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【積読を買いに④】本屋さん探訪vol.2 ROUTE BOOKS

前回のあらすじ

忙しくて本を読めない生活にほとほとうんざりしたので、会社を辞めて本屋めぐりをすることにし、一軒目としてBookshop Travellerに行った。

特別に美しい本屋

本屋巡りの事前の情報収集

の2冊を読んだが、その双方に出てくる本屋さんがある。
ROUTE BOOKSだ。

『東京の美しい本屋さん』では、その表紙も飾る。

インターネットで簡単に本を買える時代に、それでも本屋さんに足を運ぶ理由はいろいろ考えられる。選書の良さ、本との偶然の出会い、応援の意味合いを込めて。
その中でもいちばん有無を言わせない理由の一つに、「本屋さんの空間そのものが美しい」があるのではないだろうか。
というわけで、2軒目はROUTE BOOKSに行くことにした。

ROUTE BOOKS


ROUTE BOOKSの最寄り駅は上野だ。
通常上野駅に降り立った場合に行かない方の方角に徒歩8分ほど。本当にこの落ち着ききった下町にあのような新しく美しい本屋さんがあるのだろうか、と不安になるような道の一本に、突如としてオアシスのように現れる。

緑が多くて本当にオアシスのようだ。

その日は天気が不安定で、店に着いたところでちょうど雨が降ってきて、自然と雨宿りをするかっこうとなった。

静謐な空間が広がる。

1階では書籍とコーヒー、クッキーなどのお茶うけが売ってある。座席も少々ある。

ブックカフェには2種類の形式がある。
買った本のみ席で読める形式と、買う前の本でも席で読める形式だ。ROUTE BOOKSは前者である。
というわけで、コーヒーをオーダーしてから買う書籍を選ぶ。

棚の配置と、並んでいる本。
おしゃれなものから社会派のものまで。

小説は奥のほうに2つほど棚がある。

村上春樹の棚。

この雰囲気はやはり村上春樹かな、最近読んでなかったし、と思ったが、なんとなく気乗りがせず周囲を見回すと、カズオ・イシグロのノーベル賞受賞後の第一作『クララとお日さま』があった。

カズオ・イシグロは前々から読んでみたいと思っていたのに、けっきょく『わたしを離さないで』の映画を見たきりになっていた。これを期に読もうということで購入した。

コーヒーを持って2階に上がる。

2階につながる階段。
2階の座席。

2階は本がない分広々としており、端にバーカウンターや陶芸教室を営んでいる空間などもあり、いい感じに雑多だ。

酸味があって飲みやすいホットコーヒーに口をつけながら、『クララとお日さま』を開いた。

クララはAF=Artificial Friendとして創られ、体の弱い娘ジョジーに買い与えられたロボットだ。読者はクララの鋭い観察眼を通して、徐々にこの社会に存在する技術や経済格差、明るい側面と闇の側面を知っていくことになる。

SFの中でも科学的な発想で人を惹きつける作品というよりは、SF的な世界観を提示することで人間の本質に迫る思考実験を促す、例えば『すばらしき新世界』などに近いスタイルだ。
文章は平易で、おそらく中学生ぐらいからは充分に読みこなせる。カズオ・イシグロが広く読まれ続ける理由だろう。

あらすじには「生きることの意味を問う感動作。愛とは、知性とは、家族とは?」とあるが、わたしはこの本のメインテーマは「信心」だと思う。まだ宗教というほどではない、未熟で体系化されていない、祈る心だ。

登場人物は各々の信心を持つ。ジョジーと幼馴染リックは幼い頃の約束を、ジョジーの母親は“向上処置”によって子にもたらされる未来を、母親と離婚している父親は所属するコミュニティの思想を、リックの母親ヘレンは過去の恋人を信じ、縋ろうとする。
人間たちが自らの信心によって時には自縄自縛に陥っていく中で、ロボットであるクララがいちばん「信仰」に近いものを獲得していく。太陽への信仰、祈り、自己犠牲。

日本人は無宗教だという人もいる。一方で今、カルトが日本を騒がせている。宗教や信仰はしばしば不気味なものとして扱われる。
しかし、人間であるということの本質に「信心」があることからは逃れられないということ、信心を持つこと、そして他人のために祈ることは本来は美しいことなのだということを、この作品は思い出させてくれる。

※この文章はセミフィクションです。今後登場する書籍・書店・ブックカフェは実在しますが、それ以外は「わたし」含め実在の人物や団体などとは関係ありません。

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