バーにて⑩

「こんばんは、マスター」
「お、こんばんは」
「まだ明るいですね。開店早々すみません」
「いいよ。何にする?」
「んー、モスコミュール」
「はいよー」

「最近どう?恋の方は」
「最近ですか?あー、フラれました」
「そうかー。でも、何かあるのは良いことだな。進んでる証拠だ」
「そうですかねぇ…。ああ、ここに一度一緒に来た人ですよ」
「…もしかしてあの、すごく目の澄んだ子?」
「そうです、あの人」
「そうかあー」
「流れで好意をチラつかせたら、『今の所末永くお付き合いするという気持ちではありません』とかなんとか言われて、フラれました」
「そうかー。それ以来あの店には行ってないの?」
「行ってないですねえ。フラれた後、顔を合わせるのって気まずくないですか?」
「んー、そこは男の側が何とかするところじゃないのかなあ」
「…ああ。そうなのかも知れませんね」
「居場所失うのも詮無いでしょう。また行ったら?」
「でも、一連の流れにその店のオーナーも一枚噛んでたんですよね」
「ああ…そりゃ仕方ないわ」
「ですよね。どうもありがとうございます」

「でもさ、告白したのはがんばったよね。それでよかったんだよ」
「そう…なんですかねぇ。よくわかりません」
「好きなことどんどんやるのがいいよ。疲れたらここで休んでさ」
「バーテンの鑑みたいなこと言いますね」
「バーテンですもの」

⑩話目はマスターとの一幕。


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