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一般企業→NPO→フィンランド留学、そして小学校の先生に。多くの越境から見えてきた、教育現場で働く魅力とは?

現在私立の小学校で英語の授業を担当している田中潤子さんは、一般企業、NPOでの勤務、フィンランド留学などの経験を経て、小学校の先生になるという、異色のキャリアの持ち主だ。

田中さんは大学で文学部・教育学専攻に進学するも、教員の道ではなく一般企業に就職し、広告の営業や人材育成に5年間従事。その後、小学生の放課後の居場所を提供するNPO法人での勤務を経て、フィンランドの大学院で教育学修士を取得した。さまざまな越境体験を通して、「ずっと避けていた教員の仕事にチャレンジしてみたい」と思うようになったという田中さん。

教員として働くことを決めた経緯や、実際に働いてみて分かった教育現場の魅力などについて、詳しくお話を聞いた。

「ナナメの関係」の大切さを体感し、広告営業から放課後の仕事へ

——田中さんは一般企業やNPOでの勤務、フィンランド留学を経て、小学校の先生になるという珍しいキャリアを歩まれていると思うのですが、大学時代から子どもに関わる仕事に興味があったそうですね。

そうですね、大学で文学部に進学し、教育学を専攻しました。学童保育でアルバイトをしていて、もともと子どもと関わることに興味がありました。ですが新卒で就職したのは、リクルートという一般企業でした。

リクルートに就職したのは「1年間で何百人もの社長に会える」 というキャッチコピーに惹かれたというのが理由です。さまざまな価値観を持つ大人に出会うことが後々のキャリアにも良い影響が及ぼすのではないかと思い、リクルートに入社し、広告の営業や人材育成の仕事に携わりました。

実はリクルートの最終面接で、「4年後には退職して、子どもに関わる仕事をやります!」と宣言しました。今振り返るとすごく強気な発言ですよね(笑)。結局、5年ほど広告の営業や人材育成の仕事に打ち込みました。

——リクルート退職後に、NPOというキャリアを選択したのはなぜでしょうか?

子どもに関わる仕事を探し始めたのですが、当時は教員になるという選択肢は頭の中にありませんでした。なぜかというと、学生時代の学童保育の支援員の経験から、「先生でも親でもない『誰か』という存在になりたい」と、こだわっていたからです。 ナナメの関係の大切さを感じていたのです。

その頃ちょうど、小学生の放課後の居場所を提供している特定非営利活動法人 放課後NPOアフタースクールが、初めて公に職員を募集していました。代表の言葉を読み、直感的に「これだ!」と思い、すぐに応募して面接に行きました。

—— NPOでは、どのような仕事を担当されていたのでしょうか?

企業営業を担当していたので、リクルート時代の仕事と近しい業務もありました。企業に連絡を取り、子ども向けのアクティビティやワークショップを一緒に作る提案をしていました。

その他にも「それぞれの強みを生かして市民が先生になれる」をコンセプトに、地域の方や、頻繁にテレビに出るような有名な先生まで、さまざまな方を講師にお迎えし、一緒に授業を作る仕事もしていました。

例えば、けん玉のプロや、タケノコに詳しい地域の方と授業を作ったりと、やりがいを感じながら5年間半働かせていただきました。

学校は「間違えることを練習する場所」

——民間企業とNPOで約10年ほど勤務された後、フィンランドに留学されたのは、何がきっかけだったのでしょうか?

夫が北欧での学習プログラムに参加して帰国した際、すごく楽しそうに「北欧の教育、おもしろかった!住んでみたい!」と話してくれたことがきっかけです。

働きながら受験をし、奨学金をもらってフィンランドにあるオウル大学 大学院に入学しました。そこでは、教育とグローバリゼーション(Education and Globalisation)というコースで研究に打ち込みました。

14カ国18人の多様な方々と一緒に2年間学び、大学院修了後は現地の企業や大学で働きました。

フィンランドの森で、夫の航さんと

——フィンランドの大学院で学んだことで、どんなことが印象に残っていますか?

なんと言っても、「学びは楽しいこと」という感覚を大人が持つことの大事さです。日本人の学びは、良くも悪くも「何か常に足りない」「今の自分ではダメ」という感覚から始まっているように感じることがあります。

一方フィンランドの人たちは、「今の自分で十分オッケー」という感覚を持っているように感じました。そこから、何をもっと良くしようかと持ち味を伸ばすために学ぶ。

大学院の研究では、現地の学校に入って学ばせていただいたのですが、先生たちは常に「今の自分で十分で、そこからさらに何をよくする?」という感覚を大事にしながら、子どもに声を掛けていました。

——大学院での研究を通して、分かったことはありますか?

研究を進める中で、フィンランドの先生たちの「間違えることに対する考え方」についてリサーチをしたんです。すると、ある先生から「間違えることは生活の一部だし、学校は間違えることを練習する場所でしょ?」という返事が返ってきました。その姿勢が子どもたちに向けられるのはもちろんのこと、先生たちにも向けられていたんですよね。

初めてのことを授業にどんどん持ち込み挑戦している姿勢が前向きで、とても共感しました。それと同時に、私も子どもたちに「どんどん挑戦していいんだよ!」と伝えたいと思いました。

フィンランドの先生たちの子どもとの関係を見て、「子どもたちと毎日一緒に過ごして、一緒に学びながら、子どもの成長に継続して関わりたい」と強く思うようになったんです。

フィンランドでクラスメイトと

学校現場の魅力は、一人ひとりの成長に深く関われること

——フィンランドでの留学生活を通して、大きな心境の変化があったのですね。

そうなんですよ。これまでずっと「学校の先生はやらない」と思っていたのですが、帰国してからは臨時教員免許を発行していただき、小学校で英語の授業を担当しています。

実際に働いてみて、小学校の先生はいいなぁと感じています。現在は英語の授業のみを担当していて、担任は持っていません。もっと一人ひとりの成長に深く関わりたいので、今後は担任をやってみたいと思っています。

現在、教員免許を取得するために勉強しているところで、今年の5月には教育実習に行くことが決まっています。

フィンランドの先生たちと

—— 田中さんご自身が、誰よりも学びを楽しんでいるのですね。学校で子どもと関わるときに、何か大切にしていることはありますか?

ずっと大事にしているのは、「結局は、人と人」だということ。

前職である上司に言われた言葉です。ミスをして上司と一緒に相手先に謝りに行ったとき、「相手はお客さんだけど、人なんだよ」って。ミスの先にどんな行動を取れるかが重要で、ものごとに真摯に向き合うように心掛けていました。それは学校内でも同じで、自分自身も「先生だから」と型にはめず、やっぱり「人と人」としてまっすぐに向き合いたい

例えば、子どもや同僚の状態があまり良くなさそうなときには、「そういう日もあるよね」「だって人間だものね」と、ものごとをまずはありのまま受け止めて理解しようとし、相手にとって安心できる心地良い関係づくりを大切にしています。

——人に対するまなざしの温かさが伝わってくるお話をありがとうございます。今後、何か挑戦したいことはありますか?

やりたいことはたくさんあります!

将来の大きなライフワークとしては、学校だけでなく、地域の人たちの個性も生かして、一人ひとりが活躍できるような活動に取り組みたいと思っています。それぞれの人が、自分にフィットする役割を見つけることができれば、一人ひとりがもっと輝けるようになると思うんです。

社会は個性の組み合わせなので、その人の特性を意識して、良さを伸ばすところにフォーカスしながら関わっていきたいと思っています。まずは学校で、物理的な場所や人間関係など、皆が安心していられる心地良い居場所づくりを、教員として実現したいです。

取材・文:希泉 | 写真:ご本人提供

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