日本科学未来館[空想⇔実装展]触感神経衰弱

1. イントロダクション

私たちグループ2は日本科学未来館にてワークショップを行い、780名の参加者に実際に踏み心地の違う触感メタマテリアルに触れてもらい、最初にこちらが提示した感触のマテリアルと同じものを並んでいるマテリアルの中から自分の感覚をもとに探し出してもらいました。普段意識しない足の裏で踏み心地を比べるなど神経を研ぎ澄ませて踏み、参加者自身の感じ方や他の人との感じ方の違いに気づくことができるよう設計しました。また、自分が信じている感覚と実際の触感の違いも体感できることも目的としました。

2. 選んだ触感メタマテリアル・素材&構造について

今回の展示では10段階ある硬さの触感メタマテリアルのうち、1(柔), 6(中), 10(硬)の3段階を第一レーンで使用、グループ1が使用したつま先・真ん中・踵の3領域で、異なる硬さを組み合わせた6種の組み合わせのメタマテリアルを第二レーンで使用しました。 

第一レーンで使用したマテリアル
第二レーンで使用したマテリアル


3. 触覚で神経衰弱とは

一般によく知られているトランプで行うゲームの一つに神経衰弱があります。裏返して散りばめられたトランプをめくり同じ数字のカード(ペア)を探し出す、記憶力を競うゲームです。
まず最初に参加者にこちらが提示する触感メタマテリアルを踏んでもらい、その硬さなど踏み心地を覚えてもらいます。その後、1列に並んだ7枚のメタマテリアルの列を踏み心地を比べながら歩いてもらい、1番最初に提示した踏み心地のものと同じものがどれであるかを足の裏の触覚のみで当ててもらうというものです。
最初に踏んでもらったメタマテリアルと踏み心地でペアになるものを、自身の足の裏の感覚や記憶を頼りに探すということから、触覚を用いた神経衰弱ということで触覚神経衰弱と命名しました。

4. どうやって展示に対する理解を測ったのか、その手法

体験の手順

それぞれのレーンにおいてのメタマテリアルの並べ方

【第一レーン】
①まず横に3枚並べた異なる触感(柔・中・硬)のメタマテリアルを踏み、「中」の硬さだと思うものを認識します。
②目の前に縦一列にランダムに並んでいる3段階の踏み心地の7枚のメタマテリアルの中に一つだけ①と同じ硬さのものがあります。それを探しながら歩を進めます。
③同じだと思ったメタマテリアルの横に設置してある箱にボールを投票します。

【第二レーン】
①手前に置いてあるひし形のメタマテリアルを踏んで触感を認識します。
②目の前に縦一列に並んでいる7枚(硬さは6種類)のメタマテリアルの中に一つだけ①と同じ硬さのものがあるので、それを探しながら歩を進めます。③同じだと思ったメタマテリアルの横に設置してある箱にボールを投票します。レーンの最後には答えを書いたボードを設置しており、第一レーン、第二レーンの両方が終わった参加者は答えを確認できます。

④ボードの位置からは投票箱の中身を見ることができ、投票されたボールの色や量を見ることで他の参加者との感性の違いを認識できます。
⑤他に参加者がいなければ、レーンを再度歩き、答えがわかった上で自分の感覚と擦り合わせることができます。

展示に対する理解を測るために
・事前にレーンに並んでいるものと同じ硬さ(柔・中・硬)のものを3枚用意して踏んでおくことで、レーンを歩く前から硬さによる違いを感じさせ、より効果的にこのゲームを体験できるようにしました。
・投票用のボールの色を大人と子供で分けることで、両者の違いを視覚的に分かるようにしました。
・正解はあるものの、感じ方は人それぞれ違うものだということも説明しました。
・答え合わせ後、参加者からの疑問や質問に対応しました。
・全て同じ素材でできた触感メタマテリアルですが、内部構造によって踏み心地が異なることを説明しました。
・縦一列に並べることで参加者が全部のメタマテリアルをしっかり踏み、踏み心地の違いを認識できるようにしました。

5. 集計結果と考察

参加人数の合計:780名
 8月20日(土曜日):243名 午前121名 午後122名
 8月21日(日曜日):537名 午前144名 午後393名


第一レーンの正解はDで、大人は約73%、子供は約49%が正解しました。
第二レーンの正解はEで、大人は約60%、子供は約48%が正解しました。
上の表から、大人は第一レーン、第二レーンともに半数以上が正解し、子供の正答率を上回っていることがわかります。

【第一レーン】
Dの次に多かった回答は大人と子供ともにCですが、子供の方が大人より回答にばらつきが見られました。
【第二レーン】
大人も子供も回答にばらつきが見られますが、子供の方がばらつきが顕著に表れました。

子供は体重が軽いため、体重を乗せた時に踏み心地の微妙な違いが分かるほど触感メタマテリアルが変形せずこのような結果が得られたのではないかと考えました。
第一レーンでは最初に3段階の硬さの触感メタマテリアルを踏んでもらいましたが、これを最初から一つのメタマテリアルだけを踏むようにしていた場合に、大人と子供それぞれの正答率はどう変わるのでしょうか。

6. 足の裏の機械受容器の分布

   

Frederic J.F. Viseux, ”The sensory role of the sole of the foot: Review and update on clinical perspectives”

皮膚の機械受容器であるパチニ小体、マイスナー小体、メルケル細胞、ルフィニ終末、これら4種類が足底の無毛部に分布しています。
また、これらはAβ繊維を経由して中枢神経系に触覚や圧覚の情報を伝える役割を担っており、神経の密度が高いほど黒く、低いほど薄いグレーで表されています。
同じ刺激を受け続けると受容器から神経応答が減ってくるこの現象を順応といい、これら機械受容器は順応の速さによりFA I, FA II, SA I, SA IIに分類されています。
(FA I:早い順応タイプI, FA II:早い順応タイプII, SA I:遅い順応タイプI, SA II:遅い順応タイプII )
Strzalkowskiらによると、足底の皮膚にある求心性神経の分布は、踵からつま先へ内側から外側へ増加しており、FA1が主となっています。

加齢とともにFAは構造的な変化を示し、その数は減少することがわかっています。いくつかの研究では、健康な若者グループと高齢者グループを被験者にそれぞれの感覚閾値検査を比較したところ、高齢者の足は、触覚および振動の機械的刺激に対する感度が若者よりも有意に低いことがわかりました。高齢者の触覚閾値が有意に高くなるのは、 皮膚のパチニ小体、マイスナー小体、メルケル細胞などの密度や分布が減少し、空間認知能力が低下するためであると考えられます。この皮膚メカノレセプターの密度および分布の減少は、振動知覚または触覚閾値の低下と関連しており、特に母趾において顕著であることが臨床的にわかっています。
また、いくつかの研究で、大脳皮質の加齢による変化と感覚神経伝導速度の低下が強調されており、加齢に伴い感覚神経伝導速度と感覚活動電位の振幅が減少することが示されています。感覚神経の伝導速度と反応振幅は40歳をピークに順次減少していき、Rivnerらは、加齢と感覚活動電位の振幅に強い相関があること、また加齢と感覚活動電位の間にわずかだが負の相関があることを見出しました。

7. 来場者の声

子供だけでなく、大人からも楽しかったという声が聞かれました。
同じものがどれか全くわからなかった、難しかったといった声は大人からも上がっていましたが、結果的には正解している場合が多かったようです。
子供からはこんなの簡単だよという声と何回やっても分からないという声で二分化されていたように感じました。

8. 展示を通しての気づき

飛び石のように飛ぶ子の方が正答率が高く、大人も子供も矢継ぎ早に触感メタマテリアルを踏んでいく方が正答率が高かったという印象です。
全員が同じものを同じ順番で踏んでいるにも関わらず、人によって自信を持ってすぐ答えを出す人と、何回踏んでもわからない人がいて、興味深く思いました。
データの正確性のためにも体験は基本1人1回と設定していたが、全て歩き切ってから投票する際にレーンを逆走する必要があったため、事前にイメージした動線がうまく機能していなかったことが反省点として挙げられます。
展示の仕方や動線を柔軟に変えることができたらスムーズな運営に繋がったと考えます。

9. 結論(学んだこと)

人生経験の違いか、体重の問題か、大人は子供に比べて自分が持っている感覚と実際の触感の違いが少ないことがわかりました。また、歩くなど毎日足の裏を使っているにも関わらず、全体で正答率がそこまで高くなかったことから、意外と自分の感覚は信用ならないのかなと思いました。特に第二レーンは第一レーンよりも正答率が低く、その理由として、つま先・真ん中・踵の3領域で踏み心地を変えたことで、同じ組み合わせを探すのは難易度が高かったことが確認できました。
今回は夏休みだったこともあり、小学生もしくは未就学児の親子連れの姿が多く見られました。そのため大人の年齢も30歳代から40歳代が多く、「6. 足の裏の機械受容器の分布」で示した、加齢に伴う変化を確認するに至りませんでした。

10. 参考文献・URL

Frederic J.F. Viseux, ”The sensory role of the sole of the foot: Review and update on clinical perspectives”, Neurophysiologie Clinique/Clinical Neurophysiology, 2020

Strzalkowski NDJ, Peters RM, Inglis JT, Bent LR. Cuta- neous afferent innervation of the human foot sole: what can we learn from single-unit recordings? J Neurophysiol 2018;120:1233—46.

Rivner MH, Swift TR, Malik K. Influence of age and height on nerve conduction. Muscle Nerve 2001;24:1134—41.

Bolton CF, Winkelmann RK, Dyck PJ. A quantitative study of Meissner’s corpuscules in man. Neurology 1966;16:1—9.

Gescheider GA, Bolanowski SJ, Hall KL, Hoffman KE, Verrillo RT. The effects of aging on information-processing channels in the sense of touch: I. Absolute sensitivity. Somatosens Mot Res 1994;11:345—57.

Kenshalo DR. Somesthetic sensitivity in young and elderly
humans. J Gerontol 1986;41:732—42.

Mildren RL, Yip MC, Lowrey CR, Harpur C, Brown SHM, Bent LR. Ageing reduces light touch and vibrotactile sensitivity on the anterior lower leg and foot dorsum. Exp gerontol 2017;99:1—6.

Schimrigk K, Rüttinger H. The touch corpuscules of the plantar surface of the big toe. Histological and histometrical investi- gations with respect to age. Eur Neurol 1980;19:49—60.

Stevens JC, Patterson MQ. Dimensions of spatial acuity in the touch sense: changes over the life span. Somatosens Mot Res 1995;12:29—47.

Thornbury JM, Mistretta CM. Tactile sensitivity as a function of age. J Gerontol 1981;36:34—9.

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