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生徒も先生も、やりたいことができる学校。Only Oneを尊重するOnly Oneな先生に

東京都・北区に校舎を構える聖学院中学校・高等学校。同校はキリスト教精神に根ざした中高一貫教育を行う私立の男子校です。探究型教育やグローバル教育、STEAM教育など、教育のトレンドキーワードがホームページに並んでいますが、着目すべきは生徒の「やりたい」だけでなく、先生の「やりたい」を叶える学校文化にあります。

若手もベテランもフラットに働く同校では、現在一緒に働く仲間を募集しています。どんな学校なのか、どんな人と一緒に働きたいのか、総務統括部長(教頭)の日野田昌士さん、広報部長の児浦良裕さん、入職8年目の早川太脩さんと入職4年目の伊藤航大さんに話を聞きました。


教育理念「Only One for Others」

関東で最も重要な中心路線となっているJR山手線の駒込駅から徒歩5分。今回取材させていただく聖学院中学校・高等学校に到着し、校門をくぐると正面に見えてきたのは十字架のついた大きな時計台だ。

同校はキリスト教精神に根ざした中高一貫教育を行う私立男子中学校・高等学校で、現在約900名の生徒が在籍している。

出迎えてくださった広報部長の児浦良裕さんは、同校の特徴についてこう語る。

「本校は創立116年を迎えたキリスト教学校ですが、“Only One for Others”という理念を掲げ、唯一無二の人間教育を実践しています。“Only One”というのは、一人ひとりが大切な存在で、かけがえのない神様からの賜物(才能)を持っているという確信に基づき、教育を行っていきましょうという考えです。そして、その賜物を生かして他者のため、世界のために貢献していきましょうという考えを“for Others”に表しています」

広報部長の児浦良裕さん

大手教育系事業会社に16年間勤務した後、同校に入職し9年目を迎える児浦さんは、2019年度から広報部長を務めている。同校のホームページには、探究型教育やグローバル教育、STEAM教育など、教育のトレンドキーワードが並んでいるが、入学者の入学の決め手となるのは教育理念への共感だという。

「広報的な観点では、ここまでやりきっている学校はないという意味で、現在はSTEAM教育が本校の強みだと考えていますが、入学者の決め手は1.教育理念、2.授業、3.できたこと手帳・自学ノートの3つが常に上位に並びます。『できたこと手帳・自学ノート』って何?と思われるかもしれませんが、自学自習を習慣化する取り組みです。終礼の冒頭10分間で一人作戦会議を行い、放課後から帰宅後の自学自習の計画を『できたこと手帳』へ書き込みます。その計画に基づいて、自学自習を専用の『自学ノート』に書き込み、翌日の朝礼でできたこと手帳と共に提出、終礼までに担任がチェックし返却する、というサイクルを毎日行っています。生徒と個別のコミュニケーションの機会がとても多い学校ですが、その象徴がこの取り組みです」

実際の「できたこと手帳」活用例①
実際の「できたこと手帳」活用例②

管理職は、「上」じゃなくて「下」

今回の取材には、入職4年目と8年目の20代の先生にも参加していただいた。終始和やかに進む取材に、教職員のフラットな関係性を垣間見た気がした。そんな感想をお伝えしたところ、入職21年目になる総務統括部長の日野田昌士さんが管理職として大切にしているあり方について話してくださった。

「あんまり上っていう感覚がないんです。もともと本校のDNAとして、管理職って上じゃなくて下というイメージがあります。だから『管理職が学年に口を出すな』って言われることもあります。ただ、リスクマネジメントとコンプライアンスだけは管理職の仕事だと思っているので、いくら先輩たちでもダメなものはダメと伝えます。そういったことが私の仕事だと思っていて、あらゆる球を拾い続けている感じですね(笑)」

そんな日野田さんの言葉に、入職4年目の伊藤航大さんが頬を緩ませた。伊藤さんは大学院を修了後、公立高校で社会科の非常勤講師をしていた。あるとき、たまたま参加した勉強会で日野田さんと出会い、「うちの学校を受けてみない?」と声をかけてもらい、今に至る。

入職4年目の伊藤航大さん

「上下関係なくどんなこともフラットに話し合えるのが、うちの学校のいいところだと思います。私は今29歳ですが、日野田先生の社会の授業に、ここが良くてここがダメとお伝えしたことがあります。ただダメ出しして終わるのではなく、じゃあ一緒に考えようと前向きに進んでもらえる風土がとっても好きです」

そんな伊藤さんの言葉に、日野田さんは笑いながら「私の授業を見て、この授業ないっすねって言った男ですから」と返した。そんな2人のやり取りを微笑ましく見ていた入職8年目の早川太脩さんが、こう続けた。

入職8年目の早川太脩さん

「うちの学校の先生って、変態がいっぱいいるんですよ。私自身は自分にすごく自信がないので、一歩踏み出そうと思う勇気があまり湧かないんですけど、変態たちはどんどん外に出るし、どんどんいろんなところで活躍している。そんな姿を見ていたら今度は、一緒にやってみない?と声をかけてくださるようになった。

こんな研修受けてみない?とか、こういうことやってみようよ!と声をかけてくださるので、自分のアンテナには引っかかっているけど一歩踏み出せないその足を、ちゃんと踏み出させてくれる関係性がありがたいなと思います。自分の糧になっていて、どんどんパワーアップしていることを実感できます。なので、自分がきっかけをいただいて身につけた力で、聖学院に恩返ししていきたいです」

やりたいことができる学校

現在、同校では常勤が約60名、非常勤も合わせると約100名の教職員が勤務しているそうだ。その中で21年間同校に勤務している日野田さん。私立学校は異動がないため、長期で腰を据えて働くことができるのが魅力の一つだと言われているが、さすがに環境を変えたいなど思うことはないのだろうか。日野田さんにストレートに聞いてみた。

入職21年目になる総務統括部長の日野田昌士さん

「2002年から社会科の教員として働いていて、本当は3年ぐらいしたら地元の大阪に帰るつもりだったんですよ。大阪と東京の文化の違いもあり、東京にはいられないって思ったこともあったんですけど…いい学校なんですよね。いい学校の言語化をしてくれたのは児浦先生であり、若い先生たちと話す中で気づけたことなんですが、シンプルに『やりたいことができる』学校なんです」

やりたいことができる。シンプルだけど、人を強くエンパワーメントする言葉だなと思った。早川さんも同じことを感じているようだった。

「この学校の雰囲気は、個人的にすごくやりやすくて。最低限守ることは守りましょうね、あとは自由にやりましょうね、そんな感じなんです。自由に運用させてくださるスタンスが私はすごく好きで、今担任をしていますが隣のクラスと違うことをやっていたり、好き勝手やらせてもらっています。たまに目をつけられるんですけど(笑)。 どの世代の意見でもすぐ通るし、やらせてもらえる。やりたいと思ったことをすぐにやらせてもらえるのはすごくいいところだなと思ってます。ただ、やりたいことをやるなら、ここまでやらなきゃダメだよという責任を持つ視点も教えてくださいますし、姿勢で見せてくださるので、それはすごくやりやすいです」

伊藤さんも授業に外部講師を招いてワークショップを行ったり、自身の興味関心に沿って挑戦を続けているそうだ。

「私は大学院のプロジェクトとして『授業者も学習者も学びになる授業検討会』のプログラムを開発・研究していたのですが、私がやってきたこのプログラムを、日野田先生が校内でも取り入れていました。教職員全員を集めて対話をベースにした授業改善プログラムなのですが、やってみよっか!で始められる、学校のフットワークの軽さが自分にも合っているなと思います」

Studentではなく、Learner

先生も、やりたいことができる学校。まさに今の学校に求められる組織のあり方のように感じるが、生徒たちの様子はどうだろうか。

「うちの生徒たちは正直なので、授業がつまらなければちゃんと寝て、ちゃんと勉強してくれないので、思わず生徒のせいにしたくなる瞬間があります。でも、それは自分に原因がありますよね。授業力が身につきますし、自分の人間性が試される学校だと思います。Only Oneな生徒たちとの出会いを通して、いろんな人がいるっていうことを受け入れられるようになりました」

日野田さんのまなざしに、ぐっと胸が熱くなった。同校が均一的で画一的な教育をしていないこと、一人ひとりの多様な生徒をきちんと見つめていることが伝わってくる。テストのため、評価のためだけでは動かないという同校の生徒たち。では、どんなときに動くのだろうか。

「やる価値があると思ったら」
「やりたいと思ったことでしか動かないです」

日野田さんと早川さんが矢継ぎ早に答えてくれた。

「自分で動かせるものにすごい興味を持つんじゃないかなと思って。自分でいじってみたい、自分で動かしてみたい、自分で考えてみたいなところに興味を持っている生徒が多いように感じます。教科書に書いてあるからこれが正解ね、では動かないです(笑)」

早川さんは、2年間の講師を経て3年目にフルタイムの常勤になった。常勤1年目に「記念祭」と呼ばれる同校の学園祭の学年の主担当を任された際のエピソードを聞かせてくれた。

「生徒ってこうやったら動くんだとか、 こういう風に道筋立ててあげるとここまで走り出せるんだというのが、肌感覚で分かるようになったのが記念祭の主担当の経験でした。生徒たちがStudentではなくLearnerになっていることを強く感じましたし、それが実現できた大元にOnly One for Othersの精神で生徒を信頼して任せる先生方の姿がありました。私自身も、生徒に自由にやらせてあげたいという思いがあり、各部署との交渉に奔走しましたが、ベテランの先生方が『それいいね!楽しそうだね!』と言ってくださったおかげで、結構ぶっ飛んだ取り組みが実現しました。例えば、5インチゲージという子どもも大人も乗れる電車を学内に走らせたり、クレーンゲームも作りました」

伊藤さんは、コロナ禍で「評価がなかったら、生徒はあなたの授業を受けますか?」という問いに向き合い続けたそうだ。

「生徒たちが授業を受けるのは、テストでいい点を取るためでも、いい大学に合格するためでもない。それこそ本校のスクールモットーであるOnly One for Othersを実現するためだなと帰着しました。生徒たちが自分の強みや才能を見つけて社会で活躍するために、改めて私自身が授業を提供する側としてOnly Oneじゃなきゃいけないなと感じましたし、授業の中で生徒たちがOnly Oneを見つけられるような種をたくさん仕掛けたいと思っています」

生徒にも『ごめんね』『ありがとう』と言える人と働きたい

最後に、課題に感じていることについても聞いてみた。早川さんからは、「生徒に聞かれたことに対して、全て答えられなきゃいけない」という先生が抱えてしまいがちな固定観念に関する話が上がった。

「生徒の方がよっぽどできるし、賢いし、発想が豊かだと感じることがよくあります。だからこそ、授業中も質問されて分からないことがあれば、私は正直に分からないと言っちゃうんですよ。分からないことは一緒に調べてみるというスタンスを大切にしています。

授業だけでなく、生徒との面談でも30人面談すると30人の知っている得意な知識が異なるので、30人分の知識に触れることができます。生徒が自分の得意や好きなことを素直に話したいと思える関係性は、教員と生徒の間に上下関係があると成立しないと思っていて。そういう意味で、生徒から聞かれたことは全部答えられなきゃいけないとか、先生は常に生徒より上でいなきゃいけないと思ってしまうことを手放せたらいいなと思っています」

伊藤さんは、同僚が互いに支え合い、成長し、高め合っていくという「同僚性」に強い興味があるそうだ。その点において、課題に感じていることがあるという。

「やりたいことができる環境であることは間違いないのですが、他者のやりたいことに対する周囲のコミットメントの強弱に課題を感じています。それぞれの先生が魅力的だし、輝く瞬間も見ることが多いので、なんでこんなことできるんですか!?と驚くことやワクワクする瞬間もたくさんあるのですが、自分の興味から外れたときに引いてしまう感じがもったいないなと思います。一緒におもしろがって、相乗効果を発揮できたらうれしいです」

話を聞きながら、先生たちのOnly One for Othersが試されているのかもしれないと感じた。同時にすごいなと感じたのは、日野田さんや児浦さんという先輩のいる前で、課題を共有できる早川さんや伊藤さん、それを受け止める日野田さん、児浦さんの姿勢だ。まさに同校のフラットさを取材中にも体感することが多々あった。

さて、現在一緒に働く仲間を募集している同校だが、採用のサポートの仕事を担っている日野田さんに、どんな人と一緒に働いてみたいか聞いてみた。

「私としては、生徒のせいにする先生には来てほしくないんです。とにかく、自分に矢印がちゃんと向く人。今日の取材を通して、改めて本校の一番のウリは『やりたいができる学校』だと確信したんですが、『やりたい』を持っている人に来てほしいです。また、失敗したときには『ごめんね』と言えて、いいことしてもらったら『ありがとう』と言える人。人として当たり前の振る舞いなんですけど、意外と生徒に対して『ごめんね』と言えない先生は多くて、そのあたりは一緒に働く方に求めたいポイントです」

伊藤さんも「同じことを考えていた」と続けた。

「生徒と一緒にワクワクしたいと思える人に来てほしいですね。『私がワクワクしてるからやってね』ではなく、生徒がやりたいことを『やりたいんだね。それおもしろそうだね』と、一緒に作っていこうと思える人と働きたいです」

最後に、早川さんが優しいまなざしで、熱い思いを語ってくれた。

「Only Oneを潰さない人がいいですね。生徒に対してもそうだし、教員に対してもそう。もっと言うと、自分に対してもOnly Oneを潰してほしくない。自分のやりたいことや自分の芯がきちんとあって、他の考え方を除外したり否定せず、自分のOnly Oneと生徒のOnly One、同僚の先生のOnly Oneを、一緒に組み合わせて作れるような人と働くことができたらうれしいです」

116年の歴史を持つ私立学校が、多くの入学者に選ばれ、卒業生に愛され続ける理由が腹落ちする取材だった。Only Oneを尊重するOnly Oneな先生たちが、Only Oneの学校を作っている。

取材・文:三原 菜央 | 写真:川池 雄大