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自分らしく生きるために、目の前のことをひとつずつ。天真爛漫なヴァイオリニストが目指すのは“ミュージシャン”!

プロオーケストラのコンサートマスターや、国際的に活躍する指揮者によるオーケストラ指導を受けられるだけでなく、著名な音楽家と共演する機会にも恵まれている、洗足学園音楽大学弦楽器コース

オーケストラの勉強をはじめ、ソリストとしての活躍を目指す学生にも合った幅広いカリキュラムが用意されています。選択した内容によってはオーケストラの授業を履修せずとも卒業できるため、どんな4年間を過ごすかは人それぞれ! 自分に合った授業を選択できる自由度の高さが、非常に魅力的なコースです。

今回お話を伺ったのは、弦楽器コースの卒業生である松本 志絃音(まつもと しおん)さん。壮絶な受験期を経て洗足へ入学し、在学中にはヴァイオリニスト・高嶋ちさ子さん率いる「12人のヴァイオリニスト」の研修生に合格。学内外の活動で多忙だった学生時代から、現在に至るまでのお話を伺いました。

松本 志絃音(まつもと しおん)
2021年度、学部を首席で卒業。
第20回日本演奏家コンクール弦楽器部門 大学生の部第2位、合わせて横浜市長賞。
第36回全日本ジュニアクラシック音楽コンクール弦楽器部門大学生の部第1位。
第26回KOBE国際音楽コンクール弦楽器部門C部門優秀賞。
在学中、学内コンサート『コンツェルトの夕べ』オーディションに合格し、ソリストとして現田茂夫氏と共演。第11回音楽大学フェスティバルオーケストラにてコンミスを務める。
これまでにヴァイオリンを澤和樹、曽我部千恵子、沼田園子、和波孝禧の各氏に師事。
ヴィオラを古川原裕仁、室内楽を大野かおる、安永徹・市野あゆみの各氏に師事。
現在、フリーのヴァイオリニストとして活動。

兄の影響で始めたヴァイオリン

――まず最初に、ヴァイオリンを始めたきっかけを教えてください。

兄がピアノとヴァイオリンを習っていたので、真似する形で私も4歳の頃にヴァイオリンを始めました。その頃はとにかくなんでも真似したい時期で、ビブラートのマネをして遊んでいたことも覚えています。

それに両親はとにかく音楽が好きだったので、家にピアノもありましたし、音楽が身近にある環境で育ちました。
私は全く覚えてないんですけど、生まれたばかりの私にヘッドホンを掛けて、賛美歌を流していたこともあったそうです……。ちょっと怖いんですけど(笑)。

――音楽が身近な環境で幼少期を過ごされたのですね。

賛美歌を聴いてた頃はさすがに新生児すぎて記憶に残っていないのですが、家で《魔笛》が流れていたことはずっと覚えています。思い出にも残っていますし、今もずっと好きですね。

そうして気づけば音楽が好きになっていて、いつの間にかヴァイオリンを弾くことが習慣にはなっていました。でも、小さい頃からプロの演奏家になりたい!と強く思っていたわけではなくて、ただ楽しかったから弾いていたような感じです。

単位制の高校で練習と勉強を両立

――音大に入る前は、音楽系の高校に通われていたのでしょうか。

実は普通科の高校に行っているイメージが沸かなかったこともあり、単位制の高校に通っていました。
1年生のときは週4回だけ通って、自分が好きな教科と必修科目を受講しており、感覚的には大学とほぼ変わらなかった気がします。
あくまで高卒の資格をとるために科目を履修していたので、音楽とは関係ない授業がほとんどでした。

私、めちゃくちゃアホで(笑)。
本当は音高も受験したんですけど、勉強の方で見事に落ちてしまって……。普通科の高校だと勉強に絶対ついていけないな!って思ってたし、そもそも勉強が大ッ嫌いだったので、どうしようって思っていました。
そんなときに、周りの家族や先生方がこんな高校もあるよ〜って探してくれたおかげもあって、無事に進路先が決まったんです。

単位制の高校があること自体詳しく知らなかったのですが、普通科の高校と比べて高い自由度で学校に通えるため、自分のペースで練習と勉強を両立できたことは本当によかったと感じています。

実技ではなく、センター試験で2度落ちた藝大受験

――高校入学時点で、音大に行くことも既に決めていたのでしょうか。

私が中学2年生のとき、兄が藝大に合格したんです。それで私も憧れて藝大を目指してみたい!と思い始めたので、高校入学時点では気持ちが固まっていました。高校に入ってから藝大の先生を紹介していただいて、月1~2回ほどレッスンに通っていたのですが、結果は不合格で……。
ちなみに藝大はセンター試験で落ちました!(笑)。

――ええ、じゃあ実技は合格していたと!

一番最後の試験まで通ると、何がダメだったがわかるよう成績開示が行われるんですね。それを見てみたら、実技はよかったんですけど国語・英語、どちらもダメでした。これが受験初年度の話です。

そして、一浪した後に再び藝大にチャレンジしました。浪人時代には個別指導の塾に行って英語を重点的に習っていたため、英語は大丈夫だったのですが国語がイマイチで……。

センター試験直後の自己採点を行った時点で「あ、もうこれ落ちるやつや!」って家族全員が気づいて焦りましたが、そのまま藝大を受けることに決めました。
そうして2回目も最後の試験まで通ったのですが、案の定国語の点数が足りなかったことを成績開示で知ったわけです。

――それは悔しい結果でしたね……。

なんかもうそのときは笑うしかなくて、先生もあきれ笑いというか(笑)。
ある意味、音高のときと似たような結果になってしまったんですよね。なので、勉強は大事だなぁと身を持って感じました。
あのときの先生の顔、忘れられません……、人並みに勉強はするべきだったと反省しています。
やはり2浪するのはしんどかったので、先生が勤められていた洗足をそのタイミングで勧めていただき、一般入試で受験した後、無事に進路が決まりました。

世界が広がった洗足時代

――洗足に入ってからは、どのような学生生活を送っていましたか。

洗足はほとんどの授業を自由に選択して履修できるので、絶対この4年間モノにしてやろう!と思って入学しました(笑)。

オーケストラの授業はもちろん、音楽史やソルフェージュ、あとは即興演奏講座も履修していました。特にオーケストラの授業は授業外の臨時練習も頻繁に行われていて、忙しくもありましたが、多くの学びを得られたと感じています。

洗足って、とにかく年間で実施される演奏会の回数が多いんですよね。
元々地元のオーケストラに所属していたこともあったので、オーケストラ自体好きではありましたが、洗足に入ってオーケストラの本番に乗る機会が圧倒的に増えたことで、よりオーケストラへの興味が湧いたように感じます。それにコースの数も多いので、他コースの友人からの依頼でポップス系のストリングス演奏をする機会もあり、クラシック以外にもさまざまな音楽の世界があることを肌で感じられました。

また、素晴らしい先生方に間近でご指導いただき、一緒に演奏させていただける機会も多い点は洗足の魅力だと感じています。レッスンのときに対面でご指導いただく内容はもちろんですが、本番で先生方が演奏される姿や音は何より勉強になりました。

――コースによっては先生と一緒に演奏会に出演する機会は少ないかと思いますが、弦楽器コースの授業だとそのような機会も多いんですね。

ポップスの録音やアーティストのサポート演奏を行っている先生方もいらっしゃるので、レッスンのときに現場でのお話を聴かせていただいたことも、大きな勉強になったと感じています。洗足に入学して、そんな先生方やいろんなコースの友人と接する中で、これから楽しいことがたくさん待っているんだな〜って期待が膨らんでいったことを覚えています。

「12人のヴァイオリニスト」の研修生に

――卒業後に向けて、進路が具体的になってきたのはいつ頃でしょうか。

大学3年生の後半、いよいよ最高学年になるんだ……と思ったときにものすごく不安になりました。進学する予定もなかったので、卒業したら社会人になるんだって。
それで悩んでいたときに、高嶋ちさ子さんの「12人のヴァイオリニスト」の募集をたまたま見かけたんです。悩みつつも、音楽でやっぱり食べていきたい!と考えていた時期だったので、まずは申し込んでオーディションを受けたところ、大学4年生の4月に研修生として合格したとのご連絡をいただきました。とても嬉しかったです。

――おめでとうございます! 研修生としての活動内容、お聞きしたいです。

「12人のヴァイオリニスト」は9月からツアーが始まるんですけど、最近は特に新型コロナの影響によってメンバーが急遽出演できなくなる可能性もあったため、いつでも出られるように準備はしておいて……とは言われていて。
研修生なので出演する機会は多くなかったのですが、リハーサルには何度か参加させていただいたり、昨年10月には大阪城で行われた公演に出演させていただいたこともありました。
もともと学業を優先するようにも言われていたため、さまざまなコンクールを受けたり学内オーケストラの本番にも出演しながら活動していました。

――研修生の活動と、学内の本番。なかなかハードなスケジュールだったのでは。

そうですね。ただ、やはりこの楽団には本当に素晴らしい12人の方々がいらっしゃるので、公演に出演する機会は多くありませんでした。
そうして4年生として学生最後の1年が過ぎていく中で、自分の将来のこととか、やりたいこととか、多くのことに考えを巡らせて頭がパンクしそうになったこともあり……。

そんな大学4年生の冬、洗足のマスターオーケストラ宛にウィーンフィルのリハーサル見学のご招待があったんです。生でウィーンフィルの音を聴いたときに、それがもうあまりに素晴らしくて、「こんな音色あるんか!」って思わず声に出ちゃって(笑)。

「12人のヴァイオリニスト」での経験や、ウィーンフィルの音を間近で体感したこと。それらによって私自身の力不足を痛感し、まだまだ今のうちにいろんな勉強をしたい!と思う気持ちが強くなり始めました。

――素晴らしい環境に身を置いたからこそ、感じられた部分だったのですね。多くの葛藤もあったかと思います。

研修生として活動をご一緒させていただく中で、私自身の将来についてもすごく考えました。もちろんできることなら皆さんと一緒に今後も演奏させていただけたらと思っていたのですが、私自身もっといろんな人と会って、いろんな音楽を弾いて、聴いて、もっともっとパワーアップしたい気持ちもあり……。何度も考えて、最終的には辞退させていただくことにしました。

とても大きなお仕事で、本当に素晴らしい皆さんだからこそ、中途半端な気持ちで参加するべきではないと感じ、この決断に至りました。研修生の身ではありましたが、「12人のヴァイオリニスト」の一員として過ごさせていただいた期間は、私にとって宝物です。

ヴァイオリニストから、ミュージシャンへ

――今年の3月に洗足を卒業し、現在はどのような活動をしていますか。今後の展望についても聴かせてください。

現在は洗足の演奏補助要員に登録しているため、卒業後も学内の公演に出演しています。また、最近ではプロオーケストラの演奏会に出演する機会もいただけており、現場での経験を積みつつ多くのことを学んでいる最中です。

エレカシ(エレファントカシマシ)の大ファンである松本さん。「いつかサポートメンバーとして参加させていただけるよう頑張りたいです!」

留学をしてみたいとか、ポップスの現場でも演奏してみたいとか……、やってみたいことはたくさんありますが、私は最終的に“ヴァイオリニスト”から“ミュージシャン”になりたいと思っています。ちょっと説明難しいんですけど(笑)。

たとえば音楽を聴いてると、曲のよさはもちろん「この人のベースがいい!」とか「このギターがいい!」とか、さまざまな音の出会いがありますよね。なので、ただヴァイオリンを弾く人というよりも「この人の音、なんかいいな」って言ってもらえるような存在と言うのでしょうか。そんな音楽そのものの自由さをリアルに感じて、表現できる人でありたいと感じています。

自分らしく生きるためにできることはなんだろうって考えて、ひとつずつ行動に移していく。大変なことも多いし、息が詰まりそうになることもあるけれど、これからも「一途一心」をモットーに演奏し続けたいです!

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Text and Photographed by 門岡 明弥

▶▶洗足学園音楽大学:https://www.senzoku.ac.jp/music/

▶▶洗足学園音楽大学(Twitter):https://twitter.com/senzokuondai