【短編小説】 春のにおい
放課後の学校でぼくは、
3-C組の後ろドアの前で立ち止まった。
柄にも無く学ランのボタンを一番上まで閉めた上に、首元のホックまで掛けた。
教室に乗り込もうとしたその時、
廊下の静けさがぼくを喰らい尽くした。
呼吸を整えるため、酸素を沢山取り込もうとした。
しかし、ちらっと右に見えた廊下の異様な光景が筋肉を抑止した。
教室の壁側に女子7人が並んで直立していて、
反対の窓側には男子8人が同じようにしているんだもん。
『なんだよそれ。ありがとう、いってくる』
ぼくはもとの世界に帰ってこれた。
古びた木の扉を横に開けて、教室に入った。
1人の女子が自分の席の前で立っていた。
彼女の前まで歩み寄ると、
硝子のような青い目だけをただまっすぐみつめた。
「すきです。つきあってください」
春のにおいが2人を包みこんだ。