バーにて⑪

「正論なんて絶滅しろ!!!」
「どうしたんですか、何かありましたか」
「正しいことをもっともらしく偉そうに言われると何であんなにムカつくんだろうね?」
「偉そうに言われるからムカんじゃないでしょうか」
「じゃあ正論に罪はない?」
「罪かどうかはわかりませんが、正論が状況改善に役立つかどうかは場合によるかと思います」
「つまり私にエラッソーに説教垂れたり、突然怒鳴り散らすあのお偉いさんは、害悪ということでいい?」
「だ、断言はできませんが…あまり良い効果をもたらす行動ではなさそうですね」
「そうだよねぇ…ありがとう」
「いえ…なんか大変だったみたいですね」
「そうなのよ」

「ねぇ、何かが『わかる』なんて思わない方がいいんじゃない?」
「例えばどんなことですか?」
「例えば…。うーん。デートの後すぐLINEが来たから気があるとか、時間を破ったから舐められてるとか」
「まあ、断言は出来ませんよね」
「だってさ…研究だって、ホラ、何かを証明しようとすればするほど、限定的なことしか言えなくなっていくじゃない。この実験ではこういう結果が出て、この論文の中ではこういうことが言えるかも知れませんけど、まだまだ調べていく途中です、とかそんなところじゃない」
「まあそうですね」
「恋愛だってそうなんじゃないかなと思うのよ」
「僕、恋愛は専門外なんで、よくわからないんです」
「何が良いとか悪いとか正しいとか間違ってるとか、そんなものを判断する基準なんて実のところどこにもなくて、人の気持ちも自分の気持ちも何もかも、実は何にも、わからないと思ってる方がいいんじゃないかって…」
「ふむ…。常に何かを明らかにしようとして生きてる身としては、興味深い視点ですね」
「何を明らかにしたいの?」
「タンパク質の場所とか」
「ああ…それは、きっと、わかった方がいい奴ね。見つかるといいわね」
「ええ」

「じゃあ」
「ん、何?」
「三杯目はストーンズとモスコミュール、どっちがいいですか」
「ストーンズで決まり~」
「どっちが飲みたいか、わかりましたね」
「ああ、そうね。直感?」

「あー、美味しかった。お酒の味ってあんまり気にしてなかったけど、今日のは美味しかった!」
「良かったですね。僕も美味しかったです」
「ふふ。ああ、寒いね」
「ついでに、もう一つ答えてください」
「ん?」
「僕と付き合うのと、付き合わないの、どっちがいいですか」
「んー。私が選んでいいの?」
「選んでください」
「えー、わかんないよ…」
「じゃあ僕が決めても?」
「権利を渡した途端に答えが決定するよね」
「そういうことです」
「…私達もう、付き合ってるんじゃなかったの?」
「え………そうなんですか?…わかりません」
「バカね。考えちゃダメよ、直感を使うのよ」

「私と手を繋ぐのと繋がないの、どっちがいい?」
「…えっと、繋ぎたいです」
「バカね、こういうのに返事は要らないのよ」


あとがき
昨日一度アップしたんですけど、全くつまらない気がして、新機能によって下書きに戻されたんですけど、つまらないかどうかは私にはもはやわからなくなってしまったのでアップします。

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