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変わる勇気、忘れる勇気


ずっと不安だった。

夢に現れる過去の景色と、
言葉が溢れ出した今の世界が、
あまりにかけ離れているから。

成長していると思う一方で、
昔を忘れていくことが不安だった。

昔の自分を残しておこうと必死に思い出そうとしていたけど、
それはとても難しくて、変わっていく自分に怖くなっていた。

今に集中することができなくて、
今を残すことも難しくて、
この道が正しいと証明できる人は一人もいなくて、
「成長している」という実感も、ただ強がっている幻想にすぎないんじゃないかとさえ思うほどで。

だけど今日、この不安の正体が分かった。

―――


マンションの屋上。
そこに立つ一本の柱。

僕はその柱にがっしりとしがみ付いて、
足の延ばせる範囲だけの世界を知ろうとしていた。

だけど上を見上げると、みんなは青い空の下を自由に翔けている。
自らの翼で悠々と。

過去を清算して、今に全力で生きる人たち。
「自分らしく」なんて意識せずに楽しそうに人生を謳歌している人たち。
「今の私が私だ」と言うその姿が僕には輝いて見えた。

「いいなあ、僕も飛んでみたいなあ」

だから僕は柱から手を離したんだった。
過去の自分をぶち壊して、言葉に残すことを始めて、
自らの足で歩き出したんだった。

柱から手を離した僕だったが、
それでも、元いた柱の位置を確かめずにはいられなかった。
逐一後ろを振り返り、いつでも柱に掴まれる距離を保っていた。

そしてまだ屋上から飛び立てずにいる―――――


昔を忘れていくこの不安は、屋上から飛び立つ怖さと同じなんだ。

今日そう気づいたから、
少し飛ぶ勇気が持てた気がする。

高いところはいつだって怖いように、
この不安は多分しばらく消えてくれない。

だけど、
翼は既に持っているのだ。
飛ぼうとしないだけで。


いつだって怖いのは踏み出す一歩目だ。



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