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イノベーションの創出とダイバーシティ推進(前編)

こんにちは。セプテーニグループnote編集部の宮崎です。

セプテーニグループでは、CSR活動の重点テーマのひとつに「ダイバーシティ&インクルージョン」を掲げ、さまざまな取り組みを行っています。

先日、その取り組みの一環で「イノベーションの創出とダイバーシティ推進」セミナーをオンライン配信にて開催。当社の社外取締役でもある早稲田大学ビジネススクール教授の入山 章栄氏による講演と、当社代表佐藤との対談を実施しました。

今回は、そのイベントレポートの前編として、第1部の入山氏の講演レポートをお届けします。ぜひご覧ください!

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プロフィール:
入山 章栄 氏
早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)教授

1998年慶応義塾大学大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所を経て2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院で博士号(Ph.D.)を取得。同年から米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクールのアシスタント・プロフェッサー(助教授)。2013年に早稲田大学ビジネススクール准教授、2019年4月から現職。専門は経営戦略論および国際経営論。近著に『世界標準の経営理論』(ダイヤモンド社)

コロナ前も後も、本質は変わらない

講演の最初に入山先生が聴講者に伝えてくださったのは、世の中で不確実性がどんどん高まっており、競争がますます激しくなっている、少し前まで安泰だと思っていた業界も大きな変化が訪れている、という内容でした。

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だからこそ、コロナ前も後も、本質的にやるべきことは変わらない、さまざまな業界でどのような変化が起こっているのか、今後どのような変化が起こると想定しているのかなど、具体的な事例を織り交ぜながら話は進みます。

「不確実性が高くて先が見えない時代に現状維持をしていたら、企業は生き残っていけません。少しでもいいから常に変化して、新しいことをやって新しい価値を生む、前に進んでいくことが勝負を分けます。つまりそれがイノベーションなのです。コロナ禍でより不確実性が高まり、ますます変化・イノベーションが重要になっています。」

どうすればイノベーションを起こせるのか

そして話題は、イノベーションを起こす方法に移ります。

根本的に、イノベーションは新しいアイディア・知を生み出すこと。新しい知は、今ある既存の知と、別の既存の知新しい組み合わせによって誕生する。ところが、人間は認知に限界があるので、自分が今認知できる目の前にあるものだけを見て組み合わせてしまう。

また、何十年も同じ業界にいて、新卒一括採用、終身雇用だと、ずっと同じ人に囲まれて、目の前の同じ知を組み合わせていくことになる。何十年もやっていると、やり尽くしてしまう。入山先生は説明を続けます。

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「新しいアイディアが出てきていないなと感じている場合は、目の前の知の組み合わせが終わってしまっている状態だということです。そのような状況だと絶対にイノベーションは生まれないので、目の前の知ではなく、なるべく遠くの知を幅広くたくさん見て、探索して、それを自分が持っている知と新しく組み合わせることが何よりも重要です。これを経営学的にはExploration、僕は知の探索、と呼んでいます。

両利きの経営

遠くを見るのは大事。どんどん遠くを見て、組み合わせられるものは組み合わせて、儲かりそうだと思ったらそこを徹底的に深掘って磨く。この深めることをExploitation、入山先生は知の深化と呼ぶそうです。

知の探索と知の深化が高いレベルでバランスよくできる企業・組織・経営者・ビジネスパーソンはイノベーションを起こせる可能性が高い。世界の経営学ではそうコンセンサスが取れています。そして知の探索と深化を両立させることを英語ではAmbidexterityと言っており、僕は『両利きの経営』という日本語に訳しました。」

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ところが、企業や組織というのはどうしても知の深化の方に偏りがちだといいます。なぜなら、知の探索は実際に実行するのは大変であり、知と知の組み合わせというのは失敗も多いからとのこと。だから効率化を追求し、予算のある会社という組織では、知の深化へ傾く。入山先生は続けます。


「しかし長い目で見ると、中長期的なイノベーションが枯渇します。これから生き抜くうえで不可欠な知の探索をなおざりにしているということなので。これをCompetency Trap、競争力の罠と言います。

今日本でイノベーションが足りないと声高に言われていますが、その根本にあるメカニズムというのは全て共通しています。多くの企業が知の深化に偏り過ぎているためです。なので、知の探索へと促すことが何よりも重要なんです。」

ダイバーシティはイノベーションを起こすために不可欠

では何をすればよいのか、という問いに対して、入山先生が提示してくださったのは組織レベルでの知の探索、でした。

「知の探索というのは、なるべく遠く幅広くいっぱいとってきて知と知を組み合わせることが大事なのですが、ではその知とは誰が持っているのかと言ったら、当然人間ですよね。一人ひとりがそれぞれの知を持っています。

だとしたら、組織レベルで一番手っ取り早い知の探索というのは、なるべくバラバラのひとが同じ組織にいることです。

だからダイバーシティがとても重要なんです。」

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日本ではダイバーシティという言葉ばかりが先行し、なんでやるのかという腹落ち感が弱い、だから日本ではダイバーシティがなかなか進まないと入山先生は警鐘を鳴らします。

経営理論的にはダイバーシティを推進する理由はとても簡単で、ダイバーシティは離れた知と知の組み合わせになり、知の探索になるから。長い目で見たらイノベーションに繋がりやすいから。つまりイノベーションを生み出すにあたって不可欠だからです。グローバル企業がダイバーシティに取り組んでいるのも、イノベーションのためなんです。」

イノベーションを起こすためにはタスク型で多様にすることが重要

そして入山先生はダイバーシティの種類を2つ挙げて話を続けます。

①タスク型のダイバーシティ
目に見えないその人の内面。経験や知見、感覚などが組織で多様化されること。

②デモグラフィー型のダイバーシティ
その人の外見などで見える性別、国籍、年齢などの多様性。

日本では一般的にダイバーシティというとデモグラフィー型を思い浮かべる方が多いものの、経営学の研究では、タスク型のダイバーシティが豊かな会社でイノベーションが生まれやすいという結果が出ているそうです。

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ただ、人間は認知に限界があるので、同じ集団に色んな人がいると人をグループ化して識別する傾向があるため、分断に注意する必要があると入山先生は続けます。

「今の日本の組織は比較的男性が中心なので、そこに多様な知見や経験のある人を入れていったら、結果的に女性や障がい者の方やLGBTの方や外国人の方も増えていくことになります。

ただ放っておくと、多様な人を入れても断層ができてしまう。だからダイバーシティ&インクルージョンの『インクルージョン』の部分として、いかに多様な人たちを受け入れて断層を除いていくか、ということはとても大事です」。

ダイバーシティは一人でもできる

組織ダイバーシティの話に続いて入山先生が紹介してくださった考え方は「イントラパーソナル・ダイバーシティ(個人内多様性)」でした。

「イントラパーソナル・ダイバーシティが高い人は、組織ダイバーシティを受け入れやすいんです。なぜかというと、自分が多様な経験をしているから、多様な知見に対して抵抗がないんですね。これからの時代、個人内多様性を持つことはみなさん一人ひとりにとって重要だし、長い目でみても所属する組織にプラスになります。」

▲イントラパーソナル・ダイバーシティについては、2020年に実施したD&Iワークショップの中でも岡島さんから重要性が説かれていました

そしてイントラパーソナル・ダイバーシティの重要性を考えるにあたって重要なストラクチャル・ホール理論を紹介いただきました。

自分の仕事から離れた興味のあることをガンガンやってほしい

そして入山先生から、これからの時代はH型人材が重要になるとアドバイスをいただきました。H型人材とは、自身の中にある1本の大きな柱に加えて、少し離れたところ、もしくはだいぶ離れたところに、もう1本か2本別の柱をもつ人材のこと。

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「みなさんも1本は柱を持っていると思うので、それ以外にも2本3本と柱をつくっていってほしいです。それがイコール、イントラパーソナル・ダイバーシティや知の探索になります。

じゃあ今の会社を辞めれば良いんですかということではなくて、例えば働き方改革というのはそのためにあると思っています。なんでみなさんこういうことをやりづらいと思っているかというと、忙しいからではないでしょうか。でも幸い今は、コロナ禍で時間が少しできたんじゃないかと思います。ワークライフバランスをとりながら、空いた時間で副業でもボランティアでも趣味でも、自分の仕事から離れた興味のあることをガンガンやってほしいと思います。」

これからの管理職やリーダーにとって大切なのは、管理することではなく、ファシリテート

次にお話いただいたのは、心理的安全性の重要性です。このポイントは、講演後のアンケートでも「特に印象に残った」と多くの聴講者が回答していました。

「多様な人が集まったり、一人の人が多様な経験をもてるようになったりするとどういうことが起きるか。会議が揉めます。これはすごく重要なことです。当たり前ですよね、多様な人がいるんだから、会議が揉めなきゃしょうがない。

逆に言えば、揉めない会議はダイバーシティが無い会議です。そもそもイノベーションなんて会議が揉めないと出てきません。全員賛成のイノベーションなんてありえないので、誰も反対していない時点でそれは全然イノベーティブでないわけです。たまに『誰もが賛成するイノベーションを教えてください』という質問を受けることがあるのですが、そんなものはありません(笑)」

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だからこそ重要なのが心理的安全性なんだと入山先生は話を続けます。多様な人みんなが意見を言い合える企業文化・組織文化がとても大事であり、これからの管理職やリーダーにとって大切なのは、管理することではなく、ファシリテートすること。色んな人から色んな意見が出た場合、自分の考えと違うと思っても、一方的に否定せず、周囲の意見を促すなど、心理的安全性を保つようファシリテートしていくことが重要だと入山先生は説きます。そしてその際に便利な言葉「なるほど!」も紹介いただきました。

正確性より納得性

講演の最後に紹介いただいたのは、センスメイキング理論でした。センスメイキング理論とは、正確性よりも納得性を重視する考え方です。

「活躍なさっている素晴らしい経営者の方々は全員、明確なビジョンを語って腹落ちさせるストーリーテラーなんです。

また、社員一人ひとりのやりたいことと会社のビジョンが揃っている・共感しているのが一番いい状態なので、みなさんも自分はどういう未来を創りたいのか、どういうことをやっていきたいのか、自分の中でも腹落ちさせる事が重要だと思っています。そして言語化してストーリーで語る、ということをやってみるといいと思います。」

▲セプテーニグループでは「個人理念」の共創セッションが定期的に行われています。

後編につづく
(後編では、入山さんと佐藤さんの対談の様子をお届けします。どうぞお楽しみに!)

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