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調査報告 明治時代の建物を復元する

巳口市は決して歴史上で存在感を放つ市ではないが、歴史ある市ではあるので、明治時代からの建物が少しは残っていた。貴族の屋敷とか、何かの庁舎とかである。けれど、大抵のものは既に取り壊されてしまっている。例えば市役所は新しい大きなビルであって、煉瓦造りではない。旧市役所はもう解体されてしまっている。再開発はとっくの昔に始まって、終わってしまっていたのだ。今更、歴史的文化財は保存すべきだと言った所で、もう残すべきものは存在しない。

 けれど最近、巳口中央図書館を、元々そこに立っていた明治時代の建物に戻そうという事になって、工事が始まった。そこに昔何が建っていたのかは知らないが、跡地に中央図書館が建つくらいには大きな建物なのだろう。

 はっきり言って、復元して何になるのか、よく分からない。そんなに重要な建物なのだろうか。本当に重要だというのなら、私が知っていてもおかしくないではないか。それに、たとえ復元したとして、何になるというのだろう。教育的意義でもあるのか。全く分からない。

 恐らくは、誰かが非常に強く、再建を望んだのだろう。それは個人的な動機かもしれない感じに。表面は公共の福祉に適うようにカモフラージュされているにしろ。

 いいのではないか、それはそれで。結局、その人には私と違い、その目標を押し通すだけの気概があったのだ。動機を詮索する必要もないだろう。それが面白そうである事は否めないけれど。

 今も図書館は開いている。今後閉じる予定はない。復元は外見だけ、という事だろう。工事はあと6ヶ月で終わる。今は、工事をしている様子はない。不思議な事に、この手の工事というのは、一度もその様子を拝む事は出来ないのだが、期限には必ず完成しているのだ。だからこの工事も6ヶ月後に終わる。そして、意義のよく分からないまま、明治時代の建物が1つ、復元されるのである。


   可

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