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【雄手舟瑞物語#19-インド編】最後の仕事、そして出会い(後編)(1999/8/6)

最後の客引きの仕事で僕についてきてくれた男性一人、女性二人のグループ。彼らは散々ツリースト・オフィスで粘られて、比較的安めのツアーに申し込むことに。夜も更けて彼らは解放され、ホテルに向かった。僕はなぜだかどうしようもなく彼らと話がしてみたくなり、ラジャに了解を得て、彼らのホテルを教えてもらい、僕は一人で彼らの部屋を訪れた。

僕は彼らの部屋のドアをノックした。

トントン、、

「おぉ、どうした、どうしたー?」とドアを開けてくれた男性が笑顔で声を掛けてくれた。部屋には三人揃っていた。僕は「ちょっと皆さんとお話しがしたくて、来ちゃいました。部屋入っていいですか??」と聞くと、快く中に迎い入れてくれた。

僕はまず、「僕、雄手って言います。いや、すいませんでした。。折角の旅の始まりで巻き込んでしまって」と謝った。

ドレッドヘアの女性が「全然、気にしないでいいよ。」と気楽な感じで答えてくれる。なんて良い人たちだ。その女性は続けて、「ところで、何でさ、ここで客引きなんてしてるのよ?」と別に責めるわけでもない感じで僕に聞いてくれたのだ。

僕は堰を切ったように「僕、雄手実は、初海外、初一人旅でインドに来たんですけど、デリー空港着いてタクシー乗ったら、変なところに連れて行かれて、ボッタクりのツアーを組まされまして、、」と事の顛末を話すと、三人は「面白いねー」と喜んでくれた。男性はトラ、ドレッドヘアの女性はチカブン、しっかりしたお姉さんはカトミと自己紹介してくれた。

チカブンが僕に「雄手っていくつ?」僕は「今、大学2年で20歳になったとこです。」と答えた。「若いねー」とチカブン。

「皆さんは?」と聞くと、トラは大学4年生で23歳。チカブンはトラの満喫のバイト仲間で28、カトミはチカブンの地元の後輩で27ということだった。トラがバイト先でチカブンに卒業旅行でインドに行きたいと話したら盛り上がって一緒に来ることになったらしい。ちなみにトラは大学を休学して吉本の芸人を1年やって、その後ラッパーをしてるという。確かにそんな雰囲気の坊主だ。でも、その小太りの体型が人の良さそうな雰囲気が出てしまっている。「俺は口から生まれてきた」と何度も言う。とにかくよく喋るが、皆とにかく良い人だ。

そしてチカブンは「そう、それで私たちは今世紀最後の皆既日食を見に来たの。」と言った。僕は思い出した。そうだった。インドに来る前、今世紀最後の皆既日食がインドで見られるというニュースを見て、漠然と皆既日食みたいなと思っていたのだ。「あーーー、色々あって忘れてた。俺も皆既日食見に行きたかったんです!」僕はさり気なく思い切って聞いてみた。

「僕も一緒に連れて行ってくれませんか?」

みんなは「もちろん、いいよ!いいよ!」と言ってくれたが、「あっ、でも俺たちツアー組んじゃったから、3日間は動けないんだよな。連絡手段もないし、どうするか。」とトラが言った。

僕は「ツアーには行かず、一緒に逃げませんか?」と言った。トラは「え、まぁいいけど、そんなことできる?大丈夫?」と心配そうな表情を浮かべる。僕は「明日朝9時に迎えに来るって言ってましたよね?その前に出ちゃいましょう。この近くにマクドナルドがあるんですけど、そこに朝7時に待ち合わせるっていうのは、どうですか?」と提案してみた。

トラとカトミは心配な感じだったが、チカブンは表情を変えずに「いいんじゃない」と賛成してくれた。それで二人もチカブンに促され、「分かった!一緒に明日逃げよう!」と一致してくれたのだった。

僕は、「本当にありがとうございます!!」と感謝を述べて、「じゃ、明日朝7時にマクドナルドで!」と言い部屋を出た。三人も「オッケー!明日マクドナルドでね!」と答えて見送ってくれた。

どちらにせよ、元々明日には客引きの仕事から解放される予定だったが、まさかこんなタイミングで自分が客引きしてきた人たちの力を借りて、再出発を図れるのか、と思うと、不思議な縁を感じずにはいられなかった。そして感謝の思いを深く頂きながら、期待を胸に自分のホテルに戻っていった。新しい仲間との旅の再開にワクワクとドキドキで興奮しながら、その日、僕は床についたのだった。


(つづく、次回は8/2金曜日)※2日に1回程度、更新しています。

(前後のエピソードと第一話)

合わせて、僕のいまを綴る「偶然日記」もよかったら。「雄手舟瑞物語」と交互に掲載しています。


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