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もしもゾンビが151

ドアを開け灯りを点けた。キングサイズの大きなベッドのワンルーム。部屋も30畳はあろうかという広さだ。調度品も立派だった。

私はベッドに仰臥し大きな安堵の溜息をついた。やっと休めると思って嬉しかった。弾力のあるスプリングが程よく身体を抱え込む。布団は絹のような柔らかさだ。

真っ白な天井を眺めた。思い返せば色々なことがあった。病院では皆がゾンビ化し狂気の若者が人を殺め、天井裏に避難した。薬を手に入れて病院を脱出し、火事の中レンタカーをゲットした。

サービスエリアで一夜を明かした。都内はゾンビの山だった。疲労困憊でホテルに辿り着いた。ああ、本当に大変だった。よく頑張ったよ、うん。

さて、今後はどうしようか…。ナカムラは名古屋へ行く。イトウは家族に会いたがっている。ミキはヒュウガが気に入らない。ユウキ達はホテルに残る。

私も決めなくては。行くか留まるか。夫の顔を思い浮かべる。一目会いたい。無事を確認したい。愛犬達を抱き締めたい。

けれどあの蛇行運転で家まで持たない。気分が悪くなり嘔吐した。ミキとイトウの家に寄り、我が家に戻る。果てしない距離を感じ、溜息がでた。

無理だ。とても家まで帰れない。鬱病になってから気力だけでなく体力も奪われてしまった。

清潔な美しい部屋を見回した。ホテルで暮らす…。想像するだけで快適だ。今や離れることを拒んでいる心があった。

よし、決めた。家に帰るのは暫くここにいて英気を養ってからにしよう。

もしかしたら夫もここに避難しているかもしれない。都合よく考えている。所詮、自分が1番可愛いのだ。でも今はそれでイイ。

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