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ジャンク小説 「Cage」

※筆者の描き殴り小説なので、くれぐれも真剣に読まないでください。



「Cage」

サイレンが鳴り響いている。
他人には決して届くことのない、脳内で鳴り響くサイレン。
気付いていながら蓋をしていた感情。
いや、本当はきっと気付かないふりをしていることにも気付いていた。
それなのに、こんなに大きな音で脳に警告を出されてしまったら、認めざるを得ない。
右手をそっと頭に添えてみるが、鳴り止む気配はない。
小さくため息を吐き出し、いつもの公園へ向かった。
小さい頃から罪悪感を感じると、ここにやって来た。
罪悪感を感じるのは、決まって嘘をついた時だった。
これまで僕はどれだけの嘘をついてきただろう。
いつもこのブランコに揺られていると、罪悪感はどこかへ飛んで行った。
一番最初にこの公園へやってきたのは、いつだったか。
空を仰ぎ目を閉じ、記憶をタイムスリップさせる。
今のアパートに引っ越して数日経った頃、母さんに手を引かれてやって来たのが最初だ。
母さんは「お父さんがいないと寂しい?」と聞いた。
俯いている母さんの横顔の方がよっぽど寂しそうで、僕は嘘をついた。
「ううん!ママがいるから全然寂しくないよ!」
僕は笑顔で答えたのに、母さんは喜ぶどころかさらに寂しそうに俯いたのだった。

あの日から、僕は嘘つきになった。
寂しい時は、誰にも悟られないようにいつも笑った。
悲しくても、心で泣いて唇を噛んで微笑んだ。
悔しくても、感情は心にしまって笑い飛ばした。
そういう事を何度か繰り返している内に、嘘をつくことは防衛本能のように、危機を感じると極自然に振る舞うことができるようになった。
でも嘘で隠した感情にはどこか後ろめたさを感じ、そんな時はこうしてブランコを漕いで空を仰いだ。
僕が隠してしまった感情はいったいどこへ行くのだろう。
いつもそのことばかり考えたけど、ブランコの揺れに合わせて、どこかへ飛んで行った気がしていた。
本当は違ったんだ。
サイレンを聴きながらそう思った。
遠くへ飛ばしたはずの感情は、いつも僕の周りで僕のことを見ていたのだ。

「母さん再婚しようと思うんだけど、どう思う?」
嬉しそうに、どこか恥ずかしさを纏う母さんは、初めて見る顔をしていた。
僕はなんと答えたんだっけ。
思い出せないけれど、きっと笑顔で頷いた気がする。
その後からずっとサイレンが鳴り止まない。
僕が嘘をついてまで守りたかったものは何だろう。
嘘をついてまでなりたかった僕になれたのだろうか。
雲ひとつない空を仰ぎみても、答えはわからない。
隠してきた感情が僕を取り囲み、公園からは出られそうにない。

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