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【短編小説】 PEACE

雨上がり。
月曜の朝はどうしてこんなにも気怠いのだろう。
電車の中には、遅めの出勤時間と思われる
サラリーマンがうたた寝をしている。

そこまで混雑していないローカル線の電車を降り
大学へ向かうために違う路線に乗り換える。

もう、レポートの時期が迫っている。
僕は国際政治経済学部に通っていて
卒論のテーマは『国際平和について』。
でもまだ構成も内容も決まってない。
平和って何だろう。。

学校は集中できないから嫌いだ。
遊んでばっかりの奴が多くて
一緒にいたくない。
そういえば、4年間
あんまり友達と呼べる人間とも関わってこなかった。

国際平和について、なんか
こんな平和ボケした日本にいたら
思いつかないよな。。
そんなことを思いながら
繁華街を抜け、そろそろ乗り換え駅。
というところで
騒がしい声が聞こえた。
驚いて、声のした方を見ると
どうやらホストらしき男と
キャバ嬢らしき女が口論している。

キャバ嬢はキラキラのラメがついた小さなバッグで男を叩いて叫んでいる。
男もそれを防ぎながら、負けじと言い返している。

はぁ、朝からこんなもの見てしまった。
呆れながら喧騒を傍目に通り過ぎると
数メートル離れたところに
小学校に入るかどうかの男の子が棒立ちになりながら、じっとその喧嘩を見つめている。

はて、こんな朝早くから
ちびっ子が何をしているんだろう。。
その時、男の子と目が合った。

僕はなぜか歩みを止め、
男の子の方へ近づいていった。

「喧嘩、、してるな」
そう呟いた僕に、男の子はただ黙って頷いた。
一度俯いた男の子は、何かを決めたように
すぐに顔を上げ、僕の方を見ながらニカッと笑った。
そうかと思うと、驚いた僕のもとから
走り去り
ホストとキャバ嬢の喧騒の中へ飛び込んでいった。

止めようと右足を踏み出した時、

「ケンカやめてよ、パパ、ママ!」
騒いでいたホストとキャバ嬢は一瞬で動きが止まった。

僕の足もそこで止まっていた。

「僕は6年先の未来から来た、パパとママの子どもだよ、」

信じられなかった。
でも、それが嘘だとも思えなかった。

キャバ嬢が膝から崩れ落ち
さっきとは違った、優しい泣き声を漏らしながら
男の子を抱きしめた。
ホストも、キャバ嬢の肩ごと男の子を抱きしめた。

男の子はキャバ嬢の肩越しに僕を見て
ニカッと笑った。

僕も自然に笑顔になっていたのだろう。

それを見た男の子は、左手を小さく上げ
ピースサインをつくった。

僕もつられるように、右手を上げ
親指と薬指、小指を折り
男の子に届くように目一杯掲げた。

『PEACE』。

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