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#6「自然の循環の中で、米づくり、酒づくり」(前編)

日本酒の枠を超え、色とりどりの分野で活躍する「ニホンジン」を訪ね、
日本の輪を広げて行きます。それはまさに「和の輪」。
第6回のゲストは、すぎやま農場・杉山修一さんです。

杉山さんは、江戸時代から続く農家を継いで、有機栽培に取り組んでいます。 “癒やしの大地から癒しのお米を作る”とは、たんぼにいる生き物たちの命が健康であれば、健康な命たちがたくさん集まっていっしょに作物作りを行い、出来上がった作物たちも健康に育って、きっと人間にも健康な命を分けてくれるのではないかと考える、健康な命の循環・・・それが、有機農業の第一人者と呼ぶにふさわしい杉山さんの農法の基本。
仙禽も、杉山さんが育てた酒米「亀の尾」からピュアな酒を創っています。
今回は、杉山さんの農場をお訪ねして、あらためてお話を伺いました。


杉山修一さん(左)と薄井一樹(右)

農薬を拒絶する体質に気付かされた有機農業の道

薄井 仙禽のお米を作っていただくようになって10年以上。ナチュールの主原料には、オーガニック(有機農法)で作られた「亀の尾」を大切に使わせてもらっています。もう本当にピュアなお酒に仕上がります。農薬を使ってるお米で造ったお酒とは全然違いますね。

杉山 市販されているお酒はあまり飲まない。口に含む直前から、農薬を使ったお米の香りがするんですね。私、農家なのですが、農薬耐性のほとんどない人間でして。もうアトピーが出てしまって。

薄井 ご自身がアレルギー反応とか、体調が悪くなって、今の有機農業に行き着いたんでしたよね。
 
杉山 アトピーも最初は1年に1回程度が、徐々に蓄積していって、最後は毎日症状が止まらない。あるとき、有機農業の稲葉光國先生に「騙されたと思って、農薬と化学肥料を使わないお米を食べてみたら」とアドバイスをいただいたのですね。もう30年以上前の話なんですけれども。

薄井 その当時は、まだオーガニックではなかった時代・・・

杉山 実はその年にもう農薬と化学肥料を使わない米作りをやっていました。田んぼ一枚だけなんですけどね。どうせだから玄米でいただくようになりましたら、段々、アトピーは出なくなっていって、今はもう全く出ない状況になっているんですけど。
 
薄井 完治したんだ。

杉山 治ってはいないです。旅行に行って、ちょっとでもオーガニックじゃないものを食べ続けると、もう帰る頃にはアトピーが出始めるので。逆に言うと人間テスターだなと。味覚に関しても、農薬に対する味覚がちょっと発達したのかな。

世の中の、人に口に入るものほとんどが、不純物だらけ

薄井 その発達した味覚で飲んだナチュールの味は?

杉山 あっ、これは神様にお届けできるお酒だな、と。東照宮の宮司さんが「神様は農薬使ったお米は喜ばない」て仰っていて。オーガニックで、お酒用のお米を育てて、それで造ったお酒を、一番最初にできたときに試飲させてもらった印象は未だに忘れられないですね。

薄井 世の中の食品、飲み物、それこそ日本酒も、99%以上のものが不純物だらけじゃないですか。そういうものを摂取して私たちは普段生きているわけですよね。でも世の中の人が杉山さんみたいに、拒否反応を起こすような体質であれば、世の中変わりませんかね?
 
杉山  変わるでしょうね。でも僕みたいになっちゃいけないんですよ(笑)。お米作ってるとカメムシっていう虫が黒い斑点をつけるんですが、カメムシにしてみれば、ちょうど産卵期で栄養が必要な時で「あっ、私たちのために稲穂が育ってくれたのね」っていう風に思ってるかもしれない。しかも、カメムシが沢山食べるお米って、硝酸(しょうさん)が多いんですね。窒素(ちっそ)の多いお米(=窒素成分が変化した「硝酸態窒素(しょうさんたいちっそ)」と言う物質が、米に残ってしまった状態)って体に良くないので、カメムシは危ないものは食べちゃいけないよって身をもって、人間に教えてくれるんだと。そういう考え方をすると、彼らは凄く私たちのために役立ってくれてるんだって。
 
薄井 いいですよね、そういう考え方って。 日本酒造りも明治に入って圧倒的に進化して、江戸時代の造り方から便利で早くて、品質も向上したんだけど、失うものも大変多かった。農業は一次産業ですから、お米、野菜、そういったものが例えば、ケミカルな作られ方をして、収穫された後に、二次産業である加工業まで化学の力で、要するに流通に耐えるとか、スーパーやコンビニに並ぶためには、もっとその型崩れしない味がキープできる、悪くならないという。要するに、ケミカルに作られた原料で更にそれをケミカルで加工しているっていう現状ですよね。農業は一体いつのタイミングから?

杉山 私が知る限りで、化学窒素ですね。普及したのは大正時代。一番最初に普及推進されたのは岩手県の農業改良普及員をされていた高名な先生ですが・・・。

薄井 マジですか! 僕も・・・誰もが知ってる有名な方でしょう?

杉山 あの時代は、東北の農家の貧しさっていうのを身にしみてて、それをなんとか改善したいというお考えであったからこそ、硫安(りゅうあん)という肥料を使うことで、今まで反収※4、5俵しかとれない田んぼが、反収※10俵とれるよという。これは農家にとっても、革命になるんじゃないかということで、推進されたんですね。ただ、最初とれるんですが、3年、4年すると、段々今度とれなくなっちゃう。で、何も使わなかった時よりもとれなくなっちゃったんですね。
(※反収とは田畑1反(約10アール)当たりの作物の収穫高のこと)

薄井 えー、現代の農業は農薬は使えば使うほど収穫量が上がりますね。

杉山 ミミズで考えていただくと、肥料の硫安を田んぼに入れると、24時間で90%のミミズが死んでしまいます。生物多様性をね、根本的に壊すのに役立ってしまうんですね。

薄井 人類は勝手すぎる・・・

杉山 自然の循環。人間も命の循環の一員だから、人間にとって邪魔だと思う生き物たちも、実は私たちのために働いてくれてるんだ。そういう風に考えますと、無駄なものがないのです。

薄井 そのあたり、もっと深めてお話をうかがいたいですね。

中編に続く


 


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