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「日本ヨイクニ 神ノクニ」であることを説明し、万世一系の天皇を示した掛け軸ー権威付けの方法はさまざま

 「暴支膺懲」の掛け声で始めたものの、先が見えなくなった日中戦争。それでも戦争の成果を上げないと、これまでの犠牲や国費の消費について国民に顔向けできないので、何とか事態を打開すべく、軍と政府は、英米から蒋介石への物資援助ルート切断を狙った北部仏印(インドシナ半島)への進駐を1940(昭和15)年9月に、さらに日中戦争遂行のために南方の物資獲得を狙った南部仏印進駐を1941(昭和16)年7月に行いました。
 しかし、米国は北部進駐で屑鉄を、南部進駐で石油をそれぞれ禁輸、オランダも同調してかえって日本は資源の面からおいこまれ、米国と交渉しつつ「ABCD包囲陣」と称して、世界に日本が押さえつけられているーとする宣伝を広め、急速に対米英蘭戦争に傾斜していきます。
 表題写真と下の写真は、ちょうどそんな危機感が煽られた時期、1941年10月15日に財団法人修養団が発行した「世界興亡図譜」です。2メートル近い立派な軸です。

中央に大日本帝国、そして神代から続く天皇の系譜を載せました

 中心に大日本帝国、周囲に世界の国々を配置し、紀元前4000年から現代までの年代を縦軸に、各国の変遷を描いたものです。日本は、神話の時代からきちんと表記しています。

神から神武天皇へ
中国の歴史も丁寧に記入
神武天皇のころには古代ローマ帝国もありました

 中国や4大文明など、丁寧に記入してありますが、日本がまだ神話の時代に、既に古代バビロニアには文字があり、神武天皇のころの中国は春秋戦国時代かーと関心するためのものではありません。いかに「万世一系の天皇」が治める日本が揺るがず続いてきたかを示すのが狙いです。魏志倭人伝の記載や邪馬台国とか、ガン無視です。

 政権ではなく「天皇」を軸とし、しかも天皇が神の子孫という形で、日本は世界で唯一の神の国と示し、世界はうつり変われども神の国だからこそ、日本は不変ーという感じにしたいのでしょう。

南北朝時代を「吉野時代」とし、後醍醐天皇が唯一の正当と。

 また、忠臣楠木正成を持ち上げるためか、南北朝時代をしれっと「吉野時代」とし、後醍醐天皇が、唯一の正当の系譜であるとごまかして、北朝方に吸収されて後小松天皇に合一した史実は無視されています。光嚴天皇など北朝側は光嚴院などとごまかされていますね。
 当時は、そのように教育してきたので、南北朝時代のキーマンである足利尊氏の研究はタブーでした。
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 日本の神話の国産みが、あくまで日本だけを作ったとするのは、神が世界を作ったとする各地の神話と異なる点です。既に各地に国家や文明ができていたころに神代だというのが現実ですし、また、天皇の権威をつけるため、神がつくったのは日本だけとしたかったのでしょうか。
 こちらの掛け軸は、大政翼賛会推薦となっています。天皇を頂点として神輿に据えることで国民を引っ張っていくには、このようなものも有効だったのでしょう。

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