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血塗られた王冠~古畑任三郎VSKing&Prince~

はじめに

はじめまして。
単なる自己満作品です。暇つぶしに書きましたが、そのままにするのもなんかなぁって感じだったのでこちらに載せます。
↓作品内に登場する横浜アリーナのイメージ図を描きました。参考にしていただければと思います。
※この物語は、もちろんフィクションです。
よろしくお願い致します。

横浜アリーナイメージ図

※一応、PDFに変換したものも載せておきます。内容は下と同じですが、形式が台本っぽくなっています。


古畑任三郎VSKing&Prince

○黒い背景の部屋(アバンタイトル)

立っている古畑任三郎(73)。彼に向けられているスポットライト。
古畑「えー、ご無沙汰しておりますぅ。え? まだ刑事やっていたのかって? そうなんですぅ。私が一番驚いていますぅ。早速ですが、皆さん。『アイドル』の語源、ご存知ですかぁ。元々は偶像という木や石などで作られた像を指す言葉ですぅ。それがいつしか、崇拝される存在のことを指すようになりましたぁ。崇拝する側もされる側も、今ではどちらも同じ、人間なワケで・・・」

○OP

○東京・全景

並ぶビル街。
小倉の声「で、ちゃんと持ってきたか?」

○喫茶店・中

テーブルに、小汚い格好の小倉文康(55)と、目深にバケットハットを被り、暗い表情の髙橋海人(23)が向かい合って座っている。
髙橋、黙ってカバンから厚みのある茶封筒を取り出すと、小倉に差し出す。
小倉、受け取ると、不敵に笑って、
小倉「ありがとさん」
髙橋「・・・おじさん、もうやめてもらえませんか?」
小倉「やめてもいいけどよ、お前の母親のことがバレるだけだぞ。世間に」
押し黙る髙橋。
小倉「縁を切ってるとは言え、母親が世間を賑わせてる『神武協会』の会長で、 霊感商法で荒稼ぎしてるなんて、お前らのファンが聞いたらどう思うだろうなぁ」
髙橋、目に涙を浮かべて、
髙橋「たくさんお金払ってきたじゃないですか・・・もうやめてくださいよ・・・」
小倉「馬鹿野郎。お前、天下のキンプリだろ? 金なんか浴びる程持ってるじゃねぇか」
髙橋「そういうことじゃなくて・・・」
小倉、ニヤッと笑って、
小倉「まだまだ世話になるぜ、王子様」
小倉、立ち上がると、その場を去る。
険しい表情の髙橋、軽く頷くと、カバンの中から、チケットを取り出すと、小倉の背中に向かって、
髙橋「待ってください!」
振り向く、小倉。
髙橋、小倉に近づくと、チケットを差し出して、
髙橋「これ・・・今度、俺たちライブやるんです。横アリで。良かったら、観に来てください。メンバーにも合わせたいんで」
小倉、受け取って、
小倉「可愛いとこあんじゃねぇか。楽しみにしてるわ」
去っていく小倉。
悲しげ表情で小倉の背中を見つめる髙橋。

○横浜アリーナ・外観(夕)

大型LEDヴィジョンには『King & Prince ARENA TOUR 2022 ~Made in~』の文字。

○同・楽屋・中(夕)

髙橋、平野紫耀(25)、永瀬廉(23)、岸優太(26)、神宮寺勇太(24)が、神妙な面持ちでテーブルに向かい合って座っている。
岸「・・・やっぱりさ、やめようよ! こんなこと! 人殺しなんか良くないって!」
神宮寺、ため息をついて、
神宮寺「岸くん、誰だってこんなのやりたくないよ。でも、やんないと海人がずっと脅されたまんまなんだよ。分かってよ」
岸「でもさ、もっと他に方法あんじゃん! 話し合いとか」
永瀬「そんなんで解決できんから、こうなってるんやろ。この日の為に計画立ててきたんやから、やるしかない。岸さん、やりたくなかったら、やらんでええよ」
岸「そうじゃなくてさ・・・!」
髙橋、目に涙を浮かべて、
髙橋「本当に、ごめん・・・俺のせいで・・・」
岸「なぁ、海人。もう一回おじさんと話し合えって!」
平野「・・・岸くん」
平野を見る、永瀬、髙橋、岸、神宮寺。
平野「俺らは5人でKing&Princeじゃん。海人がここに居られなくなったら、もうKing&princeじゃなくなる。だから、これは海人だけの問題じゃない。俺らの問題なんだよ」
岸「そうだけどさ・・・」
平野、岸をじっと見据えて、
平野「グループとファンを守る為には、こうするしかないんだよ。それに、この計画なら、誰か一人が罪を背負うってこともない。だからさ、やろうよ、岸くん」
岸、唇を噛み締めて、静かに頷く。
平野、優しく微笑んで、
平野「ありがとう」
神宮寺、壁掛け時計を見る。
時計は16時55分を示している。
神宮寺「海人、時間はちゃんと伝えてある?」
海人「うん。17時頃に楽屋に来てもらえれば、メンバーと話せるって連絡してある」
ドアをノックする音。
小倉の声「おーい、海人。俺だ」
顔を見合わせ、頷く平野、永瀬、髙橋、髙橋、岸、神宮寺。
髙橋「どうぞ」
×     ×     ×
テーブルに突っ伏して、眠っている小倉。
傍らには紙コップに飲みかけのコーヒー。
岸「本当に眠ってる・・・睡眠薬ってすげぇ・・・」
神宮寺「これでしばらくは寝てるはず。海人、例のパーカーは?」
髙橋「持ってる」
海人、赤いパーカーを取り出すと、小倉に着させる。
永瀬「後は紫耀と岸さんの出番や。頼むで」
平野「オッケー」
フードを目深にかぶったパーカー姿の小倉を背負う平野。
出ていく平野と岸。
神宮寺「俺らも行こうか」
頷く永瀬と髙橋。

○同・下手側廊下(夕)

ドアを開けて、小倉を背負った平野と岸が辺りを見回しながら出てくる。
平野「誰もいない?」
岸「オッケーオッケー」
小走りで奥の方に進んでいく平野と岸。
反対側から、スタッフが数人歩いてくる。
平野と岸、慌てて、笑顔を作って、
平野「おい、前より絶対重くなってんじゃーん」
岸「マジかよ、アイドルなのにやばいって」
スタッフとすれ違う平野と岸。
ふーっとため息をつく二人。
平野「バレてない?」
岸「大丈夫」
平野「岸くん、本気で重くなってきた。変わって」
岸「オッケー」
その場にしゃがみ、平野と交代して小倉を背負う岸。
再び小走りで進む平野と岸。

○同・男子トイレ・前(夕)

男子トイレの前まで来る平野と岸。
そっとドアを開けて、中に入る平野。
平野の声「オッケー、誰もいない」
そそくさと中に入る岸。
しばらくして、岸と平野が急いで出てくる。
赤いパーカー越しに『故障中 使用禁止』と書かれたパネルを持った平野、ドア前に置く。
駆け足で戻る平野と岸。

○同・トイレ・個室・中(夕)

便座に座り、眠っている小倉。
ペーパーホルダーの上にはバタフライナイフ。

○同・ホール・中(夕)

機材席の辺りにいるスタッフと話している神宮寺。
神宮寺「すみません。急で本当に申し訳ないんですけど、セトリ変更したくて・・・」

○同・同・上手側ステージ下(夕)

床とステージの間にある、人が一人分くらい通れそうな隙間を覗き込む髙橋。
台車が一台だけ置いてある。
髙橋、通りかかったスタッフに、
髙橋「あの、フェラーリ1台しかないんですけど、ここってもう2台置けますか?」

○同・同・下手側出入り口・前(夕)

永瀬、ドア付近に止められている自転車の前に立っている。
自転車は三台置かれている。
虚ろな表情の永瀬。

○空(夜)

満月に雲がかかっている。

○横浜アリーナ・ホール・中(夜)

8割ほど観客が入っている会場内。
右手にペンライト、左手に平野紫耀の顔がプリントされたうちわを持った、ライブTシャツ姿の今泉慎太郎(61)が、目を輝かせて座っている。
黒のアルマーニのスーツ姿の古畑任三郎(73)が今泉の隣に座り、
古畑「いやー、参ったよぉ。入り口の列、あれどうにかならないの?」
今泉、目を見開いて、
今泉「あっ! 古畑さん! お久しぶりです! 嬉しいなぁ、本当に来てくれたんですね」
古畑、今泉のおでこを叩いて、
古畑「バカ言ってるんじゃないよ。君に会いに来たんじゃないよ、キンプリにタダで会えるっていうから来たんだよ」
今泉「でも、嬉しいなぁ。ほら、見てくださいよぉ」
今泉、ニコニコしながら、平野紫耀のうちわを古畑に見せて、
今泉「僕、紫耀君推しなんですよ! 『ichiban』の時の赤いジャケットをかっこよく着こなして、バリバリ踊っちゃうのがいいんですよ!」
古畑「あ、そう。それより、私にもうちわないの?」
今泉、カバンの中をガサゴソしながら、
今泉「古畑さん、誰がいいですか? 廉くんも海ちゃんも岸くんもジンくんもみんないいんですけど、誰がいいかな~?」
うんざりした表情で今泉を見る古畑。

○同・ホール・中(夜)

赤・白・黄・紫・青のペンライトが揺れている。
綺羅びやかなステージ上で、赤いジャケット姿で『ichiban』のパフォーマンスをしている、平野、永瀬、髙橋、岸、神宮寺。
曲が終わり、ステージの照明が暗くなる。
すぐに『太陽の笑顔』のイントロが流れ、センターステージのポップアップから、少年忍者が登場し、歌い始める。

○同・同・上手側ステージ袖(夜)

小走りでやってくる平野、永瀬、髙橋、岸、神宮寺。
永瀬、平野と髙橋と岸をチラっと見て、
永瀬「行ってくるわ」
永瀬と神宮寺、そのままステージ下へと続く階段を降りる。

○同・同・ステージ下(夜)

腹ばいで台車に乗り、そのまま下手側へ一直線に移動する永瀬と神宮寺。

○同・同・下手側出入り口・前(夜)

永瀬と神宮寺、ドアを開けると、通路に置いてある自転車に乗り、漕ぎ始める。

○同・男子トイレ・前(夜)

『故障中 使用禁止』と書かれたパネルが置いてある。
自転車に乗った永瀬と神宮寺がやってくる。
永瀬と神宮寺、ドアを開けて、中に入る。

○同・同・同・中(夜)

個室のドアを開ける、永瀬と神宮寺。
便座に座り眠っている小倉。
永瀬、ペーパーホルダーの上にあるバタフライナイフをつかみ、
永瀬「・・・いくで」
神宮寺「うん」
永瀬、深く深呼吸すると、目をつぶり、小倉の心臓めがけて、バタフライナイフを突き刺し、引き抜く。
胸に血の赤みが広がり、うめく小倉。
返り血が永瀬にはね飛ぶ。
慌てて後ろに下がる永瀬と神宮寺。
神宮寺「あっぶな。廉、血かかってない?」
永瀬「大丈夫」
永瀬、神宮寺にナイフを手渡す。
神宮寺、ナイフを受け取ると、目をつぶって、小倉の心臓に突き刺し、引き抜く。
胸の赤みが広がる。
神宮寺、深く息を吐いて、
神宮寺「行こう」
急いでトイレを出ていく永瀬と神宮寺。

○同・ホール・下手側出入り口(夜)

心配そうな表情で平野、岸、髙橋が待っている。
ドアが開き、息を切らした永瀬と神宮寺が入ってくる。
平野「お疲れ。もう曲終わるぞ」
永瀬「・・・サンキュー」
平野「次は俺らの番だな」
平野、岸、髙橋、永瀬と神宮寺とハイタッチして、出て行く。
駆け足で奥へと進んでいく永瀬と神宮寺。

○同・下手側廊下(夜)

平野、岸、髙橋、全速力で自転車を漕いでいる。
『Doll』が廊下に響いている。

○同・ホール・中(インサート・夜)

涼しい表情で、衣装を変えた永瀬と神宮寺がステージ上で『Doll』を歌っている。

○同・男子トイレ・中(夜)

中に入ってくる平野、岸、髙橋。
便座には胸から血を流して、ぐったりしている小倉。
血が便座まで滴り落ちている。
平野、生唾を飲み込むと、ペーパーホルダーの上のバタフライナイフを手に取り、小倉の胸に突き刺す。
平野、ナイフを引き抜くと、無言で岸に渡す。
岸、震える手で受け取ると、思いっきり目をつぶり、まっすぐにナイフを突き刺す。
ナイフは腹部に刺さる。
岸、目を閉じたまま引き抜くと、返り血がはね飛び、岸の衣装のスソと右手袖の飾りボタンに、わずかにかかる。
岸「やば!」
平野、目を見開いて、
平野「バッカ、何してんの。血拭いといて」
平野、岸からバタフライナイフを取り、髙橋に差し出して、
平野「海人」
髙橋、無言で頷くと、バタフライナイフを受け取る。
髙橋「・・・ごめんなさい」
ナイフを小倉の心臓に突き刺し、引き抜く髙橋。
フッと力が抜け、目から一粒涙をこぼす髙橋。

○同・下手側廊下(夜)

ホールの方面に向かって、全速力で自転車を漕いでいる平野、岸、髙橋。
Jr.SPの『MADE IN JAPAN』が漏れ聞こえている。
平野、『King&Prince様 控室』と書かれた紙が貼られているドアの前で一度、止まると、ポケットからバタフライナイフを取り出し、部屋に投げ込む。
先を行く岸と髙橋を追う平野。

○同・ホール・中(インサート・夜)

Jr.SPがセンターステージで『MADE IN JAPAN』のパフォーマンスをしている。

○同・同・ステージ下(夜)

腹ばいで台車に乗り、そのまま上手側へ一直線に移動する平野、岸、髙橋。

○同・同・上手側ステージ袖(夜)

ステージ下からの階段を上がってくる平野、岸、髙橋。
スタッフ証を下げ、手に衣装を抱えた野本武彦(45)が険しい表情で近づいて、
野本「みなさん、どこ行ってたんですか。もう出番ですよ」
平野、笑顔を作って、
平野「ごめんなさい、ちょっとトイレ行きたくなっちゃって」
野本「すぐ着替えてください。これ衣装です」
両手に抱えた衣装を平野、岸、髙橋に差し出す野本。

○同・同・中(夜)

Jr.SPが『MADE IN JAPAN』のパフォーマンスを終える。
ステージが暗転する。
ステージが明転すると、衣装を変えた平野、岸、髙橋の姿。
『僕の好きな人』を涼しい表情で歌い始める平野、岸、髙橋。

○同・外観(夜)

大型LEDヴィジョンには『King & Prince ARENA TOUR 2022 ~Made in~』の文字。
建物の前には数台のパトカーが停車している。

○同・男子トイレ・中(夜)

入口には『立入禁止』と書かれた黄色いテープが貼られている。
古畑と今泉がテープをくぐって、入ってくる。

○同・同・個室・中(夜)

便座に座り、項垂れている小倉の死体。
古畑と今泉が個室前までやってくる。
中に入ると、死体に近づき、しゃがみこんで、死体を観察する古畑。
古畑「胸を4箇所と腹部を一箇所・・・。今泉君、被害者の身元、聞いてきて」
今泉「あ、はい!」
去る今泉。
古畑、床にはねている血痕を見る。
顎に手をあてて、考えこむ古畑。
今泉、手にメモを持ち、戻ってきて、
今泉「えーっと、ガイシャは小倉文康55歳。無職だそうです。髙橋海人の叔父・・・え、本当なの? この人、海ちゃんの叔父さんなの?」
古畑、顔をしかめて、
古畑「君は相変わらずうるさいなぁ。死亡推定時刻は?」
今泉「あ、はい! 19時から20時の間だそうです」
古畑「あ、そう」
死体をじっと見つめる古畑。

○同・楽屋・中(夜)

テーブルを囲んで座っているライブTシャツ姿の平野、永瀬、髙橋、岸、神宮寺。
永瀬「さっき警察が来てたわ。俺らのところにも来るかもな」
岸「俺たち、捕まったりしないよね・・・?」
神宮寺「大丈夫だよ。アリバイはティアラが証明してくれる」
平野「・・・それに、俺たちはこんなところで捕まったりしない」
髙橋「・・・みんな、本当にごめん・・・」
平野「海人、もう謝んな。お前は悪くない。俺らはやんなきゃいけないことをやっただけだから」
髙橋、俯くと頷く。
平野、一人ひとりの顔を見て、
平野「みんな、これは俺らを守る為の戦いなんだよ。だから、何か聞かれても堂々してよう」
頷く永瀬、髙橋、岸、神宮寺。
ドアをノックする音がする。
永瀬「どうぞ」
ドアが開き、古畑と今泉が入ってくる。
古畑「お疲れのところ、失礼致しますぅ。警察の古畑と申しますぅ」
今泉、嬉しそうに、
今泉「あ、今泉です。すごい、こんな近くにキンプリがいる・・・!」
会釈する平野、永瀬、髙橋、岸、神宮寺。
古畑「実は先程、こちらで殺人事件が発生しましたぁ。そのことについて、お話伺いたくて参りましたぁ」
永瀬「何すか。俺ら疑われてるんすか?」
古畑「とんでもありません。いやぁ、それにしてもお会いできて光栄ですぅ。先程のライブ、実は拝見していたんですぅ。私、いつも見てるんですよぉ。『キンプる。』。なんでしたっけ、あのぉ英語で料理する・・・」
神宮寺「『イングリッシュクッキング』、ですか?」
古畑「えぇ、そうですそうですぅ。岸さんの英語力が実にユニークですぅ」
岸、目を泳がせながら、
岸「ありがとうございます・・・」
平野「それで何なんですか? 俺らに聞きたいことって」
古畑「失礼致しましたぁ。実は事件の被害者ですが、小倉文康さん。髙橋さんの叔父さんだそうですぅ」
髙橋、黙って目を伏せる。
古畑「・・・驚かれないのですかぁ?」
髙橋「あ、いや・・・さっき、別の人から聞いてたんで・・・」
古畑「・・・そうでしたかぁ。あまりにも突然のことで、さぞかしお嘆きかと思いますぅ。お察ししますぅ」
髙橋「はい・・・ありがとうございます」
古畑「ところで、死亡推定時刻の19時から20時の間、皆さん何されてましたぁ?」
永瀬、表情を変えずに、
永瀬「何って、刑事さんも観てたんすよね?」
古畑「古畑と呼んでくださぁい」
永瀬「じゃあ、古畑さん。聞かんでも分かるでしょ」
古畑「えぇ。まぁ、一応形式上のものですのでぇ」
永瀬、うんざりした表情を浮かべ、
永瀬「・・・ライブっす。1万5000人が俺らのアリバイを証明してくれてます」
古畑「えぇ、そうでしょう。私もあなたたちがステージに立っている姿はしっかり見ていますぅ」
平野「じゃあ、俺らのアリバイは完璧ってことですよね。古畑さん」
古畑、不敵に笑って、
古畑「・・・完璧に見えるアリバイほど、目に見えない大きな穴があいてるものなんですぅ。では、失礼致しますぅ」
ドアを開け、出ていく古畑。
今泉、古畑の背中に向かって、
今泉「あ、ちょっと古畑さん・・・!」
今泉の目の前で閉まるドア。
平野、永瀬、髙橋、岸、神宮寺の方を振り返る今泉。
今泉「・・・あのー、サインもらってもいいですか?」
呆然とする平野、永瀬、髙橋、岸、神宮寺。

○同・ホール・上手側ステージ袖(夜)

周りの片付けをしている野本とスタッフ数人。
やってくる古畑。
古畑、近くにいる野本に、
古畑「あーすみません。あの、ここのスタッフの方でしょうか? 警察の古畑と申しますぅ」
野本「そうですけど。何です?」
古畑「キンプリの皆さん、何か変わったところありませんでしたかぁ? ライブの前や途中で」
野本「変わったところ・・・別にないですけど」
古畑「よーく思い出してください。どんな小さなことでも結構ですぅ」
野本、ハッとして、
野本「・・・そういえば、セトリが変わりましたね」
古畑「セトリ・・・?」
野本「セットリストです。ライブでやる曲の順番ですよ」
古畑「どこがどう変わったんですぅ?」
野本「元々はジュニアの曲の『太陽の笑顔』と『MADE IN JAPAN』の2曲続いてから、『ichiban』『Doll』『僕の好きな人』っていう順番だったんですけど、今日になって、『ichiban』『太陽の笑顔』『Doll』『MADE IN JAPAN』『僕の好きな人』になったんです」
古畑「つまり、彼らの歌わない曲が一曲置きに入る形になったと? その変更は誰がしたんですぅ?」
野本「メンバーの神宮寺さんです。セットリスト考えるのはいつも彼なんで。今回は結構、急な変更だったんですけど、セットの移動に問題ないからそれでいこうってことになって」
古畑、指を顎に当てて考え込む。
古畑「・・・他にはありませんでしたかぁ?」
野本「あとは・・・まぁ、トイレに行ってたなって」
古畑「・・・トイレですかぁ?」
野本「いつもは皆さん、ライブ中にトイレに行くことも、そんな余裕もないんですけど、今日は珍しく、連れ立って行ってましたね。戻るのがギリギリで結構危なかったんですよ」
古畑「それいつ頃でしたぁ?」
野本、腕を組んで、考えこみながら、
野本「たしか・・・『僕の好きな人』が始まる直前だったかな・・・? 『Doll』の直前も永瀬さんと神宮寺さん、トイレ行ってたって聞いてます」
古畑、ニヤリと笑って、
古畑「・・・ありがとうございましたぁ。お忙しいところ、失礼致しましたぁ」
去って行こうと踵を返す古畑。
数歩歩くと、野本を振り返って、
古畑「あぁ、最後に。進行表みたいなもの、あったらお借りしたいのですがぁ・・・」

○同・上手と下手を結ぶ連絡通路(夜)

進行表を見ながら、歩いている古畑。
古畑「うーん、ここが上手と下手を結ぶ通路・・・」
反対側から今泉が走ってくる。
今泉のライブTシャツにはメンバーのサインが入っている。
今泉「(走りながら)古畑さぁ~ん!」
今泉、古畑の前で立ち止まると、息を切らしながら、
今泉「・・・古畑さん、置いていかないでくださいよぉ・・・」
古畑、進行表を見ながら、
古畑「今泉君さぁ、悪いけど、ここから現場まで走って、上手側のステージ袖まで戻ってきてくれる?」
今泉「・・・今からですか・・・? 現場って下手側の一番奥のトイレですよね? だいぶ離れてますけど・・・」
古畑「いいから。はい!」
今泉、踵を返すと、猛ダッシュする。
腕時計を見る古畑。

○同・下手側出入り口・前(夜)

汗だくになりながら走ってくる今泉。
端に止められている自転車3台をちらっと見ると、首を振って、走っていく今泉。

○同・トイレ前(夜)

今泉、走ってくると、ドアにタッチして、戻って行く。

○同・上手側ステージ袖(夜)

腕時計を見ながら待っている古畑。
ヘトヘトになりながら、走ってくる今泉。
古畑「はい、お疲れ様」
今泉、古畑の隣に来ると、その場に倒れ込む。
古畑、腕時計を見ながら、
古畑「うーん、11分・・・」
進行表を見る古畑。
進行表には『ichiban 上手へ退場』と書かれている。
今泉「・・・これ、何の意味があるんですか・・・?」
古畑「犯人はこのステージ袖から、下手側の端のトイレまでダッシュした後、また戻ってきて、何食わぬ顔でステージに立った・・・」
今泉「それ・・・キンプリが犯人ってことですか・・・? やだなぁ、そんなワケないじゃないですかぁ・・・」
古畑「11分・・若さを考えたら、9分。そんなにステージに出ていない時間はなかった・・・」
今泉、ゆっくりと起き上がりながら、
今泉「だから言ってるじゃないですかぁ。キンプリはそんな人殺しをするような子たちじゃないですよ」
古畑、顎に手を当てて考え込む。

○同・下手側出入り口・前(夜)

ドアを開けて、出てくる古畑と今泉。
端に止められている三台の自転車。
古畑、自転車に気づいて、
古畑「今泉くん、これ、さっきもあった?」
今泉「あ、ありましたよ! でも、ズルしちゃいけないと思って、乗りませんでした!」
古畑、今泉のおでこを叩いて、
古畑「バカだねぇ、何でそんな大事なことを先に言わないの」
今泉「すみません・・・」
古畑「今泉くん、今度はこの自転車使って往復してみて」
古畑、腕時計を見ながら、
古畑「10時ちょうどになったら、上手から走って、ここで自転車に乗って、トイレまで行って。で、ここまで戻ってきて」
今泉「えー? またですか!?」
古畑「はい、ほら戻って!」
古畑、手をパンと叩くと、走っていく今泉。
今泉、走りながら、
今泉「もう嫌~!」

○同・下手側廊下・楽屋前(夜)

私服姿の平野、永瀬、髙橋、岸、神宮寺が出てくる。
自転車に乗った今泉が猛スピードで、横を通り過ぎる。
顔を見合わせる平野、永瀬、髙橋、岸、神宮寺。
髙橋「今のって、さっきの・・・」
岸「まさか・・・バレたりしてないよね?」
平野、鼻で笑って、
平野「岸くん、あの刑事に分かると思う?」
岸、首をかしげて、
岸「いや・・・」
永瀬「あいつは分からんけど、あの古畑って刑事なら気づきそうやな」
自分のスマホを平野、髙橋、岸、神宮寺に見せる永瀬。
スマホの画面には連行されるSMAP5人と並んで歩く古畑の姿。
永瀬「あいつ、SMAP兄さんたちのこと逮捕した刑事やったわ」
岸「マジで!?」
神宮寺「・・・一度、古畑のところに行って、探ってみる?」
平野「だな。あいつが何考えてるのか知っとかないと」
廊下の先を見つめる平野。

○同・下手側出入り口・前(夜)

古畑と汗だくの今泉がいる。傍らには自転車。
古畑、腕時計を見ながら、険しい表情を浮かべ、
古畑「7分・・・」
今泉、息を切らしながら、
今泉「だから・・・言ってるじゃないですかぁ・・・キンプリが人殺してるワケないですよぉ・・・」
古畑、進行表を取り出すと、顎に手を当てて考える。
平野の声「古畑さん!」
古畑と今泉、声のする方を見る。
平野、永瀬、髙橋、岸、神宮寺が歩いてくる。
今泉、目を輝かせて、手を振りながら、
今泉「あ・・・! さっきはみんなサインありがとー!」
古畑「皆さん、お帰りのところですかぁ?」
平野「帰ろうと思ったら、そこのおでこの刑事さんが自転車でバーっと通って行ったんで、何だろうと思って」
今泉「僕、おでこじゃなくて今泉・・・」
永瀬「なんか往復してるっぽかったすけど、何してたんすか?」
古畑「あー実はある実験をしてたんですぅ」
岸「実験?」
古畑「犯人は上手と下手を結ぶ通路を通って、上手から下手に来た後、ここに置いてあった自転車を使って、下手側のトイレまで行き、小倉さんを殺害したんじゃないかとぉ・・・」
髙橋、目に涙を浮かべて、
髙橋「・・・刑事さん、叔父さん殺したの誰なんですか・・・?」
神宮寺「海人・・・」
泣きながら項垂れる髙橋の肩を抱く神宮寺。
古畑「えー正直に申しますとぉ、犯人の目星はついていますぅ。ですが、その犯人には完璧なアリバイがありますぅ」
平野「・・・じゃあその犯人って、犯人じゃないんじゃないですか?」
平野、ニヤッと笑って、
平野「アリバイがあるってことは、どう考えても犯行は無理ってことですよね。他の人あたった方がいいんじゃないですか?」
古畑「アドバイスありがとうございますぅ。年を取ると、どうも頭が凝り固まってしまいましてぇ。昔はどんな難事件でも解決できたんですがぁ・・・あーSMAPさんの事件とかぁ」
神宮寺「そういえば、SMAP兄さんを逮捕したの、古畑さんらしいですね」
古畑「そうなんですぅ。あの事件も実に頭を悩ませましたぁ・・・まさか、メンバー全員が犯人だなんて思いもしませんでしたぁ」
表情が凍りつく平野、永瀬、髙橋、岸、神宮寺。
古畑「殺人事件というのは、一人で行うよりも数人で行う方がアリバイを作りやすいものなんですぅ。それも普段からチームの連携が取れていればいるほど、成功率はあがるでしょう」
古畑、平野の顔を見据えて、
古畑「今回の犯人も、単独犯ではないかもしれません」
呆然とする平野。

○空(夜)

満月に雲がかかっている。

○横浜アリーナ・ホール・上手側ステージ袖(夜)

古畑と今泉、立っている。
辺りを見回す古畑。
今泉「ねぇ、古畑さん。さっきもここ来たじゃないですか~」
古畑「バカだねぇ、絶対ここに何かあるはずなんだよ」
今泉「あの・・・せっかくなんで、僕、フェラーリ見てきてもいいですか?」
古畑「何? フェラーリって?」
今泉「古畑さん、知らないんですか? ジャニーズ名物」
ドヤ顔を浮かべる今泉。

○同・同・上手側ステージ下(夜)

ステージ袖からの階段を下りてくると、床とステージのわずかな隙間を覗き込む古畑と今泉。
隙間には台車が3つ置かれている。
今泉「あった~! これですよ、古畑さん! すごいなぁ、本物だ~」
古畑「これのどこかがフェラーリなの? ただの台車じゃない」
今泉「これに乗って、ステージ下をみんな移動するんですよ。舞台裏でもモチベーションを保つために、「フェラーリ」って、そう呼んでるんです」
古畑「みんなこれに乗って移動するの?」
今泉「そうですよ。ジャニーズのライブって移動が大変なんですよ。だから、これに乗って上手から下手に移動するんです」
古畑、今泉のおでこを叩いて、
古畑「まったく今日はいつにもまして、使えないねぇ君は。なんでそんな大事なこと早く言わないの」
今泉、おでこを抑えながら、
今泉「だって、フェラーリは事件に関係ないじゃないですか・・・それとも関係あるんですか?」
古畑、今泉を無視して、進行表を見ながら、
古畑「今泉くん、『ichiban』ってどんな曲だっけ?」
今泉「え? 『ichiban』はほらあれですよ。赤いジャケット着て、♪ナンバワ~ンいちば~ん♪ってやる・・・」
照明が一斉に落ち、スポットライトが古畑に当たる。
古畑、カメラに向かって、
古畑「え~、皆さんようやく真相に辿り着きました。犯人は間違いなくKing&Princeです。それも単独犯ではありません。メンバー全員が犯人です。私が何故、彼ら犯人だと確信したのか。ヒントはセットリストの順番と衣装ですぅ。古畑任三郎でしたぁ」

○同・外観(夜)

大型LEDヴィジョンは消灯している。
古畑の声「え~皆さん。戻って来ていただいて、大変恐縮ですぅ」

○同・楽屋・中(夜)

テーブルには平野、永瀬、髙橋、岸、神宮寺が向かい合う形で座っている。
傍らには古畑が立っている。
古畑「髙橋さんの叔父さんの件ですから、皆さんにもお話する必要があるかと思い、お呼び立てしましたぁ」
髙橋「・・・叔父さんを殺した犯人が分かったってことですか?」
古畑「そうですぅ」
神宮寺、神妙な面持ちで、
神宮寺「・・・誰なんですか、海人の叔父さん殺したの」
古畑、不敵な笑みを浮かべて、
古畑「え~・・・皆さんですぅ」
永瀬、鼻で笑って、
永瀬「ちょっと待てって、古畑さん。ふざけてんの? 俺らにはアリバイあるんすよ?」
古畑「え~その通りですぅ。皆さんには「ライブをしていた」という完璧なアリバイがありますぅ」
永瀬「だったら、無理やろ。ライブしてんのにいつ殺すの?」
古畑、進行表を取り出し、
古畑「皆さんのライブのセットリストを確認しましたぁ。何でも、急遽、ユニット曲とJr.曲を交互に披露する形に変更されたそうでぇ」
神宮寺「そうですけど・・・それが何ですか?」
古畑、神宮寺の顔を見据えて、
古畑「何故、変更されたんですぅ?」
神宮寺、平静を装いながら、
神宮寺「・・・パッと閃いたんです。ユニット曲とJr.の曲を織り交ぜながらのパフォーマンスの方が、色んな顔が見れて楽しいだろうなって。だから、スタッフさんにお願いして、変更してもらうことにしたんです」
古畑「果たしてそうでしょうかぁ? 本当は殺害する時間を確保する為ではないんでしょうかぁ?」
岸「・・・どういうことっすか・・・?」
古畑、進行表を見ながら、
古畑「皆さんが5人で出ている時間での犯行は不可能ですぅ。ですがぁ、Jr.曲である『太陽の笑顔』がフル尺での披露で約5分30秒。そして、『Doll』と『MADE IN JAPAN』、こちらがメドレー形式での披露で、合わせて約6分。この間、それぞれのユニットには空白の時間が生まれますぅ」
平野「つまり、『太陽の笑顔』の間に廉と神宮寺が、『Doll』と『MADE IN JAPAN』の間に、俺らが海人の叔父さんを殺したって?」
古畑「そういうことですぅ」
平野「でも、古畑さん。そんな時間があったからって、ホールの大きさ考えてくださいよ。5、6分で行って帰ってって無理ですよね?」
古畑「ジャニーズには、『フェラーリ』という伝統の移動手段があるそうですねぇ。『ichiban』を披露した後、それに乗って、上手から下手に移動、下手に移動した後、更に移動用として用意されている自転車に乗って、殺害現場まで移動。殺害し、自転車に乗って戻ってくる。このやり方なら」
古畑、スマホの画面を見せる。
画面にはストップウォッチの表示。4:51秒と表示されている。
古畑「5分かからずに戻ってくることができましたぁ。薬等を盛って眠らせておけば、殺害に時間もかかりませんし、犯行は可能でしょう」
永瀬「アホくさ。そんなん状況証拠やろ。第一、『ichiban』の後に殺したって証拠は?」
ドアをノックする音がして、赤いジャケットを数枚抱えた今泉が入ってくる。
今泉「古畑さん、借りてきました!」
永瀬、今泉の手に抱えられているジャケットを見て、
永瀬「それ、俺らの衣装やん」
今泉、古畑に向かって、
今泉「で、これ、何に使うんですか?」
古畑、平野、永瀬、髙橋、岸、神宮寺の顔を見据えて、
古畑「これがその証拠ですぅ。あなた達はこの衣装を着て殺害をする為に、『ichiban』以降のセットリストを変更したんですぅ」
表情が強ばる平野、永瀬、髙橋、岸、神宮寺。
古畑「あなた達は、どうしてもこの衣装のまま殺害しなければならなかった。何故なら、この赤い衣装なら、多少の返り血なら誤魔化すことができるからです」
古畑、今泉からジャケットを取ると、じっくりと見て、
古畑「おや?」
古畑、ジャケットの右手袖にある飾りボタンに顔を近づけると、不敵に笑って、
古畑「こんなところにぃ」
飾りボタンにはわずかに血痕が付着している。
古畑、ジャケットのタグを見ると、岸の方を向いて、
古畑「この血液、岸さんのでしょうかぁ?」
岸、項垂れると、目を潤ませて、
岸「・・・ごめん、みんな・・・」
顔を見合わせると、諦めたように力なく笑う平野、永瀬、髙橋、神宮寺。
髙橋「・・・岸くんのせいじゃない。元はと言えば俺のせいだから」
永瀬「決定的証拠残すとか、岸さんらしくてええわ」
神宮寺「大丈夫だよ、岸くん。笑って」
平野「最後まで反対してたのに、本当によくやってくれたよ。ありがとう」
嗚咽を漏らす岸。
古畑「・・・最後に一つお聞きしてもよろしいでしょうかぁ?」
平野「何ですか?」
古畑「刺殺は血が跳ねて、凶器も残る非常にリスクのある殺害方法ですぅ。何故、刺殺にこだわったんでしょう?」
平野、小さく笑って、
平野「・・・一人一回ずつ刺せば平等でしょ? 5人で罪を分け合いたかった・・・それだけですよ。俺ら、5人でKing&Princeなんで」
古畑、不敵に微笑んで、
古畑「さすが王様と王子様ですぅ。実に品と優しさのあるお考えですぅ・・・参りましょう」
古畑に促され、立ち上がると、部屋を出ていく平野、永瀬、髙橋、岸、神宮寺。
(終)


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