”子どもたちの遊び場” 学校では見えない放課後の遊びと子どもたちの成長を考える
みなさんは子どもの頃、放課後どこで、なにをしていましたか?
私は、近くの公園で友達と遊んでいました。サッカーや野球、キックベースなどをしていました。
最近では、外でそうして運動したりして遊ぶことは減って、スイッチなどの家庭用ゲーム機やパソコンでオンラインで遊ぶ時代かもしれません。
子どもが外で遊ぶ文化というものが、かなりマイナーな時代を私たちは見ているのかもしれません。
こうした子どもたちの行動の変化や、その背景にある生活環境、あるいは心理的な変化を探ることで、教育学の観点からも、大きな学びが得られるかもしれません。
子どもたちの昔ながらの遊び文化が失われていく中、外でたくさん遊んでいた経験のある人たちを巻き込みながら、外で遊ぶということ、あるいは少なくとも昭和〜平成後期ぐらいまでの子どもたちは放課後どのようにして遊んでいたのか、今回は考えていきたいと思います!
1.子どもたちは、どこで遊んでいるのか(地方小都市の例)
まずは、薬袋, 堀部(2008) 『地方小都市における子供の遊び場 -福井県勝山市の小学校別平日の放課後の実態- 』について一緒に触れていきましょう。
私自身も田舎出身なので、地方小都市というフレーズに惹かれて読み始めました。正直、私は都会の子どもたちがどのように遊んでいたのか、あまり具体的なイメージがありません。
都会の子は塾に小さいころから行っているのかなーとなんとなく思ってきましたが、塾や習い事が(田舎であるためにそもそも)あまりない土地では、なんにもないような場所に遊びの場が生まれるという印象というか、感覚があります。
では、実際この論文の舞台である福井県勝山市はどのような遊び場が作られていたのでしょうか。
まずは、図②をご覧ください。筆者は勝山市を密集地域と集落地域の2つに分けて分析したようです。
まず、密集地では、3つの調査地点で共通して、公園での遊び場づくりが観察されています。適度に行政の手が入った結果、空き地ではなく、住宅地と公園というように土地利用が分化され、子どもたちは公園で遊ぶ、という結果になったのではと思いました。
次に、集落地域を見てみましょう。児童センターが断トツですね。私は公民館での地域コミュニティ形成に関心があるのですが、恐らくこの地域での児童センターというのは子どもたちの遊び場としてよく利用されていて、子どもたちにとって居心地の良い環境になっているのだろうなと思います。
※勝山市の人口は、2000年時点で2万8000人ほど(勝山市HPより)で、また人口は減少傾向にあるので、密集地域と言っても、政令指定都市や、県庁所在地の人口密集地のイメージとは少し違ったものになります。
(下は勝山市役所のグーグルストリートビューです)
そして、小学校も放課後の遊び場になっています。学校を放課後子どもたちの遊び場とすることは、学校運営上少し難しい所があると思います。例えば、放課後子どもたちが学校の敷地内で怪我等をしたとき、誰が安全管理上責任をとるのか、という議論です。
小学校が遊び場になることは子どもたちから見れば、便利で、分かりやすいですが、教員が放課後(子どもたちを家に帰したという体の後)子どもたちの安全を確保する義務があるのか(部活とかは今除いて考えていますが)という点は、教員側からしたらしんどい話のように思います。
こういった話以外にも色々面白いデータがたくさんありますので、どんどん見ていってください!
2.子どもの遊びの変遷
少し歴史についても学びましょう。中村ほか(2000)『子どもの遊びの変遷と今日的課題』を利用してみます。
この図から分かるように、今の30代から、今(調査時の)の子どもたちとの間で、一瞬にして遊びが「外」から「内・家」に変化したのが分かります。男女ともに、一位がテレビゲームになっていて、丁度1996年には任天堂64、2000年にはプレステ2が発売されています。しかし、遊びの場が家、しかもテレビ画面と言うのは、すこし不健全な気もします。子どもたちの健康は大丈夫なのでしょうか。リングフィットアドベンチャーでも、しましょうかね…
論文では、このように述べられています。
異年齢集団と言うのは、これがゲーム機の登場で無くなりつつあるのを勘案して考察すると、
地域にある遊び場に使える場所は限られている→異年齢関係なくルールを作って同じ場所で遊ぶ
というスタイルが、
誰かの家のゲーム機でクラスの同級生と数人で遊ぶ(遊べる場所が増え、場所を異年齢で共有する必要が減った)
という変化に飲み込まれてしまったのではないでしょうか。
確かに、同世代、同年齢の方が話も合うし、楽しいとは思いますが、私は、子どもたちの異年齢活動に基づく発達を研究し、自分自身も異年齢キャンプなどを体験している身なので、それだけでは、社会に出たときに必要とされてきた人間性を全て育ちきることはできないのでは?と疑問に思い、十分に育ちにくい環境になっているのではないかなと心配してしまいます。
つまり、据え置き型のゲーム機の発明は功罪あるのかもしれませんね(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾
【補足】
「外」での子どもの遊びについてさらに興味のある方は、
『昭和期における児童の遊びの変遷について-経験率のランキングよりー 馬場 桂一郎(大坂信愛女学院短期大学) 1996』も参考になさるとよいと思います。懐かしいな~と思う遊びが書いてあるかもしれません(私は平成生まれなので、ふ~ん、そうなんだって思ってます(^^♪)
そして、福井県での調査をご紹介しましたが、今度は岡山県での調査で、子どもたちの遊び・学外活動と子どもたちのQOL(Quality of Life)について研究されている論文があります。
3.放課後の遊びとQOL
海野ほか(2020)『子どもの遊び・学外活動とQOLの関係に関する研究』土木学会論文集です。
この論文からはは、この表を引用させてもらいました。2020年の調査ですから、最近の子どもたちの姿が現れていると考えて良いと思います。
先ほど、ビデオゲームの子どもたちの影響についてつい悲観的に述べましたが、ゲームと答えた子は多いですね、135人居ます。(n = 372)
そして、その子たちのQOLは10.4%!
ボール遊びや鬼ごっこ・かくれんぼが30%以上なのに対して、低く出ていますね。他にもテレビ・DVDは17.8%など、赤字が目に入ります。
一緒に遊ぶ人数にも着目しましょう。人数は、多いとQOLが高いようです。やっぱり、みんなで遊ぶと楽しいですね。
さあ、遊ぶ場所ですが、公園や小学校でQOLが高いです。これが直接要因なのか、外だから鬼ごっこなどをするので、疑似相関的にQOLが高くなっているのかはよく分かりませんが、ともかく外で遊ぶ「子どもは風の子、元気な子」というのは割にあるかもしれません。
さて、この論文のフィールドは、岡山県の典型的なベットタウンと郊外で行われたようですが、さらに都市・都会での子どもたちの学びについても議論していきましょう。
4.都市の中の遊び場
小玉 知慶 *· 柳井 重人*『首都圏近郊都市における「子どもの遊び場」整備に係る制度運用の実態と課題』日本都市計画学会論文集 2023.10 です。
対象となった地域の特性は以下の通りです。
とあります。
※「既成市街地とは、首都圏整備法によって規定された区域で、『東京都 23 区、武蔵野市の全域、 三鷹市、横浜市、川崎市、川口市の一部』が区域とされています。」【川崎市 首都圏整備法に規定する既成市街地について(参考資料)】より引用
私がまず着目したのは、この表6です。首都圏整備法に基づいて整備された「遊び場」がどのように機能しているのか、その実際を評価した図ですが、子どもの遊び場として有効に活用されているようです! その他にも、年齢を問わず様々な利用のされ方があるようで、この法律によって沢山の人にとっての憩いの場は首都圏で確保されていると言えるでしょう。
日本の東京を中心とした都市圏は、子どもたちが外で遊ぶための環境の配慮は行われているといってもよいのではないでしょうか。
都市計画を専門にされている方々が書かれた論文なので、そこでの子どもたちの具体的な姿は完全には伺い知ることはできませんが、教育と言うのは、学校の先生だけではなくて、色々な分野と繋がるなと、感じた論文でした。
5.まとめ
それでは、今回の記事の総論として、『子どもの遊びに供される地域空間に関する研究』佐藤丘, 中村攻,造園雑誌, 1985-1986, 49 巻, 5 号, p. 245-250 を読んで、今回の議論をまとめてみたいと思います。
まず、1985年当時の千葉県松戸市の常盤線松戸駅と江戸川にはさまれた住商混合地域のとある校区において、このような特徴が見られたと報告しています。
私が特に気になったのは②で、異年齢で遊んでいるから通年化しているのかとも思いつつ、夏以外は特に季節の変化に合わせた遊びが少ないということで、せっかく日本の子どもでも、自然離れしているのかなと思いました。
また、主な遊び場所としては
①公園②道路③庭/社宅庭④河川⑤空き地⑥寺社⑦校庭⑧駐車場
の8つを挙げています。河川や空き地で遊ぶことは、この当時に比べれば今は行っている子どもは少ないと思いますが、公共空間がどのように使われるか、という視点が重要であるように感じました。
公共の空間は、誰もが使える場所ですから、もちろん子どもだけの場所ではありません。しかし、子どもがある程度好きなように使えるように、大人側が配慮しないと、子どもたちは少し窮屈な思いをするのかもしれませんね。
はい、では、このようにして、今回は放課後の子どもたちの様子、それも特に遊びについて考えてきましたが、どうですか?
学校教育というと、まずは教室における子どもたちの変化について考えがちですが、学校にいる時間は一日の内の半分にも満たしません。
放課後も子どもたちはいろいろな人と出会いながら、どんどん成長しています。
この時間、児童はなにをしているかな?と少し思いを馳せてみることで、なにかまた新しい発見があるかもしれませんね。
それでは、ありがとうございました!
6.【文献リスト】
①薬袋 奈美子, 堀部 修一, 地方小都市における子供の遊び場, 日本建築学会技術報告集, 2008, 14 巻, 27 号, p. 271-274, 公開日 2009/02/13, Online ISSN 1881-8188, Print ISSN 1341-9463, https://doi.org/10.3130/aijt.14.271, https://www.jstage.jst.go.jp/article/aijt/14/27/14_27_271/_article/-char/ja
②中村 和彦, 植屋 清見, 坂下 昇次, 稲葉 淳, 宮丸 凱史, 浅川 和美, 秋山 由里, 078G20305 子どもの遊びの変遷と今日的課題, 日本体育学会大会号, 2000, 51 巻, 第51回(2000), p. 321-, 公開日 2017/08/25, Online ISSN 2433-0183, https://doi.org/10.20693/jspeconf.51.0_321, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspeconf/51/0/51_321/_article/-char/ja
③馬場 桂一郎, 021C04 昭和期における児童の遊びの変遷について : 経験率のランキングより, 日本体育学会大会号, 1989, 40A 巻, 第40回(1989), p. 126-, 公開日 2017/08/25, Online ISSN 2433-0183, https://doi.org/10.20693/jspeconf.40A.0_126, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspeconf/40A/0/40A_126/_article/-char/ja
④海野 遥香, 三輪 倖代, 橋本 成仁, 子どもの遊び・学外活動とQOLの関係に関する研究, 土木学会論文集D3(土木計画学), 2019, 75 巻, 6 号, p. I_425-I_431, 公開日 2020/04/08, Online ISSN 2185-6540, https://doi.org/10.2208/jscejipm.75.6_I_425, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscejipm/75/6/75_I_425/_article/-char/ja
⑤小玉 知慶, 柳井 重人, 首都圏近郊都市における「子どもの遊び場」整備に係る制度運用の実態と課題, 都市計画論文集, 2023, 58 巻, 3 号, p. 1478-1484, 公開日 2023/10/25, Online ISSN 2185-0593, Print ISSN 0916-0647, https://doi.org/10.11361/journalcpij.58.1478, https://www.jstage.jst.go.jp/article/journalcpij/58/3/58_1478/_article/-char/ja
⑥佐藤 丘, 中村 攻, 子どもの遊びに供される地域空間に関する研究, 造園雑誌, 1985-1986, 49 巻, 5 号, p. 245-250, 公開日 2011/07/19, Online ISSN 2185-3053, Print ISSN 0387-7248, https://doi.org/10.5632/jila1934.49.5_245,
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