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小澤メモ|SENTIMENTAL JOURNEYMAN|おっさんの旅。

10 おっさんの旅  辺境編 厚岸牡蠣。

別寒辺牛湿原、夕日。
断崖絶壁の落石岬からシーサイドラインを経由、霧多布方面に差しかかったくらいから、景色が変化していた。湿原地帯に入った。単線列車が湿原を割って走る写真を見たことがある人も多いだろう。JR花咲線のポスターも、この湿原の四季折々の写真が舞台になっている。常々、一度は行ってみたいと思っていた。(この辺りのロケーションがポスターになってるのではないか)と思った通りだった。厚岸町の別寒辺牛湿原。白い雪に覆われた湿原を黄金色に染める夕焼けに遭遇することができた。その中をぴょんぴょんと跳ねるようにキツネが歩いていた。きっと夏になればカヌーを浮かべて楽しむ人がいるのだろうけど、今はキツネや野鳥がゆっくりと時を過ごしている。星野道夫さんの著書『旅をする木』の一節を思った。素晴らしい夕日をみて感動したとき。それを誰かに伝えるためにはどうするか。写真を撮るのか、文章や絵で伝えるか。一番は、自分自身が変わることだって。

牡蠣の名産地。
松前藩とアイヌの交易場所として栄えた厚岸。この町の海には、太古より牡蠣が生息していた。現在も、牡蠣の名産地として、国内有数のブランディングを誇っている。厚岸湖と厚岸湾での牡蠣の養殖産業。そして、絶景ポイントとして人気の湿原地帯の観光産業。この2つを核にして町には活気が溢れている。それは、根室や花咲、落石などで感じたスモーキーでメランコリックな雰囲気とまったく別物といってもいいかもしれなかった。夜、地元で人気の寿司屋で、生牡蠣から焼き牡蠣、牡蠣フライなど牡蠣づくしを堪能しながら、(岬で感じた強い風とはまた違う風が吹いているんだな)と、つくづく思ったのだった。向こう1年分くらいの牡蠣を食いだめしてやるぜっていう食い意地を発揮して、追加した焼き牡蠣をちゅるるとやっていたときだった。

国後島から根室、そして厚岸へ流れて。
地元のおじさんが声をかけてきた。そうなると、こちらは写真家のオッサン、田附勝の出番だ。彼は、そこらへんのインタビュアーなんかより小気味よく、興味が赴くままにキャッチボールをする。偶然だったのだろうが、(また違う風が吹いているんだな)と、それぞれが感じていたことに対する答えがそこにはあった。「祖父は国後島の人間だった。戦後、根室に子どもだった父とともに一家で移ってきたんだよ。それで、俺の父は、根室では食ってけないってことで厚岸まで下りてきたのさ。ここはいいだろう、牡蠣もうまいしな。どうだ、もう一軒飲みに行くか?!」。せっかく誘われたのに、あいにく旅するオッサン3人のうち2人は酒を1滴も飲まない(オッ3の中で一番の若手だけはイケる口で大のビール党)。そんなやろとりをチラチラ見ていた、おじさんの連れの肝っ玉かあさんを絵に描いたような、(漁師が使う)網屋のイケテるおばさんがぴしゃりと言った。「飲めない男はダメだ、ダメだよ」。酒はひとつ間合いを詰めることができる。オッサンたちは、飲めないかわりにレンズで詰めていく。良い夜だった。10
(写真は厚岸名産の牡蠣/2019年)

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