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小澤メモ|NOSTALGIBLUE|思い出は青色くくり。

50 クリッパーズの不可解という瓦解。

バブルなプレイオフ。
コロナ禍で、オーランドのディズニーセンターで完全隔離によるプレイオフ。そんな異例のNBA2020年シーズンは、無観客なのはもちろんのこと、チアリーディングやハーフタイム・ショーなど、アメリカが得意とするエンターテイメントの要素が一切取り除かれている。調子の良い音楽がかかれば、選手も観客も、老若男女みんなが踊り出す。そんなアメリカのメジャースポーツのゲームの風物詩はどこかに吹き飛んでしまった。選手やスタッフの心情を察すると残念だけれども、極東のいち観戦者としては、このスタイルもそんなにイヤじゃない。なんなら、見やすくていいし、集中できるので、好きかもしれない。コロナ禍の前に見られた、盛り上がるコートサイドの観客と選手のちょっとした掛け合いは素晴らしい光景だったけれども、その反面で、アウェイチームの選手に対して、名指しで差別的な発言をするようなファン(?)が度々いたり、毎度毎度、コートサイドでビールをこぼしてフロアを濡らしているファンとかも見えてくるので、少々げんなりしていた。それが正直なところ。

シード順位があてにならない面白さ。
ホームコート・アドバンテージというのが、スポーツでは重要になってくる。ホームコートだから、ファンの声援の後押しがすごいし、一緒に盛り上がって、すさまじい勢いをつくることができる。見ているこちらも、審判の笛がホームチームにあまいと思っても、(ホームコートだからしょうがないか)という気持ちで、怒りをおさめやすい。エンターテイメントだし、チケットやグッズにお金を払ってチームをバックアップもしてるんだから、勝敗だけでなく運営面でもファンは大切な存在だ。こちらも、贔屓のチームのジャージーは必ず買ってるし、会場に足を運ぶこともある。ただ、今シーズンは無観客の隔離施設、通称NBAバブル(泡の中のミント状態)でのプレイオフであるというのが事実。ホームコート・アドバンテージがないからか、観客のフープ・ヒステリアな追い風と向かい風がないからか。そして、静かな分だけ、トラッシュトークが審判の耳に届きやすいからか、例年以上にアップセットやアンバランス(シーソーゲーム)な展開が多い気がする。

無風状態から嵐へ。
長い中断期間というのが影響しているのかもしれないが、特例措置もいろいろあって、FA選手とバタバタと追加契約して補強したり、ケガ人の回復(逆にケガをしてしまう選手も続出したが)が間に合ったりと、各チームの戦力は整っているようにみえた。長い移動もないし、チーム練習やミーティングも容易にできる環境だった。ケミストリーなんて、通常時より良くなるように思えた。しかし、この静かな無風に思えたバブルでのプレイオフは意外なことの連続になっている。レギュラーシーズンを断トツの1位で走りきり、2年連続MVPに輝いたスーパーエース、ヤニスのバックスは早々姿を消してしまったし、得点王とMVPをダブルで受賞しているスーパースターが2人もいるロケッツも、ディフェンディング・チャンピオンのラプターズも、敗れてしまった。そして、レイカーズと並んで優勝候補の筆頭だった、クリッパーズまでも散っていった。しかも3勝してあと1勝でカンファンレンス・ファイナルという順風満帆さから、いきなりの台風27号、マレーとヨキッチのナゲッツに3連敗、アップセットを食らってしまった。

スター軍団、クリッパーズ。
クリッパーズは、優勝請負人で冷静かつ常にハイアベレージのパフォーマンスを約束してくれるレナードを筆頭に、サンダーから優勝したくてやってきたスーパースター、ポール・ジョージに、セルティックス時代から高い評価を得ているモリスも獲得。さらには6マン・アワードに輝くルーとハレルのコンビ。成長著しいサイズばっちりのズバッツ。ガードもヒートのスターティングガードのジャクソンを補強し、デェイフェンス力抜群のビバリーのケガからの復帰も間に合ってしまった。個人的には、シクサーズ時代からフロアバランスを整えながら良い仕事をする(スパーズのポポビッチに鍛えられたホワイトを少し彷彿させる)シャメットがロースターにいるのも良いと思っていた。コーチ陣も、(個人的には優勝に近づく戦略家としてはあまり良いとは思っていないけれど)評価の高いリバース監督を筆頭に、アシスタント・コーチ陣にはキャブスの優勝監督だったルーや、選手としても実績が高いキャセールなどを揃えて、万全すぎる態勢だった。そんなクリッパーズが、まさかの敗退。しかもスター選手揃いではない若いナゲッツにアップセットを食らってしまった。

今回だからこその面白さ。
負けた後に、アナライズをするのはチーム運営にとって大切なことだけれども、ファンがいろいろ言うのもまたエンターテイメントとしての余地である。「負けた後なら、なんでも言えるさ」といなして、ファンを黙らせるファンもいるけれど……。まあそれは置いといて、クリッパーズは、というかリバース監督は、プレイオフになってから、203センチの3アンドDのジャマイカル・グリーンを多用したのだろうか。ロケッツやセルティックスのようなスモール・ラインナップをする布陣ではないはず。それまで使ってきたハレルやズバッツが、ナゲッツのビッグラインナップに対応できていないわけではなかった。たしかにポール・ジョージは好不調の波が激しかったけれども、単純にスターなメンツの数を見ただけでもクリッパーズは断然に有利だったし、個々人のスキルとビジョンは疑いの余地がなかったと思う。そこに、自分の指示を徹底させるピースとしてジャマイカル・グリーンを配置していた感じだろうか。そこは推測でしかないけれども、とにかく、シャメットよりジャクソンよりモリスよりズバッツよりもジャマイカル・グリーンが信用されていた気がする。そして、ディンフェンスでヨキッチに好きなようにされてしまっていた気がする。それによって、今まではうまくいってたように見えたクリッパーズのチームフィロソフィーが瓦解してしまった気がする。どこかで、うまくいかないぞとみんながみんな思ってしまったというか。今回のプレイオフは、コート外よりもチーム内のいろいろがもろに出てくる感じがして、観客無しだけれど、これまでと違う面白さがある。と思った。こんなコロナ禍がずっと続いてほしいわけではないので、今回かぎりの貴重な側面として存分にバブルのプレイオフを楽しみたいと思っている。そして、レナードに誘われ、「優勝したい。生まれ故郷に戻りたい」と、キャリアを飛躍させてくれて、チームメイトともうまくいっていたサンダーを出ていったポール・ジョージ。そして、彼からその電話を受けて、快く送り出した(その直後、自らもチーム再編期に入ったサンダーから強豪へと温情で送り出してもらった)ラスことラッセル・ウエストブルック。この2トップ瓦解に伴うトレード余波で、キャリアを輝かせはじめていたサンダーから放出されたジェレミー・グラント。サンダーの2020年の中核を担うはずった3選手のうち、最も貧乏くじを引いて、移籍先でもベンチスタートという不遇をかこったはずだったグラントが、プレイオフに入る頃から(ケガ人続出のチーム事情もあって)レギュラーに定着し、ナゲッツ快進撃のキーマンとなって躍動している。プレイオフの最前線を突っ走っている。そんなところもまた面白い。(もうすぐ新シーズンのスタート。結果的にレイカーズ優勝で幕を閉じたバブルでのシーズンだった……)50

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