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『影』

影イラスト

影が2つあるのなんて

どうせ結末は複数の光源に囲まれているに過ぎないのでしょう。

現に、近くの街灯と、民家に防犯代わりとして設置されたセンサー式照明が

私を照らしたことで終電の過ぎたこの住宅街の暗い歩道を

等間隔に並ぶ民家を観客に見立て、浮かび上がらせています。

翌朝もいつも通りの出勤を控え、家路を急ぐ私ですが

頭の中では、後をついて来る

あるいは追いかけても背中を捉えきれない影について、

一方は異なる世界に暮らす自分に

もう一方は知りもしない誰かの存在に

限りなく近づいているのではないか、と思うのです。

あちらさんはどう思っているのでしょう。

こちらとしては

向こうで暮らす誰かにも…誰かには

幸せであってほしいもの。

角を曲がり、家まであと少し。

本日最後の一曲を、我が耳のお供に、と選んでいるうちに

2人のことなどすっかり忘れ

舞台袖である賃貸の一室へと捌けていくゆくのです。

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