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会話劇

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#短編小説

バーにて⑫

「個人主義の国で生まれ育った人間はさ」
「おう」
「相手の背景にほぼ興味を持たないんじゃないか?」
「半端な個人主義だな」
「まあそうだな。ワンサイドだ」
「それで?」
「つまりお前が理解を要求することそのものがナンセンスかつ限りなく不毛なんじゃないか」
「そもそも相手に理解への動機がないから?」
「まあそういうことだな」
「孤独じゃね?」
「孤独じゃなくなれるとでも思ってたのか?」
「……あぁ、

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カフェにて

「こっちこっち」
「待った?」
「ううん、今来たとこ」
「うん」
「何?」
「かわいいなって」
「えっいきなり何」
「ふふ、何食べる?」
「ん…サンドイッチ」
「コレ?」
「うん、それ」
「OK」

「ねぇ見て見て」
「何?」
「携帯カバー替えたの!」
「あ、ほんとだ、ピカピカ」
「携帯替えるの大変だから、カバーだけ。でもスッキリした」
「そだね、目につくとこがピカピカになると気分変わるね」
「う

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街角にて

「あーもうすぐバレンタインだー」
「チョコ誰かにあげるの?」
「ねぇ知ってる?聖バレンタインがどんな人だったかとか」
「いやあんまり」
「だよねぇー。人は何故バレンタインで騒ぐんだろう」
「男は、女の子が告白してくれると思って期待したり不安になったりしてるんだよ」
「あーそうなの?…そんなに気になるの?」
「男の自信の根拠は、金、仕事、モテしかないからな」
「ふぅん」
「ピンと来ない?」
「よくわ

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枕元にて

「愛してる」
「うん、愛してる」
「それ本気?」
「えっ…えっと、うん」
「俺は本気」
「うん」
「君、塩取って、いいよ、ぐらいの軽さで言ってるでしょ」
「あ…うん、そうかも」
「なあ、俺の事どう思ってるの?」
「ん、好き」
「愛してる?」
「愛してるってどういう意味?」
「……意味…んー、好き、の上位互換?」
「感覚?」
「うん、まあそう。感覚。好きとは違う感じ。わかる?」
「ごめん全然わかんな

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居酒屋にて②

「完璧主義はダメだ」「パラドックスの最たる例だな」

「独身の時何に金使ってたのか思い出せなくなってきたよ」「主に女じゃね?変わってないよ」

「今夜どう?」「何が?」「何って…その…ア…」「あっちいって」「ハイ」ナンパ難破

「おじさんに何でも聞いてね」
「若い女性と見るとセクハラとマウントし放題だと勘違いしてるクソバブル前世代の遠ざけ方について聞きたいです」
「ほんとすみません」

「死んだら

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バーにて⑪

「正論なんて絶滅しろ!!!」
「どうしたんですか、何かありましたか」
「正しいことをもっともらしく偉そうに言われると何であんなにムカつくんだろうね?」
「偉そうに言われるからムカんじゃないでしょうか」
「じゃあ正論に罪はない?」
「罪かどうかはわかりませんが、正論が状況改善に役立つかどうかは場合によるかと思います」
「つまり私にエラッソーに説教垂れたり、突然怒鳴り散らすあのお偉いさんは、害悪という

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バーにて⑩

「こんばんは、マスター」
「お、こんばんは」
「まだ明るいですね。開店早々すみません」
「いいよ。何にする?」
「んー、モスコミュール」
「はいよー」

「最近どう?恋の方は」
「最近ですか?あー、フラれました」
「そうかー。でも、何かあるのは良いことだな。進んでる証拠だ」
「そうですかねぇ…。ああ、ここに一度一緒に来た人ですよ」
「…もしかしてあの、すごく目の澄んだ子?」
「そうです、あの人」

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バーにて⑨

「初めて付き合った人にさ」
「うん」
「『どうして泣かないの?俺の前じゃ泣けないの?』って言われたんだよね」
「あの人が言いそうなセリフだな。でもあの顔でそういうこと言うんだな」
「笑えるよね」
「ちょっとな」
「…泣けないのって悪いこと?なんか…そんな言い方されたら、私が悪いみたいじゃん」
「ずっと気に病んでるの?」
「うん…バカだよね」
「いや、あの人がバカだな。というか…悪質だな」
「どうし

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バーにて⑧

「男ってさ、簡単に好きとか愛してるとか言うじゃん」
「まてまて、話を拡げるな。全ての男ではない」
「そっか…えっと、じゃあ、簡単に好きとか愛してるとか言う男いるじゃん」
「ああ、それはいるな」
「それでさ、『ベッドの中の愛してるは信用するな』とかいう格言めいたものもあるじゃん」
「あるなあ。俺それどこで初めて聞いたのか覚えてないわ」
「私も…」
「うん、それで?」
「でね、思ったのよね。寝るために

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バーにて⑦

「何で文豪って皆不倫するのかなあ」
「皆じゃないと思うけど…リアリティのあるネタ作りのため?不倫モノってウケが良いからね。人は禁忌を求めるものだよ」
「なるほど…」
「で、何で急にそんなこと聞くの?」
「吉本ばななの読み過ぎで」
「ああ。白河夜船とかね」
「そうそう。でもさあ、あんな礼儀正しい男なんているのかな?」
「それこそリアリティの問題じゃない?文字に起こして活字で印刷されてると礼儀正しく感

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路地裏にて

第一話はこちら
第二話(前話)はこちら

「ここでさあ」
「うん?」
「私が泣き出したらどうするの?」
「シリーズ化してきたな」
「ねぇどうなの?」
「どっか連れ込む」
「それから?」
「水飲ませる」
「それだけ?アスピリンは?」
「持ってるよ。俺としたいの?」
「…わからない…」
「それ決めてから泣けよ」
「決定権投げんなよ」
「そっちこそ」

「だってどうせ断るくせに」
「試せば」
「断られる

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バーにて⑥

前話はこちら

「あなたの奥さんってさ、きっと」
「うん」
「すごくしっかりしてて鷹揚で背筋が伸びててハッキリした人なんだろうね」
「ああ、うん、そうだね」
「それじゃ私じゃ、全然ダメだよなあ」
「そういうわけじゃなかったけど」
「何それ奥さんに失礼じゃん」
「誰の味方してんの」
「正義…」

「私だってさ」
「うん?」
「しっかりしてて凛としててかつ余裕のある人間にずっとなりたくてがんばってきた

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バーにて⑤

バーにて⑤

「顔が良くて人心掌握に長けたナガサワさんのような男というものはだな」
「うん」
「自分はモテるということに絶対的な自信を持っていて」
「うん」
「女がワラワラと寄ってくるから」
「ああ」
「『受け入れられる』ことが普通なんだよな。というか最初から相手がフルオープンなわけだからな」
「ふむ」
「トラブルが起こればはい次、でいいわけだし。ハツミさんはキープしてるわけだし」
「家にスタンウェイ置いといて

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河川敷にて

河川敷にて

「ねぇ、触っていい?」
「何もしないって言ったじゃん」
「君はね」
「ダメだよ。止まらなくなるから」
「そしたらダメって言う」
「鬼かよ」
「いいから」
「はいはい」

「…あったかい」
「そりゃ、生きてますからね」
「脈…89」
「数えるなって。こっち向いて。顔上げて」
「…………」
「あなた、甘い」
「…。ダメ、これ以上はダメ」
「なんで?」
「…怖い」
「鬼だな」
「………」
「泣かないで。

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