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いかなる花の咲くやらん 第7章第3話「幸せ」

「……。それにしても、ふしぎな人だ。馬の後ろに立たないという皆が知っているようなことを知らないで、皆が知らないようなことを沢山知っている。永遠さんといると、とても楽しい」
「私も楽しいです。十郎様といると、海の波を見ても幸せで、松ぼっくりさえ宝物に見えます」
「松ぼっくりが宝物ですか。それなら大磯から曽我まで拾って歩いたら、すごいことになりますね。ああ、では面白いものを作りましょう」
そういうと、十郎は懐の小刀を出して、落ちていた枝と松ぼっくりで何やら作り始めた。
「さあ、できました」
十郎が差し出したのは、松ぼっくりとで作ったやじろべえだった。松ぼっくりは、組み合わされて翼を広げ。尾の長い見事な鳳凰になっていて、左右にどんぐりが付いていた。
「すごい。器用なんですね」
「小さいころから、こういった細かい細工が好きでした。五郎によく作ってあげたものです」
「まあ、五郎さんは喜ばれたでしょうね。良いお兄さんだこと」
「五郎も真似をして作ろうとしましたが、五郎は力が余ってどんぐりも松ぼっくりもすぐに割ってしまう。そこで、やじろべえを置く台を作ると言って、岩を割っておりました。どうも細かい作業が苦手みたいで、それから五郎は『こういうことは兄上に任せる。俺は力持ちになる』といっそう鍛錬していました。今では五郎に叶う力持ちはおりますまい」
「兄弟でも、得意なことが違うのですね。そう言えば亀若ちゃんと五郎さんの出会いは、五郎さんがくるみを割ってくれたことらしいですよ」
「そうなんですか。五郎らしい出会いですね」
十郎はやじろべえに小刀で笑顔を書いて、永遠に手渡した。
「まあ、可愛い。ありがとうございます。笑ってる。大切にしますね」
「そうだ。手紙を書いてきたのです。毎日会いたいけれど、会えない日もある。そんなときもずっと永遠さんのことを考えてしまう。同じ思いがぐるぐるして、永遠さんが頭から離れない。そんな気持ちを手紙に書くと、頭がスッキリしてやるべきことが出来るようになります。永遠さんと離れているときの私の気持ちを全部したためてあります。」
「うれしいです。私も一人の時も十郎様のことを思っております。会えないときはとても寂しいです。このお手紙があれば、会えない寂しさも、故郷を離れた心細さも紛らわせることが出来ますね」
二人の心は幸せに満ちていた。

次回第7章第3.1話「十郎、賊に襲われる」に続く

第1話はこちらから。


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