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兵士の出征や凱旋には付き物だった様子の落雁の菓子型ー職人技が光ります

 兵隊として召集令状を受け取ると、出発までに関係者が見送りの宴を開くことや、戦闘からの帰還したらしたで活躍を祝うことが、物資の枯渇する日中戦争の後半や太平洋戦争突入までには普通に行われ、当時は貴重な砂糖をふんだんに使う「落雁」が引き出物として出されることも多かったことが、残された菓子の木型から見えてきます。
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 下写真は、文字通り「出征」を祝う大きな落雁の木型です。このように大きなものは祝いの席で出され、皆で分けたか、しばらく飾って出征者と家族が食べるかしたのではないでしょうか。

「祝」「出征」の文字が目立ちます

 こちらの型は「出征」の文字が後ろの穴から押し出して外せるようになっていました。比較的大型で手が込んだ彫り物ですから元手がかかっている様子であり、出征以外にも婚礼など、さまざまな場面で使い分けられるようにしたのでしょう。

外せる出征の部分
「出征」の文字を押し出せる穴がありました。

 出征に合わせたものとしては、「武運長久」の木型もありました。こちらは、大型のもので、周囲に枠を付けて利用したものです。

出征の祝いの場に出たとみられる「武運長久」

 同じ「武運長久」でも、こちらは小さい粒をたくさん作る羽子板程度の大きさの型です。これだと、祝いの出席者が持ち帰るように作られたとも、出征兵士の家への使い物で使われたとも考えられます。この木型は、長野県菓子工連がまとめて注文を受け付けて発注した物で、時世が悪かったのか、デッドストックになったようです。

「武運長久」が一文字ずつ3組作れる木型
「長野県菓子工連」のラベルが貼られたままの未使用品

 戦闘を終え、無事帰ってきた兵隊を迎える祝いの席で用意されたか、関係者に配られたか、そんな場合のために作られたのが表題写真と下写真の「凱旋」木型です。「凱旋」は、戦いに勝って帰ってきたのを表す言葉なので、実際に戦地に出向いた人を迎える場合のものです。こちらは、長野市の古道具屋さんでみつけた落雁用の木型で、長野県の飯山地方あたりの菓子店で使ったとみられます。

左が「凱」、右が「旋」で2個1組の木型

 下の木型に上の木型を重ねて厚みを出し、材料を練り込んで落雁にしたのでしょう。文字は「凱」と「旋」で、2個で1組となっていて、陸軍の象徴の星型と組み合わせたデザインにしてあります。

「凱」の文字がくっきり。
こちらは「旋」

 2個1組ですから、おそらく紅白で作って配ったのではないでしょうか。しっかりと厚みのある落雁に、帰ってきてよかったという思いがこもっているように思えます。
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 最近は、こうした木型をつくる職人さんも少なくなっているといい、そういう意味でも貴重かもしれません。中の人は幼少のころ、大きな鯛のカラフルな落雁を何かのお祝いにもらい、少しずつ切り取って食べたのを覚えています。外側はすこしぱさつく白いものに彩色してあり、内側は焼き菓子のあんこのような雰囲気で、おいしかったのを覚えています。
 出征、凱旋の落雁は、実際、どんなものだったでしょうか。木型からは、この場のために力を入れた職人や送る人、送られる人たちの思いがこもっていることが感じられるようです。
 一方で、凱旋した兵隊はともかく、「出征」する側の本人や家族の思いはどうだったのでしょうか。建て前ではなく、本当の思いを聞き取りたかったと思うのです。

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