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いかなる花の咲くやらん 第5章第5話 永遠 滑落


和香はこの間にスニーカーに履き替えた。神事の間は草履だが、山歩きの時は歩きやすいスニーカーにしている。
神輿が動き始めた。広場から降り始めは整えられた石の階段が百九十段ほどある。その先は細い山道をひたすら下って行く。帰りは綱はなく担ぎ手にすべての重さがのしかかる。足元は乾いている所は表面の土が流れて滑る。湿っている所はぬるぬると滑る。
「あれ、永遠ちゃん、草履のままだよ。この道、草履じゃ危ないよ。
「あー何やっているんだろう私は。もう、お御輿動きだしてしまったから、お御輿の前に行って、少し下のベンチのところで履き替える。先にいくね」
「えー、駄目だよ。神輿の前に行っちゃ。あぶないよ」
(なんか変だな。いつもの永遠ちゃんなら履き替え忘れなんてしないし、神輿の先に行くなんて無茶なこと、絶対しないのに。あれ、あれは何だろう。永遠ちゃんの肩に黒い丸い物が乗っている。)
「あー、もう神輿が来ちゃった。ベンチまで行くのは間に合わない。そこの曲がり角の右側に少し広いところがあるから、あそこに避難しよう」
永遠が曲がり角で右に行こうとしたところで左の角にある大きな木の枝がシュッと伸びてきてとうせんぼうをされた。
(え、何?枝が動いた。嫌だ。右に行かれなかった。邪魔になっちゃう。今ならまだあちらに行かれるかな。)
永遠が慌てて曲がり道の右側に移動しようとしたときに足が滑った。
永遠は斜面を滑り落ちてしまった。
「あ、永遠―」和香の声が山間に響いた。
その時、座布団ほどの黒い石が現れ、永遠を乗せて、木々の間から覗く青空に吸い込まれるように消えていく。
和香は、石で運ばれていく永遠と、崖の下で横たわる永遠を、同時に見た。
(さっき、永遠ちゃんの肩に乗っていた黒い物?一瞬木の枝に飛んだよね。そして、永遠ちゃんを連れて行った?いえいえ、永遠ちゃんは下に落っこちているんだから、気のせいかな。)
「永遠ちゃーん、大丈夫ー?」

次回  第6章第1話 山下長者屋敷 に続く

 


妖木?
高麗山には色々な登山道があり、高麗神社からは男坂と女坂がある。
祭りの際は登りに男坂、下りに女坂を使っている          著者撮影

第1話はこちらから


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