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走り書き

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詩にもなりきれず、小説の一節にもなりきれなかった、フィクションなのかノンフィクションなのかもよく分からないかけらたちを置いておく場所
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#ショートショート

竹下通り

朝から竹下通りのざわめきにうんざりする。クレープにコットンキャンディ、なぜか螺旋状のチップス。おこぼれを狙う鳥たち。
美容院に行くにはそこを抜けなくてはいけない。
たかが竹下通りの人混みでへこたれるなんて、まるでおのぼりさんかと思うが、こう見えて、もう20年近く東京で暮らしている。しかもこの竹下通りを抜けた美容室には8年ほど通っている。

美容院に行くのにどれくらい綺麗にしていくべきか、that

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群衆

5万人の群衆が行き交う中、階下によく知った姿を見とめる。何年ぶりだろうか、ひどく猫背なその出立ちを見留めたのは。
慌てて階段を駆け下り、群衆を掻き分ける。
追いつけない、見失いそうだった。

次の瞬間、名残惜しそうに立ち止まって会場を振り返る君と目が合った気がした。声が出ない、名前を呼びたいのに。言葉は空に吸い込まれ、僕はなんとかパクパクと口を動かした。

君は気が付かない様子で、もう前を向いて歩

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シューゲイザー

真夏のビーチサイドで、君が業務連絡の電話に出ている間、僕はしゃがみ込んで足元の砂浜を見つめていた。

早くエアコンのあるメッセに行きたいと思いながら、君の電話が終わるのを待っている。後頭部にあたる日差しが暑い。体育の授業を度々貧血で離脱するくらい軟弱な僕の体力が果たしてトリ前のアヴリルまでもつのかさえ疑わしかった。

君の周りの色々が僕は憎い。こうやって休日を邪魔してくる電話はもちろんだが、研究室

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えくぼ

小さなバーカウンターに座る貴方を見つけ、胸が高鳴る。まさか会えると思わなかったタイミングで。貴方に会うのはどれくらいぶりだろうか。無策のまま、指先で肩に触れる。
振り返った貴方はいつものように、おお!という表情になる。

伝えたかったことは数多あれど、勢いに任せて声をかけてしまい言葉が出ない。震えそうな声でなんとか一言搾り出す。

お久しぶりです。

その後に続く言葉が見つからない。「そういえばさ

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マールボロ

The Great Rock 'n' Roll Swindleでシドヴィシャスが赤マルを吸っているのをみて、一度だけ赤マルを吸ったことがある。金魚の僕でさえ咳き込むタール12。それでもシドに近づきたくて、タバコのチョイスはいつもマルボロだった。

靖国通りのエクセルシオールでブラッドオレンジジュースを飲みながら金マルをふかしていると、不服そうな顔の君がいる。
「見なかったことにしとくけど、やめたほ

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