイコテクターをまじまじと見る。
「マーク、話は後だ。じゃあ」
レオンは妖魔たちの姿を見て、その方へ駆けていく。以前とは別人のようなレオンのその後姿をマークは呆然として見送っていた。
三人は次々と妖魔を倒していく。ウォートは指先からほとばしる氷魔法で街中の炎を消し、妖魔たちを氷漬けにしていく。
数時間の死闘の末、レオンたちは妖魔をすべて倒した。ほっと安堵のため息を漏らした次の瞬間、東京上空の空がにわかにかき曇り、黒い雲の間から妖魔副王バドスが姿を現す! それは牛のような角を側頭部の左右にまっすぐ伸ばし、コウモリのような翼を持つ、3メートルを超える悪魔のような姿の怪物だった……!
「お、お前は、魔法族の魔道士ウォート! 生きていたのか。お前はサンドーラ大戦でガルーダ様に倒されたはず……」
バドスが鉤爪のある指でウォートを指差し、驚きの声を上げる。
「そう。確かにわしはガルーダによって殺された。しかし、フィールの勇者レイザーが落雷を帯びた雷神剣の放った稲妻によって、わしの停止した心臓の鼓動を蘇らせてくれたのだ! そのレイザーの息子、それがこのレオンだ!」
「あのレイザーの! ……ならば手加減は無用か。死した妖魔どもよ、我の血となり肉となれ!」
バドスがそう叫ぶと、緑色の血にまみれたり、氷漬けになった妖魔たちが一斉に宙に舞い上がり、その肉体に吸収されていく。それは目を背けたくなるような光景だった。
バドスが三人に倒されたすべての妖魔を吸収し終えると、その肉体が奇妙な音を立てながら急激に巨大化し始める!
地上に下りたバドスは、東京の街にある一番高いビルよりも巨大になっていた! 巨大化したバドスは、その拳や鉤爪で次々とビルを破壊していく。人々の叫び声がレオンたちの耳にも届く。
「くそ、どうにかならないのか!」
レオンは破壊神と化したバドスが街を破壊していくさまを見つめ、拳を握り締めながら呟く。
「フルメタルソルジャーゼロックスを呼べ! これが最後の切り札だ!」
ウォートがそう叫ぶと、バドスの無慈悲な攻撃によって街が次々と破壊され、炎と煙を上げる。
「よし、わかった!」
「ソルジャーーーッ!」
レオンが無意識にそう叫ぶと、プロテクターの全部位からまばゆい光が発せられ、それは光の玉となって東京湾の方へと向かって一直線に飛んでいき、海に落下した! すると、海面が振動し始め、海の中から巨大なロボットが姿を現し、ゆっくりと上陸する。
不意にレオンの体がふわりと浮き上がり、光の玉を追いかけるようにしてゼロックスの頭部へと吸い込まれていく。
気づくとレオンは操縦席に座っていた。さらに周囲の機器から伸びる十数本の触手のようなものが体の各部位に取り付けられている。それを見て手足を動かしてみると、ゼロックスも同じ動きをする。操縦者の全身の動きによって操作する仕組みのようだ。
その頃、地上からは数十台の戦車が、空からは数十機の戦闘機が一斉にバドスに向かって総攻撃を仕掛けていた。バドスは口から吹き出す炎で戦闘機を撃墜、戦車を踏み潰して次々と破壊していく。ゼロックスが腰の剣を抜き、バドスに近づいていく。
その気配に気づいたバドスは攻撃の手を止め、ゼロックスの方へ目を向ける。
「まさか、ライオットの開発したフルメタルソルジャーとかいうやつか?」
「そうだ。バドス、覚悟!」
操縦席のレオンがそう叫ぶと、喉につながった触手によってゼロックスの口からそのままの声が大きくなって発せられ、地響きを上げながらバドスに向かって突進する。ウォートとセピアはその光景を心配そうに見つめる。
バドスは指先から光線を出すと、背中の剣を抜く。光線はゼロックスの胸部に炸裂し、ビルに激突。壊れたビルを心配するゼロックスだったが、すでに人々は避難した後のようで、気配は感じられなくなっていた。
立ち上がると高々と飛び上がり、蹴りをあびせる。バドスの体はビルに叩きつけられ、めり込む。ゼロックスの剣による突きをバドスは剣ではらい、立ち上がる。バドスとの戦いは延々と続いた。
さすがに双方疲れが見え始めていた。バドスは剣に意識を集中させると、ゼロックスの剣を持った右腕に振り下ろす。剣でその攻撃を防ごうとしたが、剣は真っ二つに折れ、右腕も切り落とされる!
「ぐあーーっ!」
ゼロックスは右腕の付け根を左手で押さえ、片膝をつく。レオンの同じ部分にも電撃のような鋭い痛みが走る!
「貴様もこれまでだ!」
剣をゼロックスの頭部の、操縦席のレオン目掛けて振り下ろす! ……しかし、剣は見えない何かによって弾かれる! にわかにゼロックスの体から揺らめく気が立ち上り始める。レオンはゼロックスが動くままに左拳を高々と掲げ、精神を集中させる。
すると、左拳が闇に浮かぶ地球のように青く輝き始め、突き出した拳から巨大な光線がはなたれる! それは飛び去ろうとするバドスを追尾して背中に直撃! 巨体を木っ端微塵にする! レオンはそのとき、直撃した瞬間の閃光の中に、ライオット博士の満足そうに微笑む顔を見た気がした……。
地面に落下した肉片は、煙を上げて跡形もなく消滅した。レオンは自動で開かれた操縦席から飛び出し、ゆっくりと地面に着地して片膝をつく。レオンはその態勢のまま装着装置のボタンを押し、ハイパーサイコテクターを解除する、二度と押すことのないことを願いつつ。
バドスとの戦いを遠巻きに見つめていたセピア、ウォート、エイリーク、フローラ、ラミア、マークがレオンに駆け寄る。もう太陽は西に傾いていた。
こうして妖魔族との戦いは終決し、レオンの活躍によって地球侵略は免れた。空を覆っていた黒く厚い雲は妖魔族とともに消え失せ、夕焼けの赤い空が東京の街の上空に広がっていた。
次の日の朝、セピアとウォートはサンドーラへ帰るための支度を終え、家の外に出ていた。なぜかセピアの顔は曇っている。エイリーク、フローラ、ラミアも見送るために外に出る。レオンも少し遅れて出てくる。フローラが二人に言う。
「どうしても行ってしまうのですか?」
それにウォートが答える。
「やはりわしはサンドーラの方が性に合っているようじゃ」
ウォートとセピアはハッチの開いたエアロキャリッドの方へと歩いていく。
「さようなら」
レオン以外の三人がそう言うと、二人は手を振り、それからエアロキャリッドに乗り込む。ハッチが閉まる直前、レオンが叫ぶ。
「セピア、待ってくれ!」
レオンは駆け出す。すると、閉まりかけたハッチが開き、飛び出してきたセピアもレオンに駆け寄り、二人はしっかりと抱き合う。
「好きだよ、セピア」
「私も」
そう言うと、二人は初めての口づけをかわす。それを見届けたように、ウォートだけが乗るエアロキャリッドが浮き上がる。守り神のようにレオンの家の近くで待機していたゼロックスもそれに続いて飛び上がる。
『二人とも元気でな』
それぞれの頭の中にウォートの優しげな声が響く。
ウォートの乗ったエアロキャリッドとゼロックスが見えなくなるまで、レオンとセピアは抱き合ったまま手を振って、輝く星のような2つの光を見つめていた。
END
年表(地球の西暦による)
サンドーラ星には太古からサンドーラ人、善の妖精族、悪の妖魔族が共存。妖魔族から後に特に強大な力を持つ王や副王が現れる。
やがて、サンドーラを支配しようと動き出した妖魔族との大戦が勃発。サンドーラは太陽系外では地球レベルの重要な惑星で、危機を知った近隣の2つの星から超能力を持つフィール、エレメント魔法を扱う魔法族の援助を得て、数に勝る妖魔族と戦った。
1965 サンドーラ大戦開戦。
1973 レイザーとアイリアの間に長男誕生。
1974 サンドーラ人のライオット博士とトーファの間に長女セピア誕生。
フィールの全滅を予知したリーダーのレイザーとアイリアは、自分たちの一人息子だけでもと地球へテレポートさせる。フィールの祖先は地球出身。のちのレオン1歳地球に到着。
1975 大戦で生き残ったのは、妖精族では長老ランドールとトーファ、フィールではレオン、魔法族では卓越した魔法の使い手の魔道士ウォートだけ。ウォートはガルーダとの戦いで一度は命を落とすが、戦友レイザーの雷神剣による電気ショックで生き返る。
妖精王ダナオシーが王と副王を封印できるのは自分の血だけと悟り、自らを生贄にして妖魔王ガルーダと妖魔副王バドスを地中深くに封印、それにより妖魔たちも地中へと逃げ隠れた。こうして10年ほど続いた大戦が終決、サンドーラに平和が戻る。
ランドールが幼い頃に大蛇に守られる前のテクトロン鉱石を洞窟を探検した際に見つけており、ウォートとの親交の中で唯一教えた。その頃にはすでにテクトロン鉱石の放つ光に魅せられた大蛇が洞窟内に棲み着いていた。
1976 エイリークとフローラの間に長女ラミア誕生。
1980 ライオット博士が対妖魔族用にフルメタルソルジャーの研究と開発を始める。
1986 グラムサイトがライオット博士の助手となり、対妖魔族用プロテクター、サイコテクターの開発も始める。
1989 グラムサイトが博士の類まれな才能をねたみ、サンドーラ1の科学者となるべく自宅の地下室にて黒魔術でガルーダを呼び出し、高度なロボットの技術力を得る。それと引き換えにガルーダとバドスの封印を解くことを約束させられ、そのためには妖精族の血が、長老ランドールの生贄が必要だったが、ガルーダでさえもその行方がわからず、バドスはトーファ、自身はセピアの生贄が必要と伝えられる。
トーファはグラムサイトの怪しげな行動や企みにいち早く勘付き、博士に報告。グラムサイトを解雇、この日より第2次サンドーラ大戦が起こることを想定して、起動にテクトロン鉱石を必要としないサイコテクターの上位版、ハイパーサイコテクターの開発を開始。
セピアをグラムサイトから守るため、しばらく戻ってこないように伝えて研究所から逃がす。その際、200クエストと身を守るのに役立つと完成した第1号のサイコテクター装着装置を渡し、もしものときは地下室へ来るようにと伝える。装置には数々の実験で最後の1つとなっていたテクトロン鉱石がはめ込んであった。このテクトロン鉱石は研究所の地下建設の際にたまたま掘り出されたもの。
博士はグラムサイトが復讐に来ることを考え、数日間をかけて研究所の地下にある巨大コンピューターに自身の代わりとなるAIを組み込む。
グラムサイトは自宅の地下室でアンドロイドの第1号を数日で完成させてしまう。その後、さまざまなタイプのものを製造。鳥型ロボットに研究所を偵察に行かせ、セピアが姿を見せなくなっていることを知ったグラムサイトは、黒魔術会の手下たちをセピアの追手として送る。
1990 フルメタルソルジャーゼロックス完成、ひとまずサンドーラよりも大きなフィールの星に極秘に送り込む。
ウォートはランドールの水晶で近々王と副王の封印を解かれること、地球で強く成長したレオンを見せられ、それを阻止できるのはレオンだけとエレメント魔法以外も得意なウォートは遠隔魔法で数日後のセピアの危機を毎日夢で見せ、秘めたる超能力を覚醒させ、レオン自身のテレポート能力によってサンドーラに来させる。
手始めにトーファを生贄にしようと博士が外出する日を待ち続け、研究所に1人でいるときにアンドロイド第1号に生きたまま捕らえさせようとしたが、トーファに抵抗され、アンドロイドは無慈悲に殺害。アンドロイドによって地下室に連れてこられ、それを知ったグラムサイトはどちらでも同じとトーファの血でバドスの封印を解く。その後で第1号は破棄。
研究所に戻った博士はフローラのものらしき血痕を見つけ、グラムサイトの自宅へと向かう。直前に完成したハイパーサイコテクターを装着して行こうかと考えるが、もし装置を奪われて悪用されることを恐れ、そうしなかった。博士は地下室の祭壇の上にトーファの亡骸を発見、音もなく背後から近づく3体の黒いアンドロイドによって同じく無慈悲に殺害される。グラムサイトは博士をトーファの傍らに寝かせ、最後の人間らしさをみせる。
博士のAIはセピアがエアロキャリッドに乗り込む前に自分と母の運命を知らせ、さらに研究所に、サンドーラに戻ってくる必要はないことをセピアに伝え、自身を完全に停止させた。
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