中華料理屋の床ぐらいベタベタしてね
夏の始まりはいつだって蒸し暑いし、ひどく気だるい。今年もそう思っていた。あの日までは。
アパートの近くに佇む、ボロい中華料理店が家事で燃え尽きたのだ。
近頃は「町中華ブーム」もあってか土日には若い客で行列もできていたこの店。正直、炒飯も油が多いし、餃子も餡が少ないしパサついている。
過大評価極まりない。
そもそも、この店。前までは土日営業していなかったじゃないか。店主のおじいさん、かなりやせ細ってきているよ……。
無理しないほうがいいって思っていた矢先。
火事の連絡はなぜか元カレから届いた。
塩顔だけど今どきのイケメンっぽい感じではないけれど、笑うと飛び出す八重歯がなんともかわいらしい人だった。
でも、体の関係がなくて終わった。そういうのっていとも簡単に終わりを迎えてしまうものだ。
で、なんで今さら? で、なんで中華屋のことを?
行ったことあったっけ。いや、ない。カレは外食嫌いだった。
「ところで……最近何してる?」
「は?」
「いや、なんとなく」
「その連絡?」
「違う。火事のことニュースで見て気になって」
「んー」
返す言葉に迷ってLINEを終えた。
3日後。会うことになった。
元カレはなんか太っていた。
どうでもいい近況報告をしていると「嫌いじゃないな、この人」と改めて思った。
で、久しぶりぐらいに夜を過ごした。
で、また会わなくなった。
こういう関係は違うと思ったから。彼からはLINEが届いていたけど、開かなかった。
数週間後。
中華屋の火事は放火だということが分かった。
犯人は――
私だ。
理由はまだ言いたくない。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?