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#6「自然の循環の中で、米づくり、酒づくり」(中編)

日本酒の枠を超え、色とりどりの分野で活躍する「ニホンジン」を訪ね、
日本の輪を広げて行きます。それはまさに「和の輪」。
第6回のゲストは、すぎやま農場・杉山修一さんです。
※#6の続編です。 前編はこちら


杉山修一さん(左)と薄井一樹(右)

身勝手な人間には、いつか自然のしっぺ返しがくる

薄井 前回された、無駄なものがないという自然の循環の話をもっと伺いたいのですが・・・

杉山 人間が、自分たちの都合で農薬や化学肥料を使うので自然の循環が崩れてしまっているのが現代です。温暖化にも拍車をかける。すると却って必要のない虫が大量に発生したりとか、そういうことが今起きてると思うんです。

薄井 それをどう受け止めてますか?

杉山 田んぼの生き物たちが人間を「信用できるか」って向こうから敵視してる・・・有機農業を始まって最初に思い知らされたことです。

薄井 人間不信・・・

杉山 それを覆して信用を取り戻すのに5年はかかります。余談ですが青森のりんご農家で自然栽培の先駆者・木村秋則さんのように「仲良くしようね」「みんな頑張ろうね」と声を出して話をさせていただいた田んぼの方が自然力の上がってゆくのが早いようです。是非皆さんも声に出して問いかけたり、お願いしてみてはいかがでしょうか、言葉、言霊となって彼らに届く最強アイテムです。
 
薄井 そうでしょうね。しかし、時間かかりますね。それに化学肥料を使うと、先ほどの硝酸(しょうさん)の話じゃないけど・・・
 
杉山 稲に限らず、朝、植物は太陽光を使って硝酸(しょうさん)と水からデンプンを生産します。大体お昼ちょっと前ぐらいに製造工程終わらせて、午後になると、出来上がったデンプンの一部を糖に変換するんですね。夜になると、根っこから分泌するんですね。で分泌した糖を、土中の生き物たちが貰って、そこに命の循環が始まるんです。糖を分泌した代わりにもちろん、他の栄養分を根っこから吸収して、特に深夜の丑三ツ時あたりに、明日のためにどのくらい大きくしたらいいのかなと考えながら育つんです。植物って上に1m伸びれば下に1m根っこを伸ばすんですよ。ところが、人間が余計な化学窒素なんかを入れると、1回でも化学窒素を食べた稲は、もう根っこを伸ばすの止めちゃうんですね。
 
薄井 「あっ、また貰えるんだろう」って・・・
 
杉山 根っこを伸ばさなくなると、亜鉛が吸えないんです。次の世代の種を残すのに大切な栄養分なのに・・・しかも、あまり伸びない根からは、人間にとって良くない物質を吸収してしまう場合もあって・・・
 
薄井 人間が余計な肥料をやったばっかりに!

杉山 自然の生き物たちと一緒に、いい共存関係を作って、そこから得られた栄養で育っていく。私が出会った稲の中では、仙禽のナチュールに使っていただいている「亀の尾」は、その能力が一番長けている品種だと思います。
 
薄井 私たちも日本酒を造る時に、「亀の尾」で作りたいという風に思ったのは、亀の尾を色々調べた結果、人の手があまり介入していない、元々ある古代米だというところが、僕たちの自然をテーマにしている酒造りには凄くフィットしたんですね。一番植物として基本に忠実な形じゃなかろうかと。酒造業界が使ってる酒造好適米というのは造り手が造りやすいように品種改良されているわけですから、お米側の粒が大きかったり、溶けやすかったり、溶けやすいってことはお酒になりやすいってことですね。それは要するに掛け合わせて掛け合わせて、DNAを操作しているのか分かりませんけれども、人間の都合で人間が造りやすいように変えられてるお米なんです。 なので、亀の尾は凄く造りにくいのは事実なんだけど、発酵能力とか色んな観点で見た時に凄くエネルギーに溢れているなということは感じます。やはりそれは栽培中もそうですか?

杉山 思ってた以上に能力高すぎて。私が思うに根っこだけであんなに凄い成長をするはずがない。窒素(ちっそ)のない環境で発芽すると、あ、これは、もう、2億年くらい前の、植物が海から地上に上がってね、そこからずーっと永遠と地上で暮らすためのノウハウが彼らのDNAには蓄積されていて。人間の腸内細菌のではないですが、どうも亀の尾って品種は体内共生菌と共生する能力が高いんじゃないか。身体の中で共生してる菌たちが窒素固定をしてる。その能力が高すぎるんで、田んぼの地力がね、そこそこあるとこだと出来すぎてしまうっていう結果が・・・最初に栽培始めさせていただいた時に、「これは明治とか江戸時代に近い田んぼの環境に戻さないと中々彼らと対話できないよね」という印象でした。
 
薄井 具体的に言うとどういう環境だと想像されますか?
 
杉山 機械も電気もない時代ですから、非常にその土地が痩せていたんじゃないかと。地力のない田んぼです。5年くらかけて、戻していくと、段々亀の尾にとって都合のいい環境になってくるのかなという風には今は感じています。良く言えば、「この田んぼのこのお米たちは、ほっといても自分たちでなんとかしてくれるわ」みたいな環境ですね。

薄井 放っておいても・・・でも、実は自然の生態系は豊かに循環しているんですよね。

農薬と化学肥料にまみれた農薬を、どう変えるか

杉山 重要なことって「自分のベロメーター」なんです。農薬も化学肥料も使ってないんだよっていうものを認識できるベロメーターを持ってるか? 実は、子供たちは正解率は高く、年齢が上がると段々正解率が下がってしまう。例えば、子どもが「人参はまずいから食べたくない」というでしょ。すると大人は無理矢理食べさせようとするけど、私は、食べなくていいと思う。まずい人参がなぜまずいのか? 農薬も化学肥料も使ってないおいしい人参を大人が選んで食べさせてあげないと。
 

薄井 おいしくなくても食べられてしまう、ベロメーターの鈍化。その原因は、食品添加物ですよね
 
杉山 最近1番気になるのが、“食品添加物“にならない “食品“・・・
 
薄井 なるほど、法律上問題がないとされてしまってる・・・
 
杉山 例えば “たんぱく加水分解物”ですね。あるメーカーさんが「醤油ラーメンの醤油も、味噌ラーメンの色も味も全部たんぱく加水分解物と、食品添加物の合成で全て作れますよ。どんな味でも」って。えっ、これこそが私たちのベロメーター壊すのかと。自分で実際にたんぱく加水分解物の入った食べ物を、2日ぐらい続けて食べたんですね、そしたら、味わかんなくなっちゃったんです。ベロメーターが段々鈍くなっちゃうから、その分強い味をつけないと、また次の流通を伸ばすための味付けを濃くしないと売れない、という連鎖反応を今起こしてるんじゃないかっていう風に思います。
 
薄井 たんぱく加水分解物というのは、私たちの生活の中で物凄く身近にありますよね。
 
杉山 ほとんどのものが使われていると思います。

薄井 お米やお酒の話だけでは終わらないですね。

後編に続く


 


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