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米陸軍製作の爆撃用地図の精密さに、総力戦の実力の違いを感じる

 米国陸軍が1945年に製作した「戦争用ー民間非売品」の縮尺100万分の1の日本地図を1枚、収蔵しています。朝鮮半島も含め、4種類作られたうちの本州中央部に当たる部分です。100万分の1とはいえ、ここまで納めると縦110センチ、横70センチの大きさ。陸軍が製作し海軍でも使えたものですが、主には重爆用で、艦載機のためには航空母艦で説明用に使ったでしょう。

本州の東半分が収まった地図
収蔵しているのは「2」の地図

 陰影法で描かれた地図は、ちょうど太陽が西に傾いてきたころの影に合わせて立体的に見えるように作られています。富士山がひときわ目立ち、米軍機が富士山を目標として飛んで来て、各地に散らばっていったという話もうなづけます。

富士山がきれいに浮かび、稜線も丁寧に表現

 東京を中心とした関東地方もこんな感じで、関東平野がよく分かります。そして東京と。

関東平野がくっきり
東京と周辺の主要都市名、交通網が細かく入っています

 この地図には長野県も含まれています。まず、長野市付近の図。松代町、上田市もきちんと記されています。

上田電鉄の路線もかなり詳しい

 そして松本市付近。諏訪湖など、湖の形状はかなり正確で、上空からの目標として精密に描いたようです。また、道路の幅が細かく分けて描かれている点にご注目ください。

松本市や諏訪湖周辺

 こちら、地図に載っていた凡例です。驚くなかれ、車線数や幅員、舗装の状況などで道路を描きわけていたのです。

地図凡例。道路は6種類、線路は3種類

 道路は、下から「小道か山道」「道路で復員2-4メートル」「県道、普通は砂利舗装で復員4メートル以上」「国道、全天候型の幹線道路で復員4メートル以上」など、実に細かい。これは国内の地図として使っても優れもの。爆撃目標として幹線道路を見分けるのも重要なポイントだったのでしょう。これだけのものを戦時下、作り上げるには、かなりの情報収集能力と航空写真解析など、さまざまなプロが力を合わせないとできない仕事です。これを1945年に完成させる総力戦の能力は、やはりけた違いだったと実感できます。

1945年製作

 戦争は数の戦いかもしれませんが、力を有効に発揮するのはそれだけではない。基礎的な力とそのマネジメントがいかに大切か。当時の日本だけでなく、今の日本政府、日本企業・団体に、どこまでその意識があるか。学べることは多いのではないでしょうか。

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